第2話「VRMMO」
『こんにちは
「……これがVRMMOか」
意識が飛ばされたのは緑色のサイバー空間。どこからともなく女性の機械音声が聞こえてくる。
『まずは貴方様のユーザー名を登録しましょう』
「……"
『
「はい」
ユーザー名は
昔からの愛称でもあり、新しいゲームをする度に毎度のように付けてきた名前。少しだけ懐かしさを覚え、笑みをこぼしてしまう。
『
「特典コード? 内容は?」
『特典内容は武器、パッシブスキル、育成アイテムとなります』
「じゃあ……使用します」
多分パッケージ版の初回特典みたいなものだ。迷うことなく特典コードを使用し、ユーザー名に続いて髪色や身長などを設定していく。
「……こういうVRMMOってヒットボックスは関係するのか?」
要はキャラクターの当たり判定。基本的なMMOは身長によって当たり判定の違いを出さない。だがこれは次元の違うVRMMOだ。基本は通じないだろう。
「ステータスは変わらない。ヒットボックスが関係するなら最低の百三十まで下げるのが最善……だけど視点が低すぎる。VRMMOなら現実と身長を合わせて、動きやすくするのが妥当だな」
身長を弄りながらステータスを確認するが、低くても高くても特に変わりない。取り敢えず、現実と同じ百七十センチと設定した。
『──以上で
別にキャラメイクにこだわる必要もないので黒髪に青メッシュを入れ、後はお任せ機能で顔つきなどを構成。鏡を見る限りは二十歳相応の姿だろうか。
『それでは
全身が真っ白な光に包まれ、意識と共にどこかへ飛ばされる感覚。ほんの数秒だけ思わず目を瞑っていれば、
「ここは……」
海岸線がどこまでも続く港町に立っていた。潮風の匂い、せっせと荷物を運ぶ船乗りの声。現実と見間違えてしまうほどよく作られた世界に少しだけ呆然とした。
「これがこの時代のゲーム。もはや現実と変わりないな」
港町を少しだけ歩いて回ってみる。歩く度に固い地面を踏みしめる感覚が全身に伝わるが、妙に身体は軽かった。奇妙に思い、港町を全速力で駆け抜けてみると、
「なるほど、現実よりも早く走れるのか。体力は緑色のゲージで、スタミナは青色のゲージ……」
息切れを起こすこともないまま、港町を中心部まであっという間に辿り着く。視界の左下に緑色のゲージと青色のゲージが表示されている。青色のゲージがやや減少しているため、無限に走れるわけではなさそうだ。
(スタミナ制限のあるタイプか。マップを移動するときに何度も立ち止まって、休息しないといけないのは面倒だぞ……)
俺はスタミナ制限のあるゲームはあまり好まない。どこかで強化できる場所があるだろうと確認するため、メニュー画面を開こうと試みる。
(メニュー画面は指輪を付けた指で操作するのか。まぁ何でもかんでも反応したら、邪魔になるしな)
CRを装着した指で宙を二度タッチしてみれば、メニュー画面が宙に映し出された。上から順に選択できる項目欄は、
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・
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・
・
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以上の九項目。ただしログアウトの部分は何度押しても反応しない。本当にこのゲームからログアウト不可なのだと実感しながらも、取り敢えず自身のステータスを確認することにした。
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『Aoharu』
Lv:1
VIT:290
STR:11
DEX:10
AGI:15
INT:15
LUK:13
CLR:10
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上から『レベル・体力・攻撃力・技術・敏捷性・知力・運』という意味だと汲み取れる。だが『CLR』は今まで見たことのないステータスだ。
「まずは情報収集をしたいところだが……」
その場で座り込んだNPCはそこら中にいるが、プレイヤーらしき人物は見当たらない。奇妙に思ったが、この港町は始まりの場所。次なる町をプレイヤーたちは拠点としているのだろう。
「まぁいい。町の外を歩きながら色々と確認してみよう」
マップを開いて港町を後にする。道なりに沿って北の方角を歩き続けながら、森の中へと足を踏み入れた。
「この世界は最下層の
草木が揺れる音。
その場に立ち止まり、音が聞こえた個所を細目で見つめてみる。
「グルルッ……!!」
「そりゃあこの森に名前がなくても、モンスターはお構いなしに出てくるよな」
真っ赤な瞳をした野犬。名前は『
「あぁ、そういえば」
よく考えてみれば、肝心なことを忘れていた。大体のゲームに必ず説明が入る重要なこと。それは、
「武器を装備してなかった……!」
武器は装備しないと意味がない。俺はすぐさま振り返り、港町の方角へと駆け出す。
(VRMMOなのにメニュー画面は立ち止まらないと開けないのか……!)
武器を装備するためにはメニュー画面を開く必要がある。けれど開くには立ち止まらなければならない。
「グルルッ!!!」
(しかも敏捷性はアイツの方が上。このまま走ったところで港町に辿り着くまでにスタミナゲージは尽きる……)
後方を確認するとレイジドッグはすぐそこまで迫ってきていた。今の俺の敏捷性で逃げ切るのは無理難題だ。かといって武器を装備する時間もない。
「そういうことか……!」
たった一つだけ見えた打開策。残された三分の一スタミナゲージをすべて消費し全力で地を蹴る。着地地点は木の枝の上。
「グルルッ……」
「案の定、木の上までは登って来れないみたいだな」
森の中に生えた木々には、人間が乗れるほどの太い枝が異様に多かった。エリアの露骨に目立つ部分には必ず利用できるギミックがある。森林のエリアは初心者救済向けの場所として木の上が存在するのだろう。
(スタミナゲージは全回復まで十秒。その間は大胆な回避動作はできない。というより軽く走ることすらできないのか)
青色のスタミナゲージをすべて消費した状態は、身体に重しを乗せられたような感覚に近い。本来の動きをシステムによって厳しく制限されている。
「それなりに検証したいこともあるが……まずは武器を装備してあいつを倒すことが先決だ」
メニュー画面を開いて装備の一覧を確認すると、たった一本だけ装備できる武器が表示された。
「──
定番の片手剣でも、射程の長い槍でもない。
「銃剣って、昔の俺が……」
蒼色の装飾が施された銀色の刀身に、銃の引き金が付いた黒色の持ち手。甦る記憶は中学二年生。赤峰に「ゲームで好きな武器は?」と聞かれ、厨二病を患っていた俺が答えた武器。それが銃剣。
「グルッ、グルルッ……」
「まったく……」
右手で持ち手を握りしめ、こちらを見上げているレイジドッグに視線を下ろし、
「黒歴史を変に思い出させるなよ……!」
「ギャウンッ?!!」
降下しながら銃剣の矛先を胴体に突き刺した。レイジドッグの体力ゲージは半分以上削れ、その場で暴れ回る。
「これで──」
銃剣を引き抜き、後方へ飛び退きながらガンモードへと切り替え、銃口を向け、
「──チェックメイトだ」
トドメの弾丸をレイジドッグの額へ撃ち込む。レイジドッグの体力ゲージがゼロへと到達すれば、真っ赤な光の塵となり周囲に分散した。
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獲得Exp:100
獲得Gold:200
~Level UP~
『Aoharu』
Lv:1→Lv:2
VIT:290→VIT:320
STR:11→STR:13
DEX:10→DEX:12
AGI:15→AGI:17
INT:15→INT:16
LUK:13→LUK:15
CLR:10→CLR:12
Skill Point +2
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すると目の前にレベルアップを通告する画面が表示され、ステータスの上昇値などが映し出される。
「まずはレベリングすべきだけど……ソロでレベリングなんて、VRMMOの醍醐味を捨ててるようなもんだよな……」
このVRMMOはデスゲーム。ソロでレベリングをする時点でトチ狂っているとしか思えない。一つしかない命を自ら危険に冒している。
「気合いを入れよう。レイジドッグの効率の良い、最も安全なソロでの狩り方を考えればいい」
だがしかし、プレイヤーが集う次の町へ辿り着くまでにゲームオーバーを迎えれば本末転倒。俺は呼吸を整えてから銃剣を握り直し、この森でしばらくレベリングをすることにした。
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~用語解説~
・
キャラクターの当たり判定。身体の大きさが違うキャラクターの当たり判定は異なる場合がある。
・
特典コードで付属してきた銃剣。和名は変わり者。弾丸はスタミナゲージを消費することで撃ち出せる。
・
走る・回避・武器を振るう・敵の攻撃を武器で防御する……というように激しい動作を行うために必要なゲージ。全消費すると十秒間動きが制限されてしまう。
・ステータス説明
STR:
力を表す能力値。物理攻撃の威力を向上させる。
VIT:
生命力を表す能力値。ゲームにおける体力ゲージ。ゼロになるとゲームオーバー。
DEX:
器用さを表す能力値。武器によるスタミナゲージの消費を軽減させる。
AGI:
敏捷性を表す能力値。回避動作や走る動作のスタミナゲージの消費を軽減させる。回避や命中率もAGIに依存となる。
INT:
知力を表す能力値。相手の属性攻撃や付与された状態異常を軽減する効果を持つ。
LUK:
運を表す能力値。レアアイテムのドロップ率や異端種との遭遇率に影響する。
CLR:
現段階では詳細不明。
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