第11話 不死の魔女
圧倒的強者を前に死すら覚悟したセリムだったが、よきせぬ展開を迎えた。
「驚かせてごめんね」
そう言って銀髪紅眼の女性はセリムの前に腰をおろした。
彼女はカルラと名乗った。
現在セリムがいるのは森の中にあるログハウス。
ソート村から遠く離れた、人の気配をまったく感じられない場所にある。不自然に開けた空間はカルラが手を加えたのだろう。
カルラに案内されログハウスに連れられたセリムだが、いつでも逃げる準備だけはしていた。
あまりに素性の知れない人物。それもこんな場所にいるということは何かしら黒い理由があるからではないか。
(とりあえず脳内シュミレートだけはしとくか)
悪魔。
魔王。
そんな雰囲気を持つ人物から逃げられるかは定かではない。可能性は針の穴ほどもない。それでも逃げられることに賭けた。
セリムの警戒心を感じたカルラ。どう解きほぐそうか迷う。
カルラは奥の棚から写真立てを持ってきてセリムに見せた。
写真に写っているのは今と姿の変わらないカルラと黒髪の少年。カルラは20代前半。少年は15歳くらいか。
(随分古い写真だな。の割にはカラー… 何年前のだ?)
写真があるのも驚きだが、それ以上にカルラの変わらなさに驚くセリム。
写真に写る少年はどこかセリムに似ていた。
セリムのちょうど十年後と言われれば信じてしまいそうなほどだ。髪も瞳の色も同じ。
以前鍛冶場でガラスで自身の顔を見たことがある。
セリムは自身と似てる事に気づいた。
「ルシア…」
やけに耳に残っていた言葉を口ずさむ。
「ルシア=バーミリス。私の弟よ。森で君を見かけた時にあまりにも小さい頃のルシアに似てたからつい名前を呼んでしまったの」
懐かしむような雰囲気。セリムを害する気は感じられない。
セリムもそれを理解し緊張をほぐす。
(ん? ルシア=バーミリス? 姉弟ってことはカルラもバーミリスだよな)
どこかで見たような既視感がある。
どこだったかは思い出せない。
「もう何百年も前のことなのに未だに弟のことを引きずるなんて… 情けないとは分かっているんだけどどうしてもねぇ」
「…何百年!?」
言葉を信じるならばカルラは3桁の年になる。
しまったという顔をするカルラ。
「あ、あれよ! 私そこまで年いってないからね!? ほら見た目ピチピチじゃない!」
歳のことを気にしてるらしい。
何いってんだこいつ。
セリムが気になったのはそこではない。
「そこじゃないんだが… 何で何百年も生きてるかってとこだよ」
ズレた論点で騒ぐカルラに気が抜ける。セリムの言葉使いは素に戻っていた。
盛大な自爆をしたカルラは「
「勝手に弟にするなよ」
「だって、すごっく小さい頃のルシアに似てて可愛んだもん!」
「鼻の穴を広げて近寄るな! 手をワキワキするなっ!」
もはやおっさんのようだ。
咳払いをして気をとりなす。
「私が長生きの理由はちょっと特殊な事情があるの。あまり詳しくは言えないけどね。何か知りたいことがあれば大抵は答えられるわよ」
なんでも答えるわよ!とグイグイと詰めてくるカルラを押し返す。
最初にみせた畏怖すら抱かせるオーラはどこにいったのか。森に忘れてきたのなら取りに行かなければ。
(聞きたいことか…)
何かあったかと考えステータスに関して聞くことにした。
セリムは聖書の内容を大まかにカルラに伝える。
「なるほど。私がいた時とはステータスに関する扱いが違うのね」
「扱いが違う?」
「私がここに引きこもる前にはそんな話は聞いたことがないわね」
カルラの話が本当ならばここ数百年で教会は新たなルールを制定したことになる。
なぜ、10歳という境目に祝福の儀が執り行われるのか。
祝福を受けるまで魔物を狩ることが禁止にされる理由は何なのか。
「詳しい理由までは生憎私にはわからない… あ、でも憶測でいいなら考察できるよ!?」
セリムから使えねぇ的な視線を受け、慌てて言葉を継ぐ。
姉(自称)としては頼ってと言った矢先にこの様では姉として威厳がない。いつからセリムの姉になったのか、という疑問はともかく。
背後の本棚から黒い表紙の本を取り出す。
表紙にはフードを被ったローブ姿の魔術師が7つの卵に魔法を掛ける姿が描かれている。卵は全部で7つあり、それぞれに異なった模様が刻まれている。共通しているのはヒビが入っていることくらいか。
「たまたま買った本なんだけど、確かこれに書いてあったはず」
カルラは人間の枠を外れ、不老不死に近い状態にいる。食事しなくても生きられる。だからこそこんな人里離れた場所にいるが、たまに街に出かけることがある。その時に本を買っていた。
カルラの開いたページを見る。
「神を貶める最悪なスキル――神敵スキル?」
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