第5話 量子車窓から

 ラント、神主、巫女、セヴァは駅に居る。高速鉄道が通る駅だけあり、それなりに大きい。三回建てであり、登り下り線路の間は離れており、吹き抜けの様である。天井はトラス構造のアーチ状であり、光が差し込む。


「ねえねえ量子車まだー?」


ラントは不釣り合いなほどに大きい薄紫色のリュックサックを背負い、履き慣れた運動靴を履いている。靴は適当に使い古されており、恐らく多少也外見に気を使えど、長距離の移動となると、機能性と言うメリットと、普段から使っている安心感と言うベネフィットを考慮したのだろう。周辺の人間は彼女がそのような事を考えているなぞと露も思わないであろうし、もしそう思う人間がいるとなれば、その者は大方小児性愛者ペドフィリアか、そうでなくとも何かしら特殊な者であろう。


「おーいラント。随分気合が入ってるな」

「それ兄ちゃんが言う?」


セヴァは大きなキャリーバックを一つ、さらに見るからに怪しげなウエストポーチを着け、さらに紺色のウインドブレーカーには多数のポケットが付いている。今のところはチリ紙やハンケチ、筆記用具程度しか入っていないが。


「いやあ、職業病ってやつだよ。何より調査に必要だからね、これら」

「とは言え、それ以外の物もそれなりにお持ちでしょう?」

「かー神主さんに言われちゃあどうしようもないか」

「ほら、電車が来たぞ。ぐだぐだ話すな」


さて、量子車がやって来た。シュウウウ……と言う音と共に電車がホームに入り、扉が開いた。

 量子車とは、クアンタム・エネルギー量子力を動力とする、レールの上を走る乗り物である。素材は金属なので、鉄道と呼んでもこれと言った問題はない。量子車の外見は黒緑色で、下部の車輪付近は銀色であり、それと同じ色のラインが横に通っている。車輪は水色の靄で覆われており、これは十分に動力が伝達していると言う証拠である。側面には銅色のパイプが通っており、圧縮されたエネルギー体がこの内部を通っている。扉は金属製のスライドであり、罅(ひび)の様な模様が入っている。


「さて、行くぞ」


巫女がそう言って、先に電車の中に足を踏み入れた。その後神主が順当に入った。なおその時ラントとセヴァはあいも変わらずに稚拙な会話を行なっていた。そのため、


「やべっ、量子車が出ちまうぞ!」

「急げー!」


と言い、喧しく走り込んだ。


「——駆け込み乗車はァォやめくださぁーい——」



 席の上には扉付きの荷物棚があり、席はリクライニングのボックスシートである。背もたれは赤い布製で、座席は硬くはないが、柔らかくもない。窓にはカーテンが付いているが、正直遮光性が高いとは言えない。そこそこにスピードが出るので、時に妙に揺れ、それほど乗り心地が言い訳ではないが、許容範囲内であろう。防犯はしっかりとしている為、いっそのこと寝てしまうのが正解なのかもしれない。

 セヴァが隣に座っている巫女に話しかける。


「で、向こうではどなたが待っているんでしたっけ?」

「ウルイトさんだ。私も神主も会った事はないが、話した限りでは気の良さそうな方だ」

「只のエンジニアもどきが行って大丈夫なのかなあ」

「ま、それほど気に病む必要は御座いませんよ。それよりも、暫くは旅を楽しみましょう」


ラントは窓から外を見ている。もちろん彼女が窓際に座りたがったのである。同じく、窓際に座っているセヴァも外を眺める。


「お、スチャルークォグ山だ」

「活火山だよね! 成層火山だから綺麗な曲線だねー」

「おうラントよく知ってるな」

「えへへ」

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