第3話 比較安定系の真空揺らぎが満遍なく発生している空間

 セヴァは先ほど破壊したファルバラータを分解し、レンズの上部にライトが付いた、四角いヘッドルーペを装着し、内部を観察している。ファルバラータの腹部に、ワッシャー付きの四角ボルトで止められた蓋があったので、それを開いたのである。ファルバラータはクアンタムエネルギーを動力にして動くので、その内部エネルギーを回帰、つまるところ放出させることにより安全に扱うことができる。そう、セヴァのもう一つの職業は、エンジニアである。


「どうです? 何かありましたか?」

「あー、レイザルの構造が特殊ですね。エネルギーの常在権を拡張するのではなく回帰と引用をスムーズに繰り返すことにより疑似的なサエル現象を発生させているってわけですね」

「ふむ、今までとは少々指向性が違うと言うことですね。誰かが改造でもしたんでしょうか?」

「でも過去の遺物なわけで、一種のバージョン違いと考える方が妥当かと。確かに悪用する輩がいない訳でもないんでしょうが」


ラントはソファーで寝ている。先ほどまではセヴァの本を読んでいたのだが、退屈で本もつまらなかったので寝てしまった様だ。彼女もこの様な外見をしているとは言えそれなりの知見はある為全くわからないと言うことはなかろうに、なおもこうした態度を取ると言う事は、これは彼女の性格面に原因がある。

 そんな彼女はさておき、二人はファルバラータについて分析をしている。クアンタムエネルギーとは、真空のゆらぎによるエネルギーを、媒質を利用して一時的に扱えるようにしたエネルギーである。辞書的な言い方をすれば、比較安定系の真空揺らぎが満遍なく発生している空間から一時的に供給されるエネルギー、と言ったところであろうが、構造については矢張り量子力学の履修が必要である。無論、セヴァは履修済みである。


「そういや神主さん、こう言うのって最近多いんですか?」

「最近時々目撃される、と言う話は聞きましたがここ周辺ではしばらくそう言う話はありませんでしたね。5年前の中規模なことからそれっきりですが。む」


神主が所持していた端末から音が鳴った。これは通信機器であり、ガラスの様な直方体に柄がついた外見をしている。その柄の一部は横に回転する様になっている。その部分を回転することにより、通信が可能となる。正面に青色のパーカーを被ったピンク色のボブヘアーの女性が現れた。無論これは実態ではなく映像である。


「んん……あれ、通信が来たの?」


ラントは音で起きた様だ。神主は映像に向かって話しかける。


「もしもし、巫女さん。御用は?」

「すでに分かっていると思うが、ファルバラータの出現が怪しくなっている。取り敢えずローライに戻ってきてくれ。あ、セヴァ。時間はあるか?」

「今日は……この後予定は無いですね」

「なら、君もローライに来てくれないか」

「了解しました」


その様な会話をしていると、ラントがそそくさと離れていった。もちろん三人が気がつかない訳はない。神主がラントに向かう。


「報告書書きたく無いからって逃げられませんよ?」

「うわー! だと思ったよ!」

「ああ、もう面倒くさかったから大体私が書いといたぞ」

「マジ? 巫女ありがとう!」

「はあ、そう甘やかすからラント様がこう怠惰になるんですよ。勤勉で居ないといけません」


 ラントは、不満そうに舌を出している。

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