(6)曹操軍の将達
戦闘を終えた漢軍の城は、慌ただしい雰囲気が漂っていた。
あれだけ大勝したこともあってか、漢軍の士気が上がっている。見張りの兵士の顔もまた、一様に険しい物になっていた。
張世平と蘇双は、その城門にいた。
「商人です。どうにか、あの赤い機刃の将軍とお会い出来ないでしょうか?」
蘇双が、拱手して聞く。
「曹操
見張りの兵士にそう言われても、会いたいという感情の方が勝ってしまう。
何とかして会える手段はないものか、少し張世平は考えた。
賄賂を使って入るかとも考えたが、今のこの漢軍にはその手段は逆効果でしかないだろう。とてもではないがその策は使えないし、曹操と会うときに知れたら悪感情をもたれることは必定だ。
となってくると、どうするか。
「どうした?」
一人の男が、後ろから見張りの兵士に話しかけた。
かなりガタイがいいと同時に、気もかなりの物がある。将軍かとも思ったが、この顔は見たことがない。
見たところの年齢は三十ほど、といったところだった。
「あ、
「商人なら、あいつそういうの欲しがるから、来させてもいいさ。監視なら俺がやる」
「承知しました」
見張りの兵士が一歩下がり、夏侯惇と呼ばれた男が、自分達の前に来た。
「商人、名前は?」
「蘇双です。で、こちらが」
「張世平と申します」
「人間と竜人で組んでいるのか。面白い組み合わせだな、お前ら。ますます孟徳が興味を持つぞ」
「孟徳、というのは?」
「ああ、曹操の字だ。俺達は孟徳って呼んでるんだ」
なるほど、そういうことならば納得だ。
どうやら、この夏侯惇という男は曹操軍の一員のようだ。ならば安心出来る、というものだった。
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は夏侯惇。字は
「指揮官型の無我に乗ってらっしゃった方の一人、ですか?」
「なんだ、あの戦闘見てたのか。それで興味を持った、ってところか?」
二人して、頷いていた。
「先陣が俺だった。ま、それも含めてだ。蘇双、張世平、案内しよう」
夏侯惇が踵を返した。それに、自分達もついて行く。
城内では、まだ少しススの臭いがしている。あれだけの戦闘が行われてから、まだ二日しか経っていないのだから、それも当然と言えた。
機刃の整備や、城壁の修繕、兵士の救護が、ありとあらゆるところで行われている。
それでも、気炎がそこら中から上がっていた。勝てる、その気分が蔓延していると言えた。
「お、
狙撃銃を持った無我を、整備している男が聞いてきた。夏侯惇と、顔つきが少し似ていた。歳も、同じくらいだった。
この男の気も、かなりの物がある。将来の商売相手になるかもしれないと、思うには十分だった。
「商人だ。どうしても孟徳に会いたいらしい」
「って、おお、竜人もいるのか。孟徳の奴は興味持つぜ」
「興味、ですか?」
「ああ。あいつは竜人とかも興味持つが、それ以上に、人材がとにかく好きでな。だから軒並み変わった奴も来る」
足場から、その男が降りてきた。
「俺は
「今金の話してなかったか?」
夏侯淵の横から、別の男がやってきた。
しかし、結構派手な男だった。金の指輪をはめているが、この男もまた夏侯惇、夏侯淵に比較的顔つきが似ている。
しかも、この男もまた気が大きい。
「金の話なら孟徳がするに決まってるだろ、
「あー、マジで? 金の話なら俺にも参加させろよなー」
曹洪と呼ばれた男が、頭をかきながらブツブツと文句を言っている。
恐らく名前からして、曹操の一族の出身だろう。
しかし相当に金にがめついらしい。将来は顧客としていいかもしれないと思うと同時に、無駄に装備が豪勢だった指揮官用無我の操縦者はこの男だろうと、簡単に想像することができた。
「金、金、金と、まったく曹洪、お前ホントに金にがめついな」
ため息を吐きながら、今度は少し横にも広い男が出てきた。
「
曹仁と呼ばれた男は曹洪にそう言われても、少し眉間に皺を寄せ、またため息を吐いた。
恐らく苦労人なのだろうと、心底思った。
この男の気も、なかなかだった。
四人とも、今まで見てきた将軍よりもずば抜けて気が大きい。将来大成するだろうとみるには十分だった。
「ていうかな、惇兄。孟徳の人材収集にその商人使うと思うか?」
「奴なら使うだろうさ、曹仁。知ってるだろ、孟徳はそういう奴だって」
呵々と、夏侯惇が苦笑した。
「随分と、その、変わった方々ですね……」
蘇双も、呆れている節がある。
張世平も、なんか変わった男達だと、心底思った。
しかし、同時にこれだけ『あく』の強い猛者を率いる曹操という男に、ますます興味を持った。
「まぁ、こんな連中さ。孟徳みたいな変わり者の下には、俺達みたいな変わり者ばかりが集う。だが、だからこそ孟徳の覇道を、俺達は見たいのさ」
そう言って、夏侯惇がまた歩を進めた。
少し進むと、執務室があった。
「入るぞ、孟徳。客だ」
そう言って、夏侯惇が扉を開けた。
そこには、若い漢軍の士官がいた。随分小男だなと、張世平は思った。
「俺に客か。
言うと、男が振り返った。
ふるえが止まらなかった。
眼の中に身長からはまるで感じさせない尋常ではない覇気を持っている。
同時に、目の前で見ると、気が、桁外れに巨大だった。
英雄がここにいることが、嬉しかった。
これが、曹操か。
張世平は、心の臓が早く脈打ってることを、忘れられそうにないと、心底思った。
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