第3話 ゴブリンの集団
顔を見合わせるメルクとセリム。
2人の脳裏に嫌な思考が過る。
メルクが何か言うよりも早くセリムが動いた。
悲鳴が聞こえた方へ向けて駆けていく。
「おい!」
舌打ちしたメルクが後を追いかける。
中々追いつけない。
セリムと比べレベルはメルクのほうが高い。追いつけないのは鎧の重量、小回りの効かなさが原因だった。
いち早く悲鳴の発生源へ着いたセリム。
周囲を観察する。
革鎧を着た女性が怪我をして蹲っている。
動かないことから気を失っているようだ。
少女の前にセリムよりわずかに年上の少年が立ちはだかっている。部分的な鎧を付け、丸盾を構えている。
少女を護っているのだ。
少年の前には10匹を超えるゴブリンの集団。
武器を手にニタニタしている。
少年――ラッツはセリムに気づき助けを求めた。
「助けてくれ!」
そこでメルクが追いついた。
状況を素早く把握したメルクはラッツと肩を並べ剣を構える。
「よく耐えたな。後は俺が引き受けるから少女を連れて下がっていてくれ」
「は、はい!」
ラッツはうなずくと少女を抱えて下がる。
メルクがセリムにも加勢を求めた。
「出来るなら手を貸してくれ」
メルクの実力ならばこの程度のゴブリンは敵ではない。
怪我人の存在がネックになっている。
怪我の具合が分からないため、早急に片付けアルスまで引き返そうと考えた。
セリムは抜剣するとゴブリンに襲いかかる。
地を這う低い姿勢から剣を切り上げる。
ニヤケ面が驚愕に染まる。
「まずは一匹…」
周囲に居たゴブリンがセリムを襲う。
眼が動く。
まるでそれ自体が別の生き物かのように。
カルラの許で学んだのは一対一の戦闘ではない。多対一の戦い方だ。
神敵者に味方は少ない。
敵だらけの中で戦う場面を想定して徹底的に鍛え上げられた。
手足を自在に操り攻撃を捌いていく。
時にはゴブリンの死体を盾に。
何体かメルクの元に抜ける。
さすがは都市警備部隊総隊長と言うべきか。
危なげなく斬り捨て背後の2人を護った。
数分後。
戦闘は終わり10体のゴブリンの屍が転がっている。
脳内に響く声を聞きつつ剣をしまうセリム。
メルクが感謝の言葉を述べた。
「助力感謝する。流石に数で押されては守り切るのは難しいからな」
「別に良い。俺にも収穫はあったからな」
疑問顔を浮かべるメルク。
モンスターを討伐しはしたがそれだけだ。
(経験値のことか? ゴブリンだとそこまで多くはないがレベル上げには重要だからな)
納得するメルクだが、違う。
神敵スキル
セリムの素性を知らないので当然わかるはずもないが。
そのまま都市アルスへ戻ろうとするセリム。
少女を介抱していたラッツが疑問の声を上げた。
「助かった。ありがとう。それで、討伐証明部位は取らないのか?」
「討伐証明部位?」
初めて聞く単語に疑問顔のセリム。
ソート村に居た頃は両親に心配をかけるためにモンスター関連の話はしなかった。
カルラの許に居たときも生活に不便はなく、そういった話は出なかった。
故にセリムは知らないのだ。
「ん? あんた冒険者じゃないのか?」
「これからなりに行く所だ。その前にまずは身分証がなくて都市に入れないんだがな」
「何だそりゃ」
メッツが呆れ顔になった。
メルクが桃髪の少女――メルを背負い都市アルスまで帰ることになった。
ゴブリンの討伐部位――右耳を貰ったラッツはほくほく顔だ。
「助けて貰っただけじゃなく、魔石や耳までもらってほんとに良いのか?」
「いいぞ。今は荷物になるしな」
セリムの持ち物は細々としたものを除けば剣と簡易なポーチだけ。腰のベルトに停めてある小さなものだ。
僅かな硬化と携帯食料しか入っていない。
血が出て嵩張るものなど入れる気にならない。
「ありがとな」
お礼を言ったラッツだが、その後何か良いたそうに口をパクつかせる。
「どうかしたか?」
「セリムは冒険者じゃないんだろ? ならどこでそんな力を付けたのかと思ってな」
冒険者などの武を嗜むものは己の手の内を明かさない。
聞かれることも嫌がる者が多い。
メルクも興味があるらしく前方の2人の会話に聞き耳を立てている。
「適当に森の中でモンスターを倒してただけだ」
「それだけ強いとやっぱ高レベルのモンスターを何体も倒したんだろ? 何を倒してたんだ? オーガとかか?」
「知り合いに鍛えて貰ったりはしたが基本はゴブリンが相手だ」
「ゴブリン!? あいつら経験値少ないだろっ。どれだけ倒したんだよ!?」
5歳からコツコツ倒し、ここ半年ではカルラの教えを受けた。強くならないわけがない。
強制進化薬の効果も大きい。
そこまでしてようやく今のセリムがいる。
普通にゴブリンだけ狩ってたらここまでに至ってない。
メッツの驚きはそのためだ。
「ま、俺にはやらなきゃいけないことがあるからな」
(まただ、この昏い目)
昏い表情を浮かべるセリムに危うさを覚えるメルク。
このまま進めば何か良くないことを招く予感を感じていた。
セリムはメルクの協力の下、都市アルスへ入都した。
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