第15話 祝福の儀
強くなることを考え実行する日々。
一度レベルを上げたことでもういくつ上げても同じ。その考えのもと、セリムは積極的にレベ上げに勤しんだ。
カルラの隠蔽の指輪がある。それもレベルを上げることへの一助になっている。
どの程度誤魔化せるか実際に試していないので不安だが。
そんな日々を過ごすこと5年。
セリムは10歳の誕生日を迎えた。
祝福の儀を受ける年齢だ。
ソート村を含めた田舎地方は10歳を迎えたその日に祝福を受けられる訳ではない。
王都やそれに次ぐ大都市ならば街の中に教会がある。そこで直ぐに行える。しかし、田舎には教会がない。
1年の最後、(地球での学校のように4月が節目にして分かれている)為に3月末に教会関係者が各村を訪れることになっている。
昨年にはルナが祝福の儀を受けている。
(確かルナは”敏捷強化”だったな)
祝福の儀で得られるスキルは個人の技量、才能によって異なる。
大体のスキルは後天的に獲得可能だ。
では、祝福の儀で得られるスキルも可能なのか。
答えは肯定。
ただ、決定的な違いがある。
祝福の儀で得られるスキルは本人にとって最も得意なスキル、もしくは才能があるスキル。
儀で得たスキルは後天的に得たスキルよりレベルが上がりやすく、レベルに見合わない力を発揮する。
ここで得たスキル如何によって将来的に大成するかが決まると言っても良い。
「頑張ってねセリム」
「俺の息子なんだ。絶対いいスキルに決まってら!」
両親――シトリアとハンスから期待が寄せられる。
親として子に期待を寄せてしまうのは仕方ない。しかし重い。重すぎる。そして恥ずかしい。
「大声で言わなくていよ! さっさと家に行ってて」
地球での年齢を加算すれば既に24。大学受験に親が応援に来たようなものだ。恥ずかしい。
軽く手を降り、テントの中に入った。
1つの村に1人必ず教会関係者が派遣される。
儀自体はそれほど時間はかからない。テントが張られるのは教会関係者含め護衛の宿代わりだ。
テントの中は簡易な机1つに椅子が複数。儀を受ける10の子どもだけがテント内におり、親などはテントの外に待っている。
セリムの名前が呼ばれる。
カルラから貰った指輪は付けている。
これを付けている限りはバレることはないだろう。
安心して教会神父の前の席に腰を下ろす。
好々爺然とした白髪に白い長ひげを蓄えた老人。騙すのは多少気が引けるが、それも次の一言で気が変わる。
「少年よ。儀式では貴金属類は付けてはならんことになっとる。ポケットにしまいなさい」
「…」
心の中でカルラのことを恨んだ。
何故それを教えてくれなかったのか、と。
実際はカルラがいた時代とルールが変わり知らなかったわけだが。
外さずに計測できないのか、粘るセリムだが神父は頷かない。
あまりにしつこく粘るセリムに神父の背後に控えていた神殿騎士が動く。
「さっさとはずせ。こちらもいつまでもお前だけにかかりきりになっているわけには行かぬのだ」
声からして歳を召した老人騎士だ。
老人はもう一方の若い騎士に外すように示す。
セリムは無理やり指輪を奪われた。
ステータス版に手を押し付けられる。
――時は来た。
来てしまった。
ステータス計測版から浮き上がるホログラム。
そこに”災厄の種”と表示された。
カルラからいつか消えるかもしれないと言われた。鵜呑みにしたわけではないがそうなることを望んでいた。それが裏切られた瞬間だった。
テント内にいた老騎士、神父の顔が嫌悪感に染まる。
初めて向けられる憎悪。嫌悪。悪意。敵意。
刺し貫くような、喉元に刃を当てられているような。死の気配を感じる。
セリムの体は自覚なく震えた。
スキルがバレる可能を懸念した際、セリムは覚悟を決めていた。だが、これはそれ以上だった。
今までに神敵者が行ってきた言動その全てがセリムへ注がれた結果だ。
セリムは指輪を拾うのも忘れその場を駆け出る。
勢いよくテントから出たセリムはテントの周りに集まっていた村民に紛れ込んだ。
(ヤバい ヤバい ヤバい ヤバいっ!)
どっと吹き出た汗で張り付く服にうっとおしさを覚える。
(クソっ! なんだよあれっ!)
これからどこに行けばいいか。目的が定まらない。
家に駆け込めばシトリアとハンスに迷惑がかかる。かと言って着の身着のままで森に入って生き残れる見込みはない。
いくらレベルが上がり強くなったといえど超人的な強さを手に入れたわけではない。
少なくとも武器が必要だ。
木剣は家にある。
セリムは渋々家に戻ることにした。
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