第17話 機械科製造職の研究者
「君が知っての通り、僕は十年ちょっと前ぐらいまでヴァルアーミと名乗って、
確か、その頃君はまだ少年で、孤児だったもんだから、僕の組織で生活してたな。覚えていてくれて嬉しいよ。あそこの法的にまともな方の孤児院の中身はクソだからね。今じゃ多少マシにはなってるって聞くけどさ。いやはや、しかし面白いもんだ、違法な商売してる組織が片手間にやってた孤児の保護の方がしっかりしてるんだからな。
まあそれでだ、何でラルタルトでそんな組織を作ったりしてたかって言うと、まず僕は元々スツガヴルの出身なんだけども、研究のために50年ぐらい前の墓を荒らしたら、運悪くそこがお偉いさんのとこの墓だったらしくてね。もちろん今はそんなヘマはしないが当時の僕は今より馬鹿だったんだね。お尋ね者になっちゃったのさ。さらに前々から行ってた違法研究の数々もあったもんだから、僕は金持ってラルタルトに逃げたんだ。スツガヴルとラルタルトは国境の交通自体はかなり簡単にできて手続きも簡素の癖して罪人の引き渡しは国際法的にかなり面倒な手順を踏まなきゃいけないから、国外逃亡がかなり有効に働くってわけだ。現に君も同じことしてるしね。ああ、もちろん僕は空飛んで不法入国だよ。
それで木を隠すなら森の中ってことで、今よりさらに治安が終わってた
ただ他のところに密輸しまくってたら、さすがに定型管理委員会も重い腰を上げたのか知らないけど、捕まっちゃったのさ。資産持ってかれて強制送還そのまま見事に長期懲役ルート、かと思いきや僕の妹がここの定型管理委員会の職員でね、さらにそこそこ地位の高い亜眷の部下と来たもんだ。おかげてコネと権力と僕の類稀なる才能と研究成果を利用して、結構な額の罰金系と懲役と言う名の研究を5年ほどして、そして今は定型管理委員会に形だけだけど所属して研究に勤しんでいる、と言うわけさ。」
ヴォルヘールは一通り話し終え、茶を一気飲みした。アルボーグが話し始める。
「ご説明ありがとうございます、ヴァルアーミさん……あーっと、どう呼んだらいいですかね」
「まあどっちでもいいよ。天才はその程度のことを気にしないからね」
「ではヴォルヘールさん。改めて、お久しぶりです。オネッチャ・アルボーグ・アスチャルソです。以前はお世話になりました」
ヴォルヘールは満足げな笑みを浮かべている。かつて世話をしていた少年が今では一応は自立して生活していると言うこの事実がわかっただけでも十分な多幸感が得られることは想像に難くない。なお、隣に座っているツギはその表情を見て珍しいものを見たように感じている。なぜなら、ヴォルヘールは前述の通り何処かしら倫理観が欠如しているのである。況や人間的幸福で喜ぶこともさほど多いわけでも無いのだから。しかし、今此処で言うのは無粋であると判断して言わないでいる。
「うんうん、元気なようで嬉しいよ」
「そう言えば二人ともラルタルト語話せるんですね」
「まあ学術言語でもあるからね。僕は話せて当たり前さ」
「確かにそれはそうですね」
「所で、その義手は結構新しいよね。何処で手に入れたんだい?」
ヴォルヘールはアルボーグの右手を見てそう言った。
「ああ、これですか? 俺が作りました」
「へぇー! 自作したのか! 凄いなあ、よく勉強したね」
「ヴォルヘールさんのおかげですよ」
「ちょっと見せてくれよ」
「はい、どうぞ」
ヴォルヘールはまじまじとアルボーグの義手を見ている。
「これ、半自立制動筋量子義手じゃないか。なるほど便利だ。媒質はオッタネヴ干渉核による半在式かい?」
「そうですね、安価で構造も単純なので。出来たらハッラオイ干渉核を使いたい所なんですが如何せん高くて」
「闇価格だと余計高くなるしな、僕は買えないこともないけど」
「あなたの様な天才と一緒にしないでくださいよ」
「ははは、それもそうだ」
とりあえず天才と言っておけば喜ぶ、そんな所も記憶の通りだな、とアルボーグはふと感じたのである。
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