第9話 違法団体

「エギラさん……」

「エギラでいいよ。何? お腹空いたの? もう少しで出来るから待ってて」

「いや……」


 エギラとその他数名が昼食の料理をしており、その様子をナウークシが覗きに来た。無論、他の人々は包丁を使っているが、エギラは指先から上腕にかけて弦のように張られた紫色のレーザーを使っている。


「物珍しいのは分かるけど、あんまりジロジロみる者じゃないよ」

「ごめんなさい……」

「いや、別に悪く言ってる訳じゃないから」


エギラは少々慌てながらそう答えた。実際、エギラの両腕は共に機械的な義手である。


「でもねえ、いつまで経っても、変な目で見られるのは慣れないね。実際外では手袋なり何なりで隠すから、そもそも見られるのが少ない、って言うのもあるかもしれないけど」


 エギラは、クアンタムエネルギーによる改造を施され、そのエネルギーを扱えるようになった、ファルバオーグと呼ばれる存在である。神による力でエネルギーを定着させたものが亜眷であり、その点においてはファルバオーグは神に刃向かう存在だと解釈されることもある。因みに、アルボーグの義手もクアンタム機械であるが、アルボーグ単体ではエネルギーを扱えない為、ただの「機械を使う人」である。

 その時、キッチン入り口にアルボーグが居た。


「実際、堂々としてりゃ周りの目なんて気にならなくなるけどな」


アルボーグは自分の義手を動かしながらそう言う。なお、彼の義手は兵器的装置を内蔵している為法律に抵触する可能性がある。バレなければ犯罪ではないとでも言いたいのだろうか。エギラは指先から光刃を出し、解(ほぐ)した魚の水煮の缶詰を開けながら言った。


「確かに、堂々としてれば何でも許されるって言うのはあるけどね」

「いや許されないぞ? なあナウークシ」

「うん」

「ちょっと、何でこんな時に限ってはっきり喋るのさ」


 昼食後、ナウークシは、ダインニングテーブルを拭いている。一応住まわせてもらう都合上何かしらの仕事をさせなければならない、と言うのはエラールタの考えである。なお、ここに常に住み込んでいるのはエギラとナウークシのみであり、アルボーグとエラールタは週3ぐらい、気まぐれに泊まっていく。他にも構成員はいるが、大体は時たましか泊まらず、ここに通っている。後は、何も関係がないのにもかかわらず遊びに来る子供たちが居る。アルボーグは子供の面倒見が良いからである。若しくは、怪しまれないようにと言うのも有るのかも知れない。

 さて、画面と睨めっこをしている一人が何かに気づいたようである。


「常在強権を観測しました! 彩色は緑、36Wtワーテヴ、1.13Nsネンセです!」

「よし、誰か行けるか?」


エラールタが指示を出す。常在強権とは、独立して運動する、エネルギーの「斑(むら)」である。ファルバラータも似たような者ではあるが、あれは外殻を持っており、常在強権よりもNs値が高い。Nsと言うのは、エネルギーの密度を表す単位であり、エネルギーの質量に当たるWtを基にして導出される。彼らはこの常在強権を確保し、研究材料としている。


「私が行きます」

「おいエギラ、俺も付いて行く」


アルボーグが言った。


「まあ良いですけど、ん? ナウークシ、どうしたの?」


ナウークシはエギラの服の縁を掴んでいる。


「着いてっていい……?」

「一緒に行きたいだあ? まーぁ言うほどの危険はない気もするが、それでもな」

「別に良いぞ、ナウークシ」


エラールタがそう言う。


「今回の常在強権は言うほど危険じゃねえ。例えばこれが13Nsぐらいあったとしたらまずいが、そうなったら定形管理委員がどうにでもするだろ」

「了解しました」


 アルボーグ、エギラ、ナウークシは白い車に乗り込む。基本的には二人乗りで、後ろに荷物入れがある、少し小さめの四角い車だ。ナウークシは小柄なので、二人の間に座る。運転はアルボーグが行う。

 彼ら——ガンテアと言う——は、エネルギーの斑に対処すると言う点においては、定形管理委員会と同じだが、定形管理委員会が専ら大規模な物事に対処し、小さなものは特に大ごとにならなければ放っておくのに対し、ガンテアは小規模な物事に対処する。大規模な事が出来ない訳では無いのだが、リスクが高い。とは言え、相談すれば定形管理委員会も何かしら行ってくれる場合もあり、何よりエネルギーの斑を発見した場合は報告義務があり、それをせず、さらには保管し、その上独自に研究をしているとなれば、ガンテアが違法な団体であると言うのは否定できない。しかし、研究の自由を掲げ、それ以外の犯罪は行わず、資金繰りもエネルギーや機械の貸し出しで賄っている点に於いては、それなりに真っ当であると言う評価を下せるやも知れぬ。ただし、法律上では違法であることは変わらない。

 さて、三人は目標の場所に着いた。そこは林の中にある、ガラクタが投棄された空き地である。そのガラクタの中に、緑色に光る、直方体を乱雑に繋げた様な、白く濁ったガラスの様な物体がある。大きさは人の脛程度、ガチャガチャと忙しなく動いており、当たると痛い程度の力はある様だ。

 アルボーグがそれを足で踏みつけ、押さえつける。エギラは手袋を外し、腕を捲り、腕を蓋を開ける様に開く。そこにはモニタの様なものがあり、これを常在強権に近づける。緑色の光がたちまち消え失せ、常在強権は動きを停止した。エネルギーを吸い取られたのである。


「軽いけど、後引くなこのエネルギー」

「食レポみたいな言い方をするなあ」

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