第20話 エピローグ
セリムが目を覚ますとそこは見覚えの無い場所だった。
丸太を組み合わせたログハウス。
部屋にはセリムが寝ていたベッドとテーブルに椅子が一脚だけ。殺風景な部屋だ
「どこだ?」
声を出しセリムは驚いた。
まるで何時間も叫んだ後のように枯れていた。
何があったのか最後の記憶を探る。
頭痛が起こり思考を中断する。それでも続けようやく何があったのか断片的に思い出した。
「スキルがバレて、それから騎士と…」
ハンスの死に様を思い出しセリムは吐き気を覚える。
口元を抑えるも我慢できず吐いてしまった。
どれだけ寝ていたのか。
胃の中には何もなく胃液だけが吐き出される。
吐き続け血が混じりだす。
液体を拭ったセリムはベッドから抜け出す。
部屋を出たセリムだったが体力が落ちていた。階段から滑り落ち、背を打ち付ける。
呻き声を上げてるとカルラが駆け寄ってきた。
「まだ動いちゃダメよ!」
「…カル、ラ… 何であんたが…」
「ここが私の家だからよ」
カルラの肩を借りてソファに横たわる。
何があったかカルラが説明する。
「森の中で倒れていた?」
「森が騒がしかったから見に行ってみたらセリム、君が倒れてたのよ。詳しいことは私にも分からないけど」
嘘だ。
森の荒らされ具合。セリムの治療をした際に見た体の状態。
それらからセリムと誰かが争ったようだと推測できた。
それだけではない。
カルラはセリムを見つけた瞬間にすぐに魔眼を使った。
セリムを覆う瘴気。その異常性に思い当たるものがあった。
(
神敵スキルに目覚めた者は世界の害。
もはや通常の人生を送るのは難しい。
現状、セリムはこれからのことについて考える余裕はない。それを知りながらカルラは尋ねた。
「どうって…」
「教会にバレたのならもう普通の生活は送れないと思いなさい。仮に出来るとしても耐えられる?」
神敵者が出現したことは直ぐに世界に広まる。
世界の話題は神敵者一色に染まることだろう。
結果として、聞きたくもないありとあらゆる誹謗中傷が囁かれる。
それを止めるものは誰も居ない。
心身的に弱りきったセリムはどうするべきか決められない。
安全を一番に考えればここに留まるのが一番だ。だが、そうなれば
――必ず戻る、そう誓った。
約束を守ろうとする意思とこれ以上傷つきたくない防衛本能がせめぎ合う。
「初めて会ったときにも言ったけど。ここに居ていいわよ。お姉ちゃんが面倒見てあげるから」
「それが、一番良いんだろうな… 俺にとっても世界にとっても」
カルラの住居を含めた一帯には様々な結界が張り巡らされている。
気配を消すのもその一種だが、カルラが使用すればその強度は桁違いだ。
ほぼ見つかることはないだろう。
「頭の中で誰かの声が聞こえるんだ。このままで良いのかって。復讐しろって」
目が覚めて以降頭の中で鳴り止まない誰かの声。
身を任せてしまえばきっと楽になれる。そんな予感がある。
「セリム、君はどうしたいの?」
カルラの問に終ぞ答えを出すことは出来なかった。
◇
カルラの家に来てから数日。
体の調子も戻り日常生活に問題がなくなった頃。
セリムは騎士と争った現場に足を運んだ。
「魔法か…」
初めてこの世界にきた時は喜んだ。
本を読み何度も自分ならどうするか想像した。それがこんな結果で叶うとは。
「俺は一体何の為に転生したんだよ… 母さんも父さんも守れず。ロー師匠に守られて。…力があれば」
圧倒的な力。
力さえあれば全てを覆せる。神敵者である力を使えばそれが出来るかも知れない。
そうなればきっと世界中を敵に回す。
確信があった。
(それでも)
セリムは決意した。
世界を敵に回そうと。
今逃げても何も変わらない。
きっとこの先不幸な目にあった時に力が無くて逃げる羽目になる。
どの道もう失うものは殆ど無い。
唯一の気がかりはセントレア家だ。
神敵者であるセリムを庇いさえしなければ問題ない。
「神殿騎士それから神。こんなくだらん世界をつくりやがって。壊してやる」
神敵スキルが有る限り悲劇は消えない。
セリムも狙われ続ける。であるならば世界そのものを変革させるしかない。
――神殺しだ。
地球の時は何も出来なかった。
後悔だけが残り今度こそは、と誓った結果がこのザマ。
もう理不尽に奪わせやしない。
「今度は俺が奪う番だ」
神敵スキルを受け入れる。
決意すると身を侵すような感情が駆け巡る。
復讐を促す声が脳内を満たす。
身を焼かれるような痛み。
胸を抑え歯を食いしばる。
心に復讐の炎が灯り世界が歪んでいく。
何もかもを破壊したくなる狂気。
口元が歪んでいくのがわかる。
どれくらい経ったのか。
神敵スキルを受け入れたセリムの雰囲気が変わった。
全能感とでも言うのか。力が奥から湧き上がってくる。
気分がいい。
今すぐに神殿騎士を殺しに行きたいがこらえる。
「力がいる」
セリムはカルラのところに戻り意思を伝えた。
世界を壊すと。
名前 セリム=ヴェルグ
種族:人族
年齢:10歳
レベル:3
体力:2→102
魔力:6→106
筋力:9→109
敏捷:4→104
耐性:2→102
スキル
剣技 LV3
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