2章 城郭都市アルス

第0話 プロローグ

 セリムがカルラの元でお世話になってから半年が経過した。

 その間セリムはモンスターと戦いレベルを上げることに終始していた。

 

 神敵スキル覚醒後初めてモンスターを倒したときにある変化があった。

 脳内に無機質な声が響き激痛がセリムを襲った。痛みが収まると今までよりも力が漲っていた。

 レベルアップしたわけでもないのに。


 ステータスを確認したセリムは口角を釣り上げた。


 名前:セリム=ヴェルグ

 種族:人族

 年齢:11歳

 レベル:3

 体力:102→103

 魔力:106→107

 筋力:109→110

 敏捷:104→105

 耐性:102→103


 常時発動型パッシブスキル

 神喰獣フェンリル LV1

 筋力強化 LV2


 任意発動型アクティブスキル

 剣技 LV3


 僅かだがステータスが上昇していた。加えて持っていなかった筋力上昇というスキルまで得た。


「魂を消化 …魂に付随する情報の取得だったな。殺せばステータスがあがり、スキルがを奪えるってことか?」


 脳内に響いた声を反芻し思考する。

 考えても可能性だ。セリムは実際にもう一度ゴブリンを倒した所で確信した。

 

「肉体は魂を入れるための器って話を聞いたことがあるが、本当だったのかもな」


 魂を消化したことでスキルが獲得できるならば、スキルとはその人物の魂に刻まれた情報ということになる。しかし、ステータスは違うのではと考えていた。


 ステータスは肉体を強化する要素だ。

 直接魂に何か影響があるとは言えない。


「まぁ、いいか。力が手に入るなら些末な問題だしな」


 それからも1人モクモクとゴブリンを狩るセリム。

 

 ある時、体に違和感を覚えた。

 魂を取り込んでいるのでそれかと考えたが違った。


 内に潜む存在が少しずつだが大きくなっていたのだ。

 最初は分厚い壁越しに聞こえていた声のようなもの。それが僅かだがクリアになっている。


 3ヶ月目の事だ。

 微々たる変化しかったために気づくのが遅れた。


 心臓がある辺りに入れ墨のような模様な浮かんでいた。

 痛みどは無かったが徐々に大きくなっていることから神敵スキルと関係があるのだろう。


 半年でステータスは急激に上昇した。

 セリムに確かな自信と力を与えた。


 変化はステータスだけにとどまらず見た目にも及んだ。


 まずセリムは11歳を迎えた。

 祝福の儀が3月の末、そこから半年で誕生日を迎えていた。見た目の変化は年齢が上がったものではなく、カルラの薬が原因だ。


 元々はモンスターの強制的に進化させて進化先を調べるためのもの。決して人間が飲むものではないがセリムは飲用した。

 貪欲に力を求めるセリムにとっててっとり早く強くなれるものは都合が良い。


 強制進化薬。

 モンスター専用の薬だがモンスターが服用した場合でもリスクがある。薬の効果に耐えきれなければ体が崩壊する。

 

 セリムはその賭けに見事勝った。

  

 薬を服用した瞬間、細胞が破壊されては新たに作り出される。

 終わることのない拷問のような苦を耐え、強靭な肉体を手に入れた。


 身長が伸び顔つきも大人に近づく。

 見た目年齢だけで言えば15歳程度か。

 大人顔負けの細マッチョ。ストレスにより髪は白くなり、瞳は色素が薄れ赤茶色だ。


 それ以外にもカルラに魔法を習ったりと濃密な時間を送った。


 最初こそセリムが力をつけることに反対していたカルラ。

 セリムの目的は現行世界の破壊、つまるところ復讐。

 戦争の悲惨さを知っているkルラが止めるのは必然だった。


 しかし。


 セリムは可愛らしくねだった結果、カルラが折れた。


「んもぅ〜 仕方ないな! お姉ちゃんだからね。私は!」


 自身の行いに内心吐き気を催していたが強さのためと割り切った。


 そうして今日セリムは旅立つことになっていた。

 もはや日課となったゴブリン狩りを済ませる。風呂に入ると適当に荷物をまとめる。


「本当に行くの? もう少し居ても良いんだよ?」

「そう言ってくれるのはありがたいが、ここじゃレベルも上がんないからな。

 それに――

 あんたと居ると心地よくてこのままここに居てもいいんじゃないかって思っちまいそうになる」


 亡き弟とセリムを重ねているカルラ。

 余命な世話を焼き、何でもやってあげてしまう。

 

 セリムにとってここは楽園だ。

 やりたいことだけやってれば良いのだから。


「それじゃ目的を果たせない。決意が鈍っちまうだけだ。

 世話になった。

 ありがとな。

 こんな俺を見捨てず鍛えてくれて」

「うぅ…」


 今にも泣きそうなカルラに手を振りセリムはカルラの元から旅立った。


 目指すは近場の街。

 まずはそこで金を稼ぎつつ基盤を作る。


「と、その前に」


 セリムの足は近場の街とは反対方向に進む。

 最後に生まれ育ったソート村を見に来たのだ。


 半年前に神殿騎士と命がけの鬼ごっこを繰り広げた村は平和そのものだった。

 田畑を耕し、楽しげに会話する村民。

 そこにシトリアもハンスもローウの姿もない。


 何で自分たちがこんな目にあってるのに笑っていられるのか、セリムの中に苛立ちが生まれる。

 全てが憎い。恨めしい。


 悪感情に支配された心を深呼吸で落ち着かせる。


「ここからだ」


 全てを奪われた地。

 そして全てを奪い返すと誓いを立てる地。


「待ってろ。直ぐに行ってやる」

  

 街へ向けて森の中をあるき出した。


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