第1話 都市アルスへ
カルラの許を旅立ち近場の都市、アルスに向けて歩くセリム。
道中あった村で休憩を挟み、丁度通りかかった商人の馬車に同乗した。
これからアルスへ仕入れたものを売りに行く馬車。周りには魔物対策に冒険者が3人。
恰幅のいいひげをはやしたおっさんがセリムに問うた。
「兄ちゃん、アルスへは何しに行くんだ?」
「仕事探しだよ。まずは冒険者にでもなって基盤づくりと思ってな」
「15歳くらいだろ? 結構しっかりしてんだな。冒険者は危険な仕事だから気をつけろよ」
他愛ない話をしていく中で聞き捨てならない話題が上がる。
神敵者の話題だ。
「半年くらい前に神敵者が出現したって話が出たろ? その少し前まではソート村も取引ルートに入ってたんだが変えざる得なくなったんだ。おかげで新たな取引先を開拓せにゃならん」
ため息を吐く商人。
セリムも内心でため息をついた。
覚悟してはいた。
神敵者が出現した情報が拡散されている。それも一般人にまで。
「神敵者の顔とかは分かってないのか?」
首を振る商人。
顔がバレていないのであればまだいくらでもやりようはある。
人目を避けて生きていくことには変わりはない。が、レベル上げもまともに出来ないのでは目的を果たせない。
「顔が分かっていようが分かっていまいがもうソート村には近づかんと思うけどな。兄ちゃんも近づかないほうがいいぞ」
「…何故?」
「神敵者が出たってだけでそこはネガティブなイメージがつくんだよ。それだけじゃない。そこらはしばらく神殿騎士がうろついてたりで碌なことがない。あいつらかなり横暴だからな」
愚痴を漏らす商人に冒険者の1人が窘めた。
「旦那。あんまり神殿騎士を悪く言わねぇほうがいいぜ。聞かれたら処罰されちまう」
「分かっているさ。けどよ、愚痴の1つくらい言いたくもなるさ。取引先が減って収入も減ったんだ。あんたらだってそうだろ?」
事実を突かれて冒険者は黙った。
「神殿騎士はそれほど権力があるのか?」
悪口を言ったくらいで処罰を受ける。それでは独裁国家のようなものだ。
セリムの問に意外そうな顔をする2人。
「知らないのか!?」と顔が物語っている。
「ユーリア教ってのはこの世界で唯一の宗教組織、つまり一神教なわけなんだよ。世界各地で信仰され、世界に大きな影響力を持ってる。近年はそれが行き過ぎて神敵者や教会に反抗したものは処罰の対象になってる」
「いつだったか… どっかの村で神敵者だって疑われた奴がその場で処断されたって聞いたな」
商人に続き冒険者の男が同意する。
「家族が泣きながらそいつを神殿騎士に差し出して自分たちの命乞いをしたって噂だ」
真剣な顔で聞くセリム。
村という閉塞された空間に居た。外の情報を得る手段がなかった為に初耳なことが多い。
(街に行くまでにある程度情報集めしとかないとだな)
変な不信感を持たれても面倒だ。
以降もセリムは聞ける限りの質問を繰り返した。
数日後。
アルスへ到着したセリムは商人と別れた。
入都するための列が商人などとは別なのだ。
入場列へ並ぶ。
ややあってセリムの番になった。
入場には身分証明書が必要だ。
セリムはそれを持っていない。
入場門番を努めていた衛兵が怪訝な目を向ける。
「悪いが身分証がない者を通すわけには行かない」
「それがないから作りに冒険者ギルドに登録しに行くって言ってんだろ」
「平時ならいざしらず今は無理だ」
ここへ来ても神敵者問題が尾を引きずっていた。
ここから近くの村で発見されたとあって警備が強化されている。身分が判然としない物を通すことは出来ない。
これでは生活基盤を作るどころではない。餓死してしまう。
言い争う2人に背後の列から怒気が立ち上る。主にセリムに向けてだが。
騎士もこのままでは仕事どころではない。
セリムを避け、後ろの者たちの審査することにした。
(これからどうするか…)
他の場所で作るか。
身分所が必要ない場所に行くか。
そもそも身分証が必要ない国があるのかも不明だ。
黄昏れているセリムのもとに1人の兵士が駆け寄る。
入場審査をしている兵士よりも一際豪華な鎧を着用している。
普通の兵士は基本が革鎧に部分的な鉄の鎧という出で立ち。
目の前の人物は赤みがかった全身鎧を着用している。
赤い短髪に浅黒い肌。堀の深い顔から覗く二対の鋭い双眼がセリムを見定めている。
「どうしたのだ?」
「メルク隊長!」
その場に居た兵士がメルクに向けて一斉に姿勢を正す。
敬礼する部下を手で制し、何があったのか説明を受ける。
「セリムと言ったな。説明を受けただろうが、あいにく今は身分が定かではないものを受け入れることは難しいんだ」
「だから、身分証がないから発行するためにここに来たんだよ」
厳つい見た目と違い柔らかな物言い。
毒気を抜かれつつセリムは兵士にした説明をメルクにも行なった。
メルクはセリムの頭から爪先を眺める。
「セリム。君はどれくらい戦える?」
急な話題転換。
曖昧な話に首をかしげる。
「もし君がこの都市にとって有益な存在になるであれば私――都市アルス警備部隊総隊長メルク=シュライグの名にかけて身分を保証しても良い。アルスに入り身分証発行する手続きを受けられるように取り計らう」
メルクの発言に兵士から制止の声が上がる。
「お前も最近森の気配が慌ただしいことは理解しているだろう? 戦力になる人間はいくら居ても問題にはならない」
「ですが…」
最近森でモンスターの動きがおかしいという報告が上がってきている。
それを理由にセリムの入都を許可してしまうのは前例を作ってしまう。
――メルクに保証人になってもらえれば入都できる、と。
セリムだけを特別扱いは出来ない。
「警備部隊の予備戦力として迎えれば良い。試験を施し合格できたものだけを通す。これならば問題あるまい」
結局何も変わってないような気が…
兵士は言葉を飲み込んだ。
これ以上言い争っても無駄だ。
「では、身分証がないもので入都する意志のある者。警備部隊の試験を受けて良い者を集めてきてくれ」
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