第11話 火災

 エギラは呆然としている。今まで、放って置けない、妹の様な者だと考えていたが、それが、見るからに自身より強大であるのだ。当たり前である。どうにか立ち上がろうとするが、全身を強打しているため、まともに動けない。

 ナウークシ——そう、呼べば良いのだろうか。それは、人工ファルバラータの前に浮いている。人工ファルバラータは、ナウークシの方を向き、跳びかかる。ナウークシは前方に黄色いエネルギー輪を展開し、人工ファルバラータを止める。そして、エネルギー輪が閃光を発し、人工ファルバラータを吹き飛ばした。ナウークシは指先から平たい円形の光を出し、話している。


「ガンテアで火災! 急いで!」

「ナウークシ……」

「ごめん、詳しい話は後で! 兎に角……うわあ!」


その時、爆発音がした。高濃度エネルギーに衝撃が加わった結果、暴走したのだ。エギラは吹き出したエネルギーを喰らい、意識が朦朧としている。ファルバオーグとしてのシステム面に干渉したのだろう。ナウークシは、エギラを抱えて飛ぶ。部屋を出ると、居間は、周辺が燃え盛っているが、しかしその場は燃えていなかった。そこには、アルボーグがいた。彼の義手は、青く光っている。


「おいエギラ! ナウークシ! 無事……」


アルボーグは、ナウークシに義手を向ける。しかとナウークシを見続け、緊張した面持ちである。


「まさか、亜眷だったか。となると、スパイか?」


その言葉には、何かしらの激しい感情が込められている。しかし、ナウークシはアルボーグから目を逸らすことはない。ナウークシは答える。


「バレちゃったか。そう、あたしは亜眷、ヴィーラント・スミート。スパイか、と言われたら否定はできないよ。でも、ただの観測で、別に一網打尽にしてやろうとかそう言うわけじゃない。それより、エラールタさんは?」

「ふむ……」


アルボーグは、義手を下ろした。少なくとも、ナウークシ——ラント、と呼び変えよう——に対する警戒は解いた様だ。


「まあ、何だ。少なくとも、お前の、俺たちに対する情は本物の様だからな。何より、そこの、エギラを助けてくれたり、ボスを心配しているのが、証拠だろう……ぐっ!」

またも、爆発が発生した。いよいよ、居間まで炎が巡ってくる。


「まずい……さて、お前に恨みは無いが、それとこれは別だ」


アルボーグがラントの太腿にビームを発射した。あまりに急であったため、ラントは回避が間に合わなかった。スカートに穴を開け、足を貫通し、骨も断裂している。ラントは足を抱えたが、片手ではしかとエギラを抱え、空中に浮遊している。。


「何……で、突然……うぅ……」

「すまないな。逃げるためには、これくらいしておかないといけないんだ」


 そう言い、アルボーグは裏口へ走った。ラントは痛みに顔を歪ませ、額には熱か痛みか原因が同定できない汗をかいている。しかしそれでもなお、エギラの救出を優先し、瓦礫を吹き飛ばし、表口から飛び出した。後ろでは、建物が炎に包まれている。すでに建物前には、定形管理委員会が手配した、消防その他がいた。水をかけつつ、大型車を利用してエネルギーを吸収することによって、暴走エネルギーを止めようとしている。救急隊員の一人がラントに声を掛ける。


「二人とも! 大丈夫ですか?」

「ちょっと……足をやっちゃって。でも大丈夫、あたしは飛べるし。あ、あと、この子は、怪我はないよ。眠ってるだけで意識はあるから」

「了解しました。では応急処置に移ります」


救急隊員が手当てをし、ラントが通信機器で幾らか現状報告をした後、エギラが目を覚ました。ガバと跳ね起き、辺りを見渡した後、ラントに気がついた。


「ナウークシ! 君は……」

「あたしは亜眷、ヴィーラント・スミート。ごめん、隠して、忍び込んでた」


エギラは頭に手を当て、目を瞑った。


「うん……詳しい話は後にして、それより……何で助けた?」

「え?」


エギラはラントにそう聞いた。その目には、攻撃的な感情が宿っていた。その時、ラントを見つけた神主、巫女、セヴァが歩いて来た。そして、神主はエギラを一瞥した。


「ここにいらっしゃいましたか、ラント様。さて……」

そう言うと、神主はエギラの首元に刃を添えた。

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