第10話

 身体が動かない、声も出せない。一体、これはどういう状況だ? 身体が固まって動かない。

 この空間には芋を中心に芋の世界にあったものや景色がぐちゃぐちゃになって漂っている。

 近くにはウサギさんもいるが声を掛けてみようと試みるがそもそもコミュニケーションを取る手段が全て封じられているっぽく何もできない。


『――大丈夫? 聞こえてる?』


 ああ、マオの声が聴こえる。なんだか少し安心した。マオ的にこの空間は何だと思う?


『そうですねぇ、私的にはこの空間は最初、芋の世界に来るときに会ったあのクソ神――干し芋の神に会ったところに似てるけれど……芋だけじゃなくて大地や建物とか見えるから違うね。あのクソ神とは別の神の空間だったりして』


 なるほど。そういう考え方も出来るね。俺は芋の世界が文字通り壊れてこの空間にバラバラになったかと思った。


『そういう考え方も出来るね』


 俺とマオは思った以上に緊張感のない呑気な会話を繰り広げていた。


「はーい、物語の大団円間際に真打登場キャラ、ディリスちゃんです! 二重人格者ちゃんとウサギちゃんの考察は大体、当たってるよ~」


 時空が急に歪み現れたのは誰もが思い描くようなローブに唾大きなとんがり帽子、木の大きな杖を持ったいかにも魔女の風貌をした少女だった。


「あれれ~? ノリが悪いなぁ。でもしょうがないか。私の登場で色々と混乱してるもんねぇ。とりあえず、世界を移動しましょう」


 少女――ディリスは軽い口調で楽しそうに語る。

 一瞬にしてぐちゃぐちゃになって破れたような世界から真っ白な世界に移動した。

 ウサギと俺はいつのまにか気を付けをさせられていた。




「よし、それじゃあまず、原因君を消すために呼びます、ポンッ」


 ディリスは楽し気に呼び出したのは俺がぶっ飛ばそうとしていた干し芋の神だ。


「な、なんだ! 儂はちゃんと世界の一つを管理していたぞ!」

「あ~、煩いですよ。勝手に持ってって管理してただけでしょう? あなたは用済みです。ばいば~い」


 干し芋の神は断末魔と共に一瞬にしてこの場から消えた。なんだこの少女は……。


「とまあ、こんな感じであなた達を勝手に巻き込んだゴミは掃除しましたのでこれで手打ちにしてもらえませんかね? 私も責任者として謝りますので。そしてこれからの話をしましょう。と言っても、面倒なので基本的には一方的に私が喋るだけなんですけどね」


 ディリスが手を叩くたびに周りの空間に見たことのある花や見たことのない花が出たり消えたりしている。


「ああ、気にしないでくださいね。お花を出すのは癖みたいなものなので」


 特に意味がないのかよ。


「ではまず、私のことが気になるようだから簡潔にいうと全ての世界に置いての時の概念です、はい。それ以上でもそれ以下でもない。時の概念の擬人化だと思ってくれればいいですよ~。あの干し芋の神より上位――というか私は上から二番目の神ってことさえ分かれば良いですよ」


 時の概念の擬人化? 最上位から二番目? 何を言ってるのか分からないというか理解したくないな。意味不明だ。


『つまり干し芋の神より上位ってことって理解しとけば良いんじゃない?』


 それでいっか。無理やり理解するのも考えなさすぎるのも面倒だしね。って、マオそれは失礼じゃない?


『別に大丈夫でしょ』


 マオの言う通り、ディリスはわざと不機嫌な顔を作ってから笑顔になった。


「むむ? なーんか、二重人格者ちゃんが軽く考えているような……まあ、いいや。ん? ――ふむふむ、『そんなことより何で私たちが異世界転生したかの理由とこれからどうなるか気になる』って? まあ、そうなるよねぇウサギちゃんナイス質問!」


 やけにハイテンションなこの少女はコロコロと話の話題を変えて話をドンドン進めていく。どこか焦っているようにも見える。


「とりあえず、まず最初に君たちを元の世界、元の時間軸に返しますね。これまでのお詫びとして二重人格者ちゃんにはこのままもう一つの人格と喋れるようにしときます。ウサギちゃんの方は貴女が会いたいと思っていた人物に会えるようにとこれからの人生が成功に満ち溢れるようにします。ではこれ以上はここにいさせられないので、色々と疑問が残るでしょうけれど答えられないので無視です。ばいば~い」


 俺とウサギちゃんは光の濁流に飲み込まれ意識が遠のいた。

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