第12話 神敵スキル

 星の数ほどあるスキルの中で最も強力で最悪なスキル。

 ――神敵スキル。


 全部で7つあるそれは以下の通り。


 ・傲慢

 ・憤怒

 ・嫉妬

 ・怠惰

 ・強欲

 ・暴食

 ・色欲


 人々を害し世界に災いをもたらす危険スキルと本に書かれている。


 危険なスキルであることは分かった。実際にどういう風に危険なのかが知りたい。セリムはそこのところを聞いた。


 カルラの回答はシンプルだった。

 

 ――逆らうことの出来ない絶対的な力


 神敵スキルをそう評した。


 「そう言われてもピンとこないんだが…」

 「少し昔話をしましょうか」


 ステータスの話から逸れていると感じたセリムは話を切った。カルラは「関係ある話よ」と構わずに語りだす。

 

 「今が確か聖暦615年だから、だいたい400年とちょっと前ね」


 聖暦198年。春先のこと。

 この時代は聖暦600年に比べてモンスターの驚異というものが大きかった。

 ちょうど季節は春ということで冬眠していたモンスターも眼を覚ます。

 どうすれば人類がより繁栄できるのか、各国の王の悩みのタネである。

 

 そしてもう1つ。


 モンスターと並んで、いやそれ以上に厄介な悩み――神敵者の存在があった。

 

 この時代は弱肉強食という風潮が600年現在よりも強い。

 神敵スキルを持っていると言うだけで虐げられてきた神敵者にとって実力社会は都合がいい。

 

 鬱憤を晴らすように街を襲い、森を燃やした。


 互いが互いを憎みついに戦争にまで発展。


 聖暦198年夏。 

 各国は連合を組み、神敵者打倒のもと戦争を起こした。

 連合軍100万対神敵者3名とその部下30名。


 後に邪神対戦と呼ばれる戦争である。


 当時世界の人口は多く見積もっても130万ほど。

 総人口の8割近くを投入した戦争。


 連合軍は敗北した。


 たった33人に90万もの兵が殺された。

 神敵者3名の内2名は逃走。内1人を捕縛、のちに自殺。30人の部下は全員死亡。


 当時クロント王国魔術師団団長として神敵者捕縛にに大きく貢献にしたカルラ。だがそれをセリムに誇ることはない。

 全体で見れば誇れるようなものでもない。


 セリムは脳が理解を拒んでいるような感覚を覚えた。

 あまりに大きすぎて漠然とやばいとしか理解できない。

 

 「たった33人を倒すために90万が死んだ? 何だよそれ…」

 「それが神敵スキルを持つ存在、神敵者の力よ。神敵スキルに関してはほとんど情報がないけど”傲慢”に関してはあるの。声にしたことを実現するらしいわ」


 戦争以降、神敵者に対する恐れや恨み、怒りは強くなった。

 見つけ次第拷問にかけて殺すことが各国の共通認識なる。


 そこで出てくるのがステータスだ。

 

 「10歳まで魔物を狩るのを禁止にしてるのは、ステータスを誤魔化されないようにするためじゃないかしら?」

 

 レベルが上がればスキルを入手することが出来る。

 どのスキルがいくつから獲得できると言った明確な決まりがない。レベルが2になれば手に入る人もいれば逆もいる。


 各国が恐れたのはステータスを隠蔽ないし改竄するスキルを手に入れられてしまうことではないか。

 

 祝福の儀でスキルを授けると言う風にすれば自然とステータスの確認もできる。

 自前でステータスを確認する方法がない以上レベルさえ上げてスキルを取られさえしなければごまかしようがない。

 神敵スキルが見つかれば、損害をほとんど出すこと無く、憂いの種を排除できる。

 

 カルラの考えはそういうものだった。


 (隠蔽もしくは改竄されるスキルを取られることを恐れて魔物を倒させないルールを作ったと)


 では、レベルアップしてもスキルを得なかった場合はどうなのか。

 そもそもスキルを得たら何かアクションがあるのか、何もなく、ただ勝手に追加されるのか。

 あまりに情報がたりない。セリム自身で判断できない。


 「祝福の儀の時に来る教会関係者によるんじゃない? レベル上げ自体が禁止されてるってのを考えると、レベ上げしたことで何かを隠そうとしたとか、面倒な取り調べは受けると思う」

 「マジかよ…」

 「安心して」

 

 何をどう安心すれば良いのか。いくら昔活躍した人物でもこんな辺境に住む人物がどれほどの影響力を持つのだろう。

 セリムは期待せずカルラの言葉を待った。


 「お姉ちゃんが悪いやつは魔法でやっつけてあげる!」

 「…」


 物理的な力で相手を倒す気らしい。


 (なんで見た目も経歴もすごいのにこう中身が残念なんだこの人…)


 頼って頂戴と豊満な胸を張るカルラ。

 セリムはため息をついた。

 

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