第6話
森の奥へ奥へと深い所まで――ベニアズマさんに世話になったのに最後は恩を仇で返すよようなことにしてしまった。この世界のことを俺は舐めていたんだ。あの干し芋の神の事だから大丈夫だろうと思い、異世界転生転移モノの作品のように無双チートを貰えたと思ったらこの世界に来てから能力が使える予兆さえない。理不尽だ。芋の神を殴りたい。彼奴が間違って俺を転生させようとしたからだ。
ハルカ君がやられたのか黒かりんとうの群れが俺を見つけ追いかけては弾丸とさして変わらない速さで飛んできては俺の身体に傷をつける。
俺がどうせ大丈夫だろうと安易に考えていた結果、そのツケが回ったのだ……因果応報、自業自得である。
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
森の中を叫びながら走った。黒かりんとうから逃げるために、必死に。血を拭う暇もない。ただ、走る。走る。はしr――。
「――グハッ」
飛んできた黒かりんとうの一体が俺の腹を抉る。クリティカルヒットだ。そのまま全身を殴打しまくりながら転がり骨が折れる鈍い音と共に木の根元にぶつかり血を吐いた。
「おうおう、手間取らせやがって」
黒かりんとうの一体がそう言いながら飛び跳ねている。
もう俺はここで終わるんだな。死んだら芋の神にまた会えるかなぁ……そしたら今度はあの芋の神を殴り飛ばしてやる。こんな世界クソ食らえってな。
あーあ、もう頭がボーッとしてきた。もう無理だわ。
『――芋けんぴと言って』
唐突に頭の中に自分の声を少し高くしたかのような声が響く。
「だれ……だ?」
周りには黒かりんとうの汚い声しかないというのに。でも最後に大好物な芋ぺんぴが食べたかったかなぁ……。
「芋……けん、ぴ」
最後の最後に振り絞った最後の力を掠れた声で言う。最後の言葉が『芋けんぴ』とか。諦めて死を受け入れた。なんだかもう目の前が真っ白になって来たなぁ。
『――まだ死んでないよ! その光に手を突っ込んで!』
ああ、また聞こえる。もう指の先さえ動く訳ないじゃん。そっか、これは俺が心の底、無意識にまだ生きたいと願ってるんだな。それならもう少しだけ頑張ろう……かな。
真っ白な視界に手を伸ばす。
『掴んだら願って! 芋けんぴを食べたいと!』
俺は最後に願った。強く、強く、願った――。
「な、何が起きていやがる! お前ら! 攻撃しろ! 俺たちを侮辱した此奴を殺すんだ!」
黒かりんとうの声がハッキリと聞こえる。動かなかった身体が動く。黒かりんとうたちが一斉に飛びつこうとしてる。それよりも手にあるのは何だ?
「――芋けんぴ?」
自分の手元に視線をやるとそこには見慣れた食べ物――小袋の芋けんぴが。
『――聴こえてるよね? その芋けんぴで攻撃したいと願って!』
「えっ、えっと、え?」
『――早くっ!』
俺は頭に響く声の通りに『芋けんぴで黒かりんとうを攻撃したい』と願った。
芋けんぴの袋が破裂し、弾丸のように突っ込んでくる黒かりんとうに向かって芋けんぴが光り輝きながら飛んでいく。
「なんだその力はっ! ――うぎゃっ!」
「こっちに来るなぁ! ぎゃあぁ!」
俺を中心に囲んでいた黒かりんとうは次々に倒れていく。まさに死屍累々だ。
「何が起きている……?」
最後の一匹の黒かりんとうが倒れたところで光り輝いて飛んでいった芋けんぴは全て消滅した。
少し落ち着こうと思い、とりあえず動けるようになった身体を確認するために立つ。
「立てた? 手もお腹に空けれられた穴も治っている」
先ほどまですんなりと立てた驚きと治っている身体に白黒していると脳内に声が聞こえる。
『――あ~、あ~。聴こえてますよね? 私は貴方のもう一つの人格です』
「俺のもう一つの人格ってどういう事だ?」
『落ち着いてくださいって、説明しますから。とりあえず、ここから移動しましょうう。近くに川があるのでそこに移動しましょう』
死にかけたとは思えないくらい軽い感じの口調で語りかけてる声に俺は困惑した脳内と共に川まで歩いた。
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