第4話

 俺がこの世界に転移してベニアズマさんの世話になってから三か月が過ぎようとしていた。記憶喪失を言い訳にし、ベニアズマさんの使用人から文字や政治、文化を教えて貰うが毎日驚くことばかりだ。


 この世界は芋族と人族と二つの知的生命体が住んでいる。もともとは人間しか住んでいなかったが、ある国の王様が干し芋の神からのお告げで掘った芋に祝福を貰いその芋で芋けんぴを作ると生命が宿りその後、世界各地で芋の生命体が繁栄したらしい。と、世界で一番信仰されてる宗教、『芋けんぴ教』の聖書に書いてある。

 干し芋の神なのに宗教名は『芋けんぴ教』とかなんで急に芋の生命体が出て来た理由についてとか色々突っ込むところが多いが、調べてみるとこの世界の宗教は基本的に芋けんぴ教と同じで聖書は怪文書で読めたものじゃない。いちいち気にしていたら負けな気がするのでこの世界の宗教に関しては無視を決め込むことにした。


 一番驚いたことは記憶喪失で荒らされた芋畑に倒れているという事件は昔から多く、その中には本当の芋泥棒もいるが基本的には芋泥棒の代わりに置いてかれるらしいという事だ。俺と同じく干し芋の神に間違って転移させられている人がいるのかもしれない。いつか探したいと思っている。


 そう言えば此方の世界に来てからもう一つの人格と意思疎通が出来ていないのが気掛かりだ。羊皮紙と羽ペンを毎日置いているが全く反応がない。それと貰った能力も未だに使えるどころかどんな能力かさえ分かりやしない。干し芋の神が言葉を濁していたことが今思えば嘘をついているから濁したとも捉えられる。様子見はもうやめてあの神を殴りに行く旅に出るのも悪くないな。

 と、まあ、こんな感じで慣れてきたからこそ心に余裕ができ色々考えて不穏になる日々を送る。


「ベニアズマさん、今日の収穫終わりました」

「ご主人様、今日も大量です」


 今日も使用人の一人である、芋族のキントキと共に馬鈴薯の収穫を終えたことを報告する。キントキは俺の教育係兼世話係の一人で仲は良好である。

 収穫したのは此方の世界でメジャーですぐに育つことが特徴の『二十日馬鈴薯』だ。


「おう、キントキ、リュージン戻ったか。それじゃあ、収穫した馬鈴薯の仕分けするからアンノウ達を馬鈴薯保管庫に呼んでくれないか?」

「分かりました、俺が呼んできますね。キントキさん、良いでしょ?」

「そうですね。呼んで来てください。俺とご主人様は先に向かってますので」


 俺は掃除中であろうアンノウさん、ポックルさん、ハルカ君を呼びに行く。

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