(4)獣人の戦

 獣の群れが躍動する度に、咆哮が響き渡った。まるで別の大陸に来たような、そんな印象すら持ってしまう、妙な戦だ。

 だが、戦法はただ突っ込んでいくだけではなく、恐ろしく合理的だった。そこだけはえらく人間的だと、張世平は思いながら、双眼鏡で戦況を見やった。


 まず亀に変身した者を、熊に変身した者が盾にしながら突き進む。甲羅を盾の代わりとしているのだ。

 如何せん機刃の大きさ並みにある盾だ。甲羅の硬さも尋常ではないのか、防衛している機刃や、城に設置された機関銃の攻撃を、完全に弾いている。


 そして、それらが城門に近づくと、熊は亀を捨て、その腕で城門を殴り飛ばす。

 更にそこに後方から猪(と言われてもこれも機刃並の大きさがあるが)が突っ込んだ。

 それで、いとも簡単に鋼鉄製の城門がへし割れた。


「よし、黄蓋ようやったで! おどれはそのまま城内撹乱! 全軍、突っ込むで!」


 孫堅がそう言うと、様々な巨大な獣たちが城門から突っ込んでいく。

 孫堅は、城に入るやいなや、槍を構えていた歩兵を一凪で五人ほど一閃した。

 更に突っ込んできた人間は、噛み砕いて真っ二つにした。


 機刃が数機、城壁から降りてきた。だが、あの三機の機刃は確認されていない。恐らく、城壁から下まで来られるだけの行動範囲はないのだろう。

 これでは性能が発揮出来る場面はえらく限定的になる。

 董卓が呆れる様が、すぐに思い浮かんだ。同時に、その時侮蔑の目も向けるだろうとは、容易に想像が付いた。

 案の定、その行動範囲の狭さを分かっているのか、孫堅達は下の階でしか戦わなかった。下の階に来る敵を、一人、一機と蹂躙していく。


 孫堅が、機刃に飛びついた。

 操縦席の装甲に、自らの牙を食い込ませ、そして、引きちぎった。

 その装甲板を、首を振って捨て、そして、中にいた黄巾兵を一閃した。


 しかし、黄巾軍も、動きが雑だと思えた。やはり反乱は、攻めるときは強いが守りに入るとまともな指揮官がいない限り一気に弱くなる。

 そして、階下の敵を蹂躙し終えたとき、ほとんど敵は残っていなかった。


 そのまま、孫堅を筆頭に階段を駆け上る。

 瞬間、あの試作型機刃の槍が伸びてきた。


 しかし、それを孫堅は避け、すぐさま機刃の後ろへ回る。

 だが、その弱点を知っているのか、すぐさま試作型機刃はその場で旋回し、外部電源とを繋いでいる線に近づけさせないように、槍を一閃した。


 孫堅の舌打ちが、聞こえた気がした。

 一度、孫堅が距離を取った。

 試作型機刃も、槍を構え直す。


 自分の呼吸が、三回したところで、試作型機刃が動いた。

 一気に、槍を突き出す。それを孫堅が避けると同時に、槍の柄の上に立ち、孫堅が一気に疾走した。

 そのまま、機刃の背後に回り、外部電源との接続線を食いちぎる。更に続けざまで、背部の冷却装置を前脚で一閃し、破壊した。

 その瞬間、試作型機刃は動かなくなった。


 一瞬、みとれていた自分がいた。

 獣でありながら、恐ろしく戦い方は合理的で人間的、それでありながら、瞬時に計算が出来る。

 獣と人間の融合体のような存在、それが獣人なのだと、張世平は思い知った。


 残りの二機の試作型機刃はどうなったのかと思ったら、複数の熊に襲われて関節を完全に破壊されたり、複数の猪に突っ込まれた末に胴体の操縦席装甲板が完全に潰れているなど、正直獣人の力を見せつけた、という形になった。


「これが、獣人ですか」

「俺も戦っているところは初めて見たがな、張世平。だが、こいつらに機刃は必要ねぇのかもな」

「でしょうね。それに彼らの力ならば、武具もいらないでしょう。甲冑は邪魔になるだけのようですし」

「だとすれば、必要な物は?」

「物資です。主に食料」

「上出来だ。で、張世平、孫堅に会いたいか?」

「そうですね。会ってみたいですよ、気の大きな者には」


 それが、自分が英雄を見定める道になる。

 戦闘が終結した城で、既に孫堅は人間に戻っていた。


 勝ち鬨が聞こえる。

 まるで獣の咆哮が合唱しているかのような、地鳴りがした。

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