第10話 人工ファルバラータ
「じゃあ、あたし達は寝るから、研究も程々にね」
「おう」
ナウークシがガンテアに来て、一ヶ月ほど経った。エギラはナウークシを連れて寝室に入った。今日はアルボーグとエラールタも泊まり込みである。アルボーグは機械の研究、エラールタは顧客リストを眺めている。
エラールタが話し始める。
「あいつらはもう姉妹だな」
「俺もそう思います」
「所で、進捗はどうだ」
アルボーグは剥ぎ取られた人肌の様な物を持っている。
「どうも、質感を人肌に寄せると圧縮効率が悪くなっちゃって、常在させられないんですよね」
彼はクアンタムエネルギーをダイレクトに供給できる、媒質となる人工皮膚の様なものを開発しようとしている。基本的にエネルギー媒質は硬質なものが多く、例えばエギラは四肢にチップの様な、板の様なものを埋め込んでいる。因みに、エギラのエネルギー吸収機構は、その媒質を応用したものである。若し人工皮膚状の媒質が実用化できるとしたら、外見は人間となんら変わりないファルバオーグが可能となる。つまりこれは、神その他それに類するものの肉体を再現しようとしている、と言うことになる。
「専門外だから良く分からんが、まあ頑張れ」
「うわ、全く当てにならない言葉、『専門外だが』」
「ぶっちゃけ、ただの責任転嫁と、議論がめんどくせえ時の回避行動だな。公でベラベラ喋ってやがる自称有識者達はさぞがし責任感が強えんだろうなあ」
エラールタの微妙なジョークセンスはいつも通りであるため、無論アルボーグはスルーしている。
「んじゃ、俺は確認も終えたし、寝るとするか」
「お疲れ様でした」
エラールタは白色のベッドに寝転がり、薄い毛布を被った。寝つきが良い方であるため1分も立たずに眠りに入っている。
「俺も、ボチボチ切り上げるか」
彼女は板に寝転がったまま縛り付けられている。周りを見渡すと、何者かが彼女の周辺に立ち、囲んでいる。それらの顔面は狼の様な異形であった。目は赤く輝き、体毛は銀色である。異形の一人が斧を持ち出した。彼女の足のほうに太刀、斧を振り上げ、叩き落とし———
「うわああああああああああああああ! はあっ、はぁっ……」
エギラは跳ね起きた。悪夢にうなされていたのである。兎に角、横に置いてある水を一口飲んだ。その時であった。ガシャアアン!と衝撃音が鳴り響いた。壁が崩れ、そこに居たのは、ガンテアが研究した結果、失敗作と見做された、人工ファルバラータのプロトタイプである。
人工ファルバラータは、壁に挟まってしばし身動きが取れなくなっている様である。プロトタイプなため、サイズは中型犬程度であったはずだが、凄まじい黄色のエネルギーを放出し、それが巨大な、狼の様な図体を形作っている。
(どうする……、闘うか? でも二人がいるし、あ! ナウークシは、居た!)
ナウークシは寝ぼけて、今の状況を把握し切れていない様だ。その時であった、人工ファルバラータがナウークシの方を見た。
何も考えず、ただの防衛本能であった。ただ、それが自身ではなく外部に向かったまでである。エギラはナウークシを抱き抱えた。後ろから、煌々と光るエネルギーが迫る。エギラは、足裏からからエネルギーを放出し、素早くドアへ向かったが、人工ファルバラータに殴られて地面に倒れ込んだ。
その時、赤色の閃光が走り、唐突な衝撃でエギラは吹き飛んだ。見ると、人工ファルバラータは吹き飛ばされ、ひっくり返っている。しかし、何よりも注目すべきはナウークシである。そこにいたのは、無口な女児ではない。ピンク髪、さらに背中から白ピンク色の、尖った翼を象ったエネルギーを放出し、さらに周囲に黄色の輪を展開しつつ中に浮いている童女が居た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます