第8話

 ベニアズマさんの屋敷を出てかから半年、色々なことがあった。

 黒かりんとうの親玉であった貴族を倒して世界中に指名手配されたので女装して過ごすようになったり、俺が使える能力である小袋の芋けんぴが神の道具——神具として崇められたり。もっと面白いのがマオの芋の声が聞こえる能力が使い物にならないと思った芋の声を聞いてその芋の潜在能力を解放するという能力だった。この能力のお陰で道に迷った時に道端の芋に案内や戦闘になった時に手伝って貰えるという利便性が高かった。

 ああ、マオというのは俺のもう一人の人格のことだ。せっかく喋れるようになったということで『マオ』と名付けたのだ。


『なあに急にモノローグに語ってるのよ。君の心の声は此方に聞こえている事は知ってるだろ。ああ、ワザとか。ワザとなんだろう?』

「少しぐらい現実逃避してたっていいじゃないか。こんな格好で戦闘を続けるとか嫌なんだよ……」

『良い加減慣れなよ。もうその格好で四ヶ月は経つんだから』


 今の俺の格好はワンピースにショートパンツ、外套と指抜きグローブにブーツ。一応、芋けんぴが武器として使えるので武器はいらないが念のために短剣を持ち歩いている。

 マオの声はどこか楽しげでニマニマしてる表情が目に浮かぶ。俺の思考はマオに筒抜けだ。元の世界にいた頃から筒抜けだったらしいことを知った時は本当に恥ずかしかった。俺の淡い恋心も自分の女装姿に興奮していたことも全てが筒抜けだったということを知った時の絶望感は未だに思い出すだけで落ち込む。


「……いや、可愛いのは良いんだよ。戦闘中にスカートが捲れるのが嫌なんだよ」

『だから今、ショートパンツを履いているじゃない』

「それでも捲れるのが恥ずかしいんだよ」

『そこは慣れるしかないと言いようがないね』


 スカートが捲れる時に敵に注目される視線の気持ち悪さが本当に慣れない。


『それより目下の問題は資金だよ』

「そうだね」


 そう今、資金が枯渇しているのだ。 絶賛指名手配中の中で何か出来るかと考えて考えた結果、店に狩った獣を直売りすることで生計を立てることしていたのだが、この世界では貴重な油をたっぷり使った薩摩芋入りコロッケを食べるようになってからというもの此方の世界のお金である芋がどんなにあっても足りない状況になってしまったのだ。薩摩芋一本じゃあ宿に一週間くらいしか泊まることが出来ない。

 とりあえず、薩摩芋入りコロッケが本当に美味しくて魅惑すぎるのだ。元の世界の芋けんぴ並みと言えるだろう。


 外套のフードを深く被って街の中を適当に歩いていると掲示板に視界に入った。


「——ん?」


 掲示されていたのは隣国である敵国のコロッセオで開催される武闘会のお知らせだった。


『どうした……なんかあったか? おお、良いじゃんこれ。出場しにいこーよ』

「……視界に入ったのが運の尽きか、分かった。行って優勝しよう」


 マオは俺と違って面白いモノや楽しいことに全力で挑むタイプだ。だからことが目についてしまったら最後、やるしかないのだ。

 まあ、マオが反応したということは俺にも少なからずやりたいと思っているからだろうな。二重人格と言え、俺たちは二つで一つの人格だから。

 帝国へと二日かけて着いた。 日付を把握していなかたという致命的なミスを道中で気づいて自己最高速で森の中を走ってなんとか間に合った感じだ。

 武闘会が明日ということもあり、コロッセオの周りには武器を持った人が多い。


『いやあ、出場登録ギリギリだったねぇ』

「日付くらいはちゃんと見れば良かったわ」

『次からはもっとしっかり見るようにしよう』

「だな」


 武闘会があるということとで宿がなかなか見つからず、やっと見つけた頃には日が傾いていた。

 大会、当日。

 大会の形式は予選が舞台から落ちたら即刻、失格の参加者全員でのバトルロワイヤルで本戦はトーナメント形式だ。

 面白いことにこの大会では意思疎通でき、字が書ける者だったら誰でも参加出来るという。実力主義の帝国だからこそ出来る荒技だとも言える。人の形をしたモンスターや完全に動物な者まで予選では色々な者がいて面白かった。

 俺は芋けんぴで自分の身体能力を底上げし短剣を使って予選は余裕だった。


『ねぇ、予選が余裕すぎたから芋の声を聞いてたんだけど、三人ほどヤバい奴がいる』


 宿に帰り予選の疲れをベッドに寝転んで癒しているとマオからそんなことが言われた。


「それってどんな奴等なんだ?」

『一人目、というか一体目は大剣を持った蛇だね。この蛇は予選で大剣を振り回しているだけだったけど全属性の魔法を使うらしい』


 そんなアホなことあるか。と突っ込みたいがそれよりも全属性の魔法の使い手か。


「対処は開始した瞬間に殴るしかないか」

『それが一番手取り早いね。二人目というか二体目はウサギだね。予選を見る限りだと格闘系だけれど本気を出していない。本来は芋を剣にして戦うらしい。三人目は黒い仮面を被った全身黒づくめのヤツなんだけれど。ウサギ同様、本気を出していない上に全て謎だって』

「ふむふむ……その他は?」

『やばそうなのはその三人だけだね。それ以外には去年のチャンピョンとか、東の国の武士とか南の島の武闘派王とかいるけれどどれも小物っぽい』

「そっか……」


 ベッドの上で芋けんぴを口に入れながら作戦会議していたら寝落ちした。

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