第12話 「亜眷」ヴィーラント・スミート
神主が刀を取り出し、エギラの首元に近づける。それを見て巫女とセヴァは恐怖を覚えていると見受けられるが、エギラはただ神主を睨み続ける。ラントも同様である。
ラントの顔からは、笑顔が消えている。普段であれば9割型上がっているはずの口角を下げ、話し始める。
「エギラ、今の所は私に任せて。んで、神主、何してんの?」
「見て分かりますでしょう。違法なファルバオーグですよ? 然るべき施設に送るか、若しくはここで始末した所で、私どもがよほどの罪に問われる事は無いでしょう」
「それ、マジで言ってる?」
この集団の中では、神主はラントを除けば単純な戦闘力では頭一つ抜きん出ている。その為、自分しか相手することは出来ない、そうラントは考えているのだろう。
「勿論、それが、決まりでしょう。何しろ、本人の意思で改造を受け入れているのですから」
「そうしなくちゃ、生きていけなかったとしたら?」
「……何ですと?」
「この子は自らの生命を守るために改造を受け入れている。それは、自己の身体への真っ当な防衛じゃない? 何より、保護されるべき年齢でしょ?」
「とは言え、ファルバオーグはファルバオーグです。やろうと思えば、幾らでも……」
その時、ラントは足を肩幅程度に開き、腕を組み、叫んだ。
「ヴィーラント・スミートから眷属であるフルギヌス・テンタに告ぐ! そこに跪き、尚且つ我が友、スカッラン・エギラ・ウラーフドリーに対する敵対的行動を禁ず!」
「ぐっ……!」
ラントがそう叫ぶと、神主自身は何かに押しつけられたかの様に跪いた。
今のラントには、普段のような自由奔放な童女の物陰は外見以外消失している。
「そもそも、そこまで毛嫌いするなら初めっから首チョンパすれば良かったでしょ? それやってない時点でねえ。兎に角、ここから離れろ。命令だ」
神主、その他諸々が離れ、ラントとエギラ二人になった後、ラントは自分とエギラを立方体の常在独占層で囲った。この層は、外からは余程のエネルギーがない限り何も干渉せず、内側からも同様である。
「で、さっきの質問なんだけど……」
「あ、ああ。何で私だけ助けた? 友達とか、そんな甘え?」
「いや、そういうんじゃ」
「じゃあ何なのさ!」
エギラは叫んだ。その右目には、涙が滲んでいる。
「アルボーグだって、エラールタだって、私からしたら私を育ててくれた恩人だよ! 何で私だけなんだよ! 贔屓か? それなら、私も助けるなよ!」
エギラはしゃがみ込み、顔を覆った。ラントもしゃがみ、エギラと目線を合わせ、答えた。
「実は、君が気を失っている間、アルボーグさんと話した。もちろん、エラールタさんのことも」
「え……?」
「あたしたちの元々の仕事は、ただの観測。だけど、君達を見つけたら、立場柄取り締まらなくちゃいけない。君なら、強制的に参加させられたってことにも出来るし、幾らでも誤魔化しは効く。でも、あの二人は主犯だからそうは行かないの。だから、あの二人の存在は、私は認められない。だから、『今は』ここにはいない」
「えっ……」
エギラは泣きはらした目を開き、ラントを見つめている。
「でも、でも! 結局、それも私に対する甘えでしょ!」
「うん。甘えだし、エゴだ。でもね、これだけは確かだよ。あたしは君を友達だと思ってるし、そう私が思ったのは、君を育ててくれたひとのお陰だから。だから、生きよう」
「う、ううう……」
常在独占層の中で、エギラの溢れ出る感情が、場を独占していた。ラントは、ただ、エギラを見つめている。その靉靆とした目線には、僅かながら哀愁が紛れている。しかし、それでもなお感情に独占されずに、一定の狂気に基づいた精神を保持し続けている。その様子は、正に、「『亜眷』ヴィーラント・スミート」である。
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