第18話 絶望
カルラの元へ向けて森の中をかけるセリム。
しつこいほどの騎士の追撃に負傷した体での逃走。予想以上に精神をすり減らした。
昼過ぎに村を追われた。
本来なら夕方までにはカルラの元に着けるはずだったが時刻はすでに夕方。
「はぁ クソっ! このまま夜になったら完全に見えなくなる」
夜になり魔物に襲われれば対処のしようがない。
ゴブリンしか出ない森とはいえ、視界が遮られる夜では勝てるか怪しい。
休んでる暇はない。
体にムチを打ち立ち上がったセリムの前にいつの間にか騎士がいた。
「っ!」
疲労も忘れ勢いよく飛び退き剣を構える。
ローウから貰ったカバンにあった真剣だ。
「おやおや、いきなり敵意全開とは… 随分と私も嫌われたものですね」
黒髪黒目。清純な雰囲気を醸し出す青年だ。
しかし、軽薄な言葉と薄気味悪い笑みを湛えた姿、チグハグな感じを受ける。
「先程の祝福の儀以来ですが随分とお疲れの様子。ここは手短に要件だけ申すとしましょう」
「断る」
「おや? 私はまだ何も言ってませんが?」
「どうせお前も俺を始末しに来たんだろ」
肩をすくめる騎士。
「えぇ、まぁ上から神敵者及びそれに類するものがいた場合は始末せよと命は受けていますね」
眉を顰め、騎士を睨む。
勝機など微塵もないと理解しながらもセリムはどうやれば少しでも生きられるか思索する。
(油断してる今が逃げるチャンス。だが、追いつかれる。そもそもあいつはどうやって現れた?)
気づけばそこにいた。そうとしか形容できないほど目の前に男には存在感がなかった。まるで操り人形のように。
「君は何故、自分がこんな目にあっているのかご存知ですか?」
急な話題転換に眉を顰める。
「…スキルのせいだろ」
「その通り。神敵スキルを持った人物は世界にとっての脅威。しかし、世界にとっての脅威であれども始末できないわけではない。過去に行われた”邪神大戦”で神敵者を始末することには成功したのですから」
カルラから聞いた話を思い出す。
当時130万人ほどの人口の内100万近くを用いた戦争だ。
結果は連合国側の敗北。目的の神敵者は1人しか捕縛できず、それも自害されろくな情報を得られなかった。
僅かな間とはいえ、神敵者を制したのも事実。
「排除することが出来ると分かっていながら何故ここまで恐れるのか… 理由は簡単です。我らが神にとって唯一その身を害せる存在だからです」
「…神?」
地球でも神なるものの存在は語られてきたが実在したかまでは怪しい。
目の前の男の言葉は神が実在しているのだと決定づけるような物言い。
だが、セリムは知っている。この世に神がいないことを。
聖書を見つけた段階で神なる存在がいるか両親や知り合いに尋ねたことがある。その時に”いない”と否定されたのだ。
「神は存在しますよ」
セリムの怪訝な物言いに騎士の男は神の存在を肯定する。
(何だ、これ…)
騎士の男の言葉と同時に思考にモヤがかかったようになる。
神の存在に反論する言葉が浮かんでは言葉にならず消えていく。
口をぱくつかせる様は金魚だ。
「神敵者は毒と同じです。毒がある場所に行く場合、事前に薬などで対策をとるものでしょう? それと一緒です。
神にとっての毒は神敵者。事前対策として”毒”を取り除く役目が我ら神殿騎士に課された任です。ですが、神敵者の強大な力は神だけではなく無辜な民まで傷つける。存在するだけで争いの火種になるのです。故に世界にとっての害悪」
「何だよそれ。生まれてきた事自体が間違いこってことかよ…」
腰の剣を抜き放つ騎士。
闇の中にあって月夜の光で鈍く光る剣。
同じ輝きを放つ剣を持っているはずなのにセリムは自身の剣が頼りなく見えた。
「一言で言えばそうなりますね」
「ふざけんなよ。何でたかがスキル1つ持っただけで…」
「私に文句を言われましても。私はただ”神”の命に従う敬虔なる信徒ですから。神の命は絶対。何を差し置いてでも、犠牲にしても優先されるべきことなのです」
「狂信者が…」
回りくどい喋り方もそうだが、大仰な仕草に苛立ちが募る。
加えて理解できぬ物言い。心が黒く、黒く染まっていくのを自覚する。
「狂信者? はて、誰のことか…」
「てめぇのことだよ!」
怒りのままに斬りかかるセリム。
騎士は容易に受け止めると蹴り飛ばした。
「私を恨むのはお門違いですよ。言ったはずです。このような世になったのは我らが神にとって貴方がたが毒だからだと。であるならば、私ではなく神を恨むのが道理というものでしょう」
「黙れ! 神はぶっ殺す。でもなぁ、両親を襲い師匠を傷つけたのはお前ら神殿騎士だろうがぁ!」
再び騎士に襲いかかる。
力の限り剣を振り切り結ぶ。
騎士にとってみれば稚拙なセリムの剣技は簡単に受け流され何度も地面を転がった。
セリムはそれでも襲いかかる。
騎士はため息を吐く。
容赦なく腹を殴った。
鳩尾に入った拳は鎧の硬さも相まって相当なダメージを与えた。
セリムは地面に縫い付けられた。
「がはっ おぇ…」
「大人しくしてください。あまり暴れられると苦しむだけですよ」
睨むセリムに騎士は再度ため息を吐く。
何か思い出したように何もない空間に手をのばす。
伸ばした手の先、空間が歪む。
空間から引き抜かれた手にあるものをみてセリムは目を見開いた。
「…父さん」
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