第14話 妹弟子

 セリムは修行日数を増やすことにした。

 元々は週3ほどのペースだった。

 ”災厄の種”それがセリムの心に焦燥感をもたらした。

 ローウとの修行がない日も筋トレする時間などを増やし、出来る限り鍛えた。


「ちょっとやりすぎたか…」


 倦怠感のある体を引きずりローウの元に着いたセリム。

 持っていたタオル布切れを落とし変な声を出す。


 セリムの指差す先、そこにはルナがいた。ローウに教えを受け木剣を振っている。


「嬢ちゃん、中々筋がいいぞ。剣だけじゃなく足にもちゃんと意識を向けろよ」

「はい!」

「あぁ? ちょいちょいちょい… 何で居んだよ!」


 集中しているルナはセリムの声が聞こえない。

 ドスドスと近づくセリムに気づいたローウが手を上げる。


 ローウはルナに指示を出すとセリムのもとまで歩み寄った。

 すぐ近くで二人話し込んでいればルナの気を散らしてしまうからだ。

 

「よっ! どうしたよ、そんな声上げて」

「こんにち…ってそうじゃなくて、何でルナがここにいるんだよ!?」

「随分と乱暴な言葉使いになったな」

「あははは…」 


 今までと違う言葉遣いを指摘され言葉に詰まる。

 驚いてつい素が出てしまった。

 

「もう”僕”とか言うのが恥ずかしい年頃か? 子どもってのは成長が早いなぁ。儂が歳を取るわけだ」

「何を1人で納得してるのか知りませんが、ルナがここにいる理由を教えて下さいよ」


 セリムは落ち着いた口調に戻した。

 ローウは素振り中のルナを見ると片頬を上げてニヤニヤしだす。


「お前さんの力になりたいんだとさ」

「はい?」


 鈍感め… 

 ローウはセリムを見てため息を着いた。



 時は数日前に遡る。

 間違って森に入りゴブリンに襲われたあの日。身を呈しセリムはルナを護った。

 

 ルナはセリムが死んでしまうのではと恐怖を覚えた。

 相手はゴブリン。大人ならば問題なく対処出来るが、子供にとっては強敵。


 ソート村は森に近いところにある。親などから口酸っぱく魔物の危険性について教わる。

 まるで暗示の如くよく言われる為にルナの中で魔物に対する恐怖が大きい。

 

 無事帰ってきたセリムを見て涙腺が崩壊したのはそのためだ。


 ルナは想った。

 お姉ちゃん(自称)が護ってもらうのは良いのか?

 否である。


 弟を護る為に強くならないと。

 結果ローウの元で教えを受けることに決めたのである。


 ローウからその話を聞いたセリム。

 普通なら嬉しいものだが、曖昧な表情を浮かべた。

  

「嬉しくないのか? 女の子が男のために強くなろうとしてんだぞ? ありゃ完全にお前さんにホの字だな」

「嬉しくないわけではないですけど…」


 少し前までのセリムなら諸手を上げて喜んだ。1人で魔物と対峙するよりも2人のほうが効率面でも安全面でも有利に運べる。


(災厄の種。これがなければ、だが)


 災厄の種が芽吹けば周囲に悪影響を及ぼすことになる。

 それがどの程度の規模かは不明。カルラの説明を鵜呑みにするのならば世界規模での話になる。


(神敵スキルになるとは限らない。だからってならない可能性がないわけじゃない)


 両親――シトリアとハンス。

 幼馴染のルナ――セントレア家。

 剣の師――ローウ=タンク。


 育ててもらった恩。自分を想ってくれること。教えを受けた恩。

 

 一緒にいれば不幸になるのは火を見るよりも明らか。

 セリムはいずれは別れなければと考えていた。


 もう少し前にスキルがわかっていれば悩むこと無く別れることが出来た。

 5年と言う月日はセリムにとって情を覚えるには十分な期間。


 分かれることを意識した途端胸の奥が傷んだ。


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