第13話 災厄の種

 帰りたい。

 残念すぎる美人に頭痛をこらえるセリム。


 まだ聞きたいことを思い出し浮いた腰を下ろした。


「祝福の儀以外に自分のステータスを確認する方法はあるのか?」

「私がココに来る前の話だから、あれだけど。冒険者ギルドにはあるんじゃない?」

 (やっぱり冒険者ギルドあるのか)


 異世界転生小説で散々見かけた設定だ。

 小説のような荒くれ者たちの集団はいるのか、聞いてみたい衝動を抑える。 


「それでどうすれば測れる?」

「冒険者登録の時、あとは登録したらいつでも測れたはず」

「登録しないと測れないわけか… 他の場所では測れないのか?」


 即答で「ない」と答えるカルラに肩を落とすセリム。

 レベルが上った感覚はあるが実際に見て確認したい。スキルに関しても同じだ。何を持っているのか興味がある。そもそも持っているかわからないが。


「そんなに知りたいならお姉ちゃんが視てあげるけど?」

「…ん? 視る?」

「そ。相手のステータスを視ることが出来るスキルがあれば視えるのよ」


 先程の挽回とばかりにウキウキでステータスを視るカルラ。


 両目の紅眼に幾何学模様が浮かんでいる。鑑定のスキルではなく、別のスキルだろう。


 (魔眼か?)


 前世の知識からあたりを付ける。

 

 羊皮紙にサラサラと書き記すカルラの手が止まった。

 顔を険しくする。


 「セリム、あまり気落ちしないでよ?」


 心配気な表情を受けべ羊皮紙を差し出してくる。

 カルラの言葉の意味がわからなかったが、羊皮紙を受け取りスキル欄を見た瞬間に理解した。



 名前 セリム=ヴェルグ

 種族:人族

 年齢:5歳

 レベル:3

 体力 :20

 魔力 :6

 筋力 :9

 敏捷 :4

 耐性 :2


 スキル

 災厄の種


 スキルを確認出来た喜びもステータスを知れた嬉さも吹き飛ぶ不吉な名前。


 「災厄の種…?」

 

 カルラが言いづらそうにしながら説明する。

 

 災厄の種。

 100万人に1人の確率で現れる希少スキル。

 ありとあらゆる厄災を溜め込んだ種子。

 それが芽吹く時世界に災いが降り注ぎ戦争が巻き起こり、悲劇が生まれ、憎しみが育つ。

 新たな災い――神敵スキルになり得る可能性を秘めたスキル。

 

 小難しい説明だが理解するのにそれほど時間はかからなかった。

 最後の一文、それだけ分かればこのスキルがどんなものか理解できた。


 神敵スキルに関しては先程聞いたばかりだ。その力の強大さも振りまく悲しみも。

 まさかそれが自分に降りかかるとは… 


 唯一の救いはまだ神敵スキルではないこと。芽吹く可能性を秘めているだけだ。

 

 神敵スキルを持てば世界中から狙われ、母親探しなどのんきに出来ない。

 

 「このスキルはどうすれ消せる?」

 「スキルを消すことは出来ないわ」

 「神敵者になるのをおとなしく待てってことかよ!」


 拳に力が入る。

 

 「言ったでしょう。それは可能性。実際見たことはないけど自然に消えたって話は聞いたことがあるわ」


 神敵スキルが生まれる仕組みは解明されていない。

 一節によると強い感情の発露がトリガーとなっている説がある。

 データが無いためあくまで説止まりだ。

   

 気休めだが、カルラの言葉にセリムは力を抜いた。


 カルラは席を立ち、後ろの棚から1つ指輪を差し出す。


 「これを付けて」

 「なんだよこれ?」

 「スキルを隠蔽する魔道具よ。もし10歳の祝福の儀で”災厄の種”が見つかれば教会含め国があなたを確保しに動くわ。過去にそういう事例があったから間違いないわ」

 「…そいつはどうなったんだ?」


 どうなるかなど聞かずとも理解出来た。それでも聞いたのは否定してほしかったからだろう。


 「殺されたわ。神敵スキル解明という名目の元行われた人体実験で」

 「…最悪だ」


 今日ステータスのことを聞かなければこんな気持ちにならずにすんだ。だがそれは先延ばしにほかならない。

 寧ろ今知れたことに感謝するべきだ。

 祝福の儀で見つかっていれば国に捕まりモルモット。


 セリムはより一層力が必要だと感じた。


 (隠蔽の指輪があったとして隠し通せるのか?)


 過去にスキルで隠蔽して見つかったやつがいると聞いたのはついさっきだ。


 「これでも私はそれなりに腕は立つから大抵はなんとか成るはずよ。ダメだった時はここに来なさい。その時は一緒に暮せばいいじゃない」


 「お姉ちゃんとして面倒見てあげる」暗い雰囲気を吹き飛ばすように言うカルラ。

  

 残念な雰囲気を発するカルラに思わず苦笑が浮かぶ。


 「そう、だな…」


 その後セリムは森で見た鍛冶屋のおっさんの話の聞きたいことを聞いた。カルラはわからないと首をかしげ、その日は家路についた。

 漠然とした不安を懐きながら。


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