第4話 ユーリア教会

 本を多く読んできた”城木宗太”としてこの本の生々しさは読むのを忌避するほどだった。


 何度途中で手を止めたか。


 情景や背景描写が嫌にリアルすぎるのだ。

 まるで実話が書かれているかと錯覚したほどに。


 ふと、セリムはこんな話をどこかで読んだことがあるようなデジャヴを覚えた。 


「どこだ?」


 本を多く読んできたことが仇となり中々思い出せない。

 地球では似たような話が多く散見される。

 ただの思い過ごしかと思考を止めた。

 そこでこの家に唯一ある本が目に付いた。


 この世界において本はかなり高価なものだ。

 地球において1445年までに考案された活版印刷技術。それ以前の文明がこの世界である。


 基本手書きで写す。

 手間と時間が掛かりすぎるのだ。


 そんな世界では本などそこまで普及しない。だが、どの家庭にもあるといっていいほど普及している本が一冊だけある。


 ユーリア教の教えを説いた聖書である。


 ユーリア教に入信した信徒に、さらなる布教をさせる目的で写本させることで大量に出回っている。


 ユーリア教はこの世界唯一の宗教である。内部の派閥はあれど、他宗教ともめ事を起こし、布教に支障をきたすこともない。

 布教するには最高の環境である。


 ユーリア教が配る聖書、その中に書かれている話、それが先程読んだ童話に似ている。

 多生の言い回しや表現の違いはあれど、話自体はにている。


「偶然の一致? にしては…」


 もしかしたら、この世界では有名な話なのかもしれない。

 だとすれば両親が知らないはずはない。童話本をプレゼントに選ぶだろうか? 


「いや、あの2人なら知らないか?」


 生まれて5年、セリムは祝福の儀以外で宗教の話を聞いたことがない。


 聖書を貰ったはいいものの、読まずに置きっぱなしている。ありそうな話だっだ。


 この話を誰かに聞いて確かめたい。

 残念ながらそんなことを聞ける知り合いはいない。

 殆ど家に引きこもっているのだから。




 誕生日の翌日。

 一階に降りると珍しくハンスがいた。

 

 「お! 起きたか!」

 「…ん」

 

 過去のことから一方的に壁を作っているセリム。

 中でも父親であるハンスには顕著だった。


 城木宗太が生まれたとき、父親はいなかった。

 だからどう接すればいいのか迷いがある。

  

 壁があるのを両親ともに理解している。それでも我が子を愛さない理由はない。


 朝食を食べようと席についたセリムにハンスが一本の木剣を差し出す。


 「なにこれ?」

 「剣だよ。正確には木剣だけどな」

 「それは、みればわかるよ。そうじゃなくて何で木剣を渡すのか、理由だよ」

 「あ〜理由な」


  どう説明すればいいのか顎に手を当て考えるハンス。


 「お前ももう5歳、大きくなれば村を出ていくこともあるだろう。外には魔物がいる。戦うす術を教えておこうと思ってな」


 今まで父親らしいことをしてこなかった分、少しはかっこいい姿を見せたいという事らしい。


 この提案はセリムにとって悪くない。

 魔物がいるのはハンスの仕事柄知っていた。


 ハンスはソート村自警団警備部隊総隊長を務めている。

 22歳と言う若さでの大役、それだけ優れている証拠だ。


 普段は村周辺の魔物を間引くことをしており、家にいることは少ない。

 仕事の方は良いのだろうか、疑問を覚えるセリム。


 「俺が教えるのは基本的なことだけだ。それ以降は俺の師でもある人に教えてもらう」


 どうする?と聞いてくるハンス。

 魔物がいると言えども無理に鍛えることはできない。

 セリムは特に迷うことなく頷いた。

 

 

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