第2話 試験
都市アルス警備部隊総隊長メルク。
彼のおかげで入都出来る可能性を得たセリム。
警備部隊予備戦力、つまるところ入隊試験のようなものだ。
試験を受けるためにメルクの後に続き森の中に入る。
城郭都市アルスの近辺には広大な森と山々が広がっている。
巨大な山が連なった連峰には高レベルの魔物が住む。
かつて龍が住んでいたという話がある。
事実かはともかく、そういった理由から龍連山脈もしくは龍連連峰と呼ばれる。
龍連山脈に住む高レベルモンスターが山から森に入り込む事も多い。
帰らずの森と呼ばれる危険な場所だ。
森の奥深く、山を登ったりしなければそれほど危険もない。
多少武に心得のあるものが頻繁に森の外縁部で狩りをしている。
つらつらと森のことを語るメルク。
メルクの後ろを歩くセリム。周囲を観察していた。
セリムが入都の試験を受けることになった時。
兵士が募集を募った。
兵士の元に集まった者は誰も居なかった。
今回はセリム1人だけだ。
それだけ身分証を持っていない人が少ないということだろう。
不信感を避ける。
そう決心したにも関わらず既に不信感を覚えられている。頭痛を覚えたセリムだった。
「とりあえずさっさと試験を終わらせようか」
「総隊長って割には随分と不真面目な発言だな」
「そう聞こえたかい? 正直な話、試験を設けるのは面倒だから嫌いなんだ。部下の手前そういうわけにもいかないがな」
見た目に反して軽い物言い。
楽な試験になりそうな予感を覚える。
「さっきも言ったが、最近のこの森は普段よりも剣呑な場所になっている。だから戦えるものは誰であっても喉から手が出るほどに欲しいんだ」
城郭都市アルスを含めた様々な都市は頑丈な壁に囲われている。
モンスターの被害を防ぐのが目的だ。
都市アルスはクロント王国領になる。
数ある都市の中で王都クロスとアルスは一際頑丈な壁に守られている。
王都は言わずもがな。
アルスは高レベルモンスターが襲ってくるかもしれない危険地帯にあるからだ。
過去に何度もモンスターたちに襲われた歴史がある。
撃退事出来るものの被害は無視できない。
圧倒的に戦力が足りないのだ。
メルクの戦力補給案はそれを補うものだ。
領主も取り組んで入るが危険地帯故に集まりが芳しくない。
「今回討伐してもらうのはゴブリンなどの最下級に分類される魔物だ」
モンスターが森から侵攻して来た時に一番弱いのがゴブリンだ。
ゴブリンも倒せないようでは戦力にはならない。
強制進化薬によって得た強靭な肉体。
半年間のカルラの手ほどき。
セリムにとってゴブリンなど赤子の手をひねるようなものだ。
森を進むこと数分。
目的のゴブリンを見つける。
手に棍棒を持った個体が1体。
拳にバンテージを巻いた個体が1体。
個体差はあれど普通のゴブリンだ。
「そんじゃ、俺はここで見てるから戦ってくれ。危なくなれば直ぐに加勢出来るように用意は整えとく」
言葉通りメルクはさがった。
一歩前に出たセリムがゴブリンに近づいていく。
腰の剣を抜き放つ。
茂みを挟んでいるためにまだゴブリンはセリムたちに気づかない。
ゴブリンが気づく。
瞬間、セリムは加速した。
風に揺られ木の葉が舞う。
パキと枝を踏みしめる音が2回。
3メートルの距離がまたたく間に埋める。
ローウから貰った剣を振りかぶり一気に下ろす。
ゴブリンを反応させず一撃のもとに斬り伏せた。
バンテージを巻いたゴブリンが殴りかかってくる。
飛びかかりながら放たれる拳。
セリムは手で払いのけた。
ゴブリンが体勢を崩す。
肘にて背中を叩く。
変な声を上げ地面に叩きつけられるゴブリン。
直ぐに起き上がろうとするがセリムの足がゴブリンを踏みつけた。
頭を踏まれたゴブリンが暴れる。
足に力を込め抜け出すことを許さない。
セリムはゴブリンにゴミでも視るような目を向けている。
敵とすら認識していない。
ゴブリンを踏み潰した。
セリムの脳内に無機質な声が響く。
魂を消化した合図だ。
戦闘にかかった時間は10秒未満。
セリムは剣に付いた血を払う。
メルクへ振り向き合格か、目線で問いかけた。
圧倒的な力を見せつけたセリムにメルクは関心していた。
だが――
(あの目は…)
何の感情も宿さない無機質な瞳。
危うい印象も抱いた。
とはいえ。
試験課題はクリアした。
セリムの入都に問題はない。
「合格だ。まさかその歳でこれほどの力を持っているとは驚いた」
メルクの顔に浮かぶのは正直な称賛と喜び。
手を振り都市アルスへ戻ろうと指示する。
メルクの後に続こうとした時。
森の中に一際大きな悲鳴が響いた。
2人は悲鳴が聞こえた方へ顔を向けると後顔を見合わせた。
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