第2話
包み込まれた白い光が収まって見た眼前には真っ白い空間に薩摩芋に馬鈴薯、蒟蒻芋や里芋、山芋……分かるだけでこれくらいだが様々な種類、品種の芋が山のように積み上げられている。
「な、なんだここは…」
上下左右何処を見ても芋、芋、芋。まさか、芋けんぴの食いすぎで芋しか見えない幻覚にトリップしたのか? いや、それは無いな……最近の食生活は大好物の芋けんぴだけだ。ならば薩摩芋の幻覚を見るべきなのが筋だろう。ということは……これはどういうことだ?
混乱する脳を諫める最中、目の前に目算で数十メートルはある超巨大な物体が落下してきた。
「っ!」
落下した超巨大の物体は芋の山に思いっきりぶっ刺さる。その衝撃で芋の山が爆発するかの如く方々に飛んだ。
「うわわっ!」
此方にも飛んできて腰を抜かすほど吃驚したが何故か一個も俺には当たらなかった。ただビビり散らかしている俺、恥ずかしいな。ここに誰かしら人がいたら思いっきり笑われていただろう。
俺はゆっくりと上から落ちてきた超巨大な物体をまじまじと見上げる。
「どう見ても大きな干し芋だよな……」
俺の目が見間違うはずがない。芋けんぴが好きになった頃に芋けんぴと間違えて干し芋を買った時に二度と間違えないように目に焼き付けたのだから。これは間違いなく超巨大な干し芋だ。
「でかいなぁ……」
なんかもうハチャメチャなことの連続で一周回って冷静になった結果、小学生並みの感想が零れた。同時にズモモと手足が、ギョロッと目が、ズボッと髭が生えた。文字通りのオノマトペのような音を立てて生えたのだ。
「どうやら今回は異物が混じってしまったようだな」
此方を見るやいなや、厳格な表情をして喋りだす超巨大干し芋。いや、これは脳内に直接って感じか。
干し芋に手足に顔って…正直、面白おかしくもあるけれど気持ち悪さの方が強い。
「おいお主、気持ち悪いと思っただろう。酷い奴だな。我は一応、一つの世界を収めている神だぞ。それとお主の言う通り脳内に語りかけているぞ」
「ご、ごめんなさい……」
怖くて反射的に謝ってしまった。
一回、混乱を挟んでいる状況で良かった。頭の中が冷静なままの状況だったらむしろパニックなって叫び散らかしてこんな喋るおかしな自称、神の干し芋と会話なんて出来なかった自信ある。
「おいお主、この空間では心で思ったことがそのまま相手に伝わる。気をつけろよ、お主の考えていることは筒抜けだぞ」
「あ、はい。すみませんでした……それで、俺はどういう状況なんですか? これは芋けんぴの食いすぎで起きた幻覚か、悪夢の類でしょか? あ、それとも今、流行りの異世界転移ってやつですかね? そうなると俺は芋の世界に転移するってことですかね? それか——」
「——ちゃんと説明してやるから、一旦、黙れ!」
「むぐっ——!」
俺の口の中へと薩摩芋が突っ込まれた。いや、これは突っ込まれたというより、薩摩芋が俺の口の中に転移したとでも言うべきだな。
「やれやれ、面倒くさい奴を巻き込んでしまったな……」
「いやぁ、それほどでも」
突っ込まれた薩摩芋も口から抜き出してボケてみた。
「ああもう、煩わしい——」
あ、面倒臭がられてスルーされました。
そんなこんなで超巨大干し芋に対して、饒舌になった俺は脳内で思ったことをそのまま伝わるということ、超巨大干し芋が以外にもフレンドリーということが相まって説明の間に何回も俺が超巨大干芋にツッコミを言ったり、若干の言い争いになったりと話があちこちに飛んだので以下略。
ということで超巨大干し芋の話を纏めるとこうだ。
壱、超巨大干し芋は世界を一つ納める神様であり、その世界は地球で食べられて無残に散った芋類の魂を転生させるための世界らしい。
弐、本当は芋けんぴにされた薩摩芋の魂を自分の世界に転生させるつもりだったが最近ずっと芋けんぴしか食べていなかった俺の身体に溜まっていた薩摩芋の魂の欠片が上手く取り出すことが出来ず、誤って俺ごとこの空間に来たという。
参、この空間に来た時点で俺は元の世界に帰れないらしい。その理由は単純に超巨大干し芋の神としての力が足らず、現状は自分の世界ににしか転移させることしかできないらしい。
肆、転移するに当たって言語は理解できるようにした上で俺の人格一つにつき能力を付与するがその能力は現地で分かる。
と言う事だ。
大体は理解できたが、この中で一番分からないのは肆の人格に一つにつき一つの能力と言うところだ。俺は解離性二重人格なのでもう一つの人格との会話は文字に残して伝えるという面倒くさい方法なのだ。何が起こるか分からない世界に転移するにあたって、安全に寝られる場所と伝える手段の確保をしないといけない。それがその世界にあるかどうかを問い詰めたが頑なに干し芋の神は語らなかった。
「——おい、いい加減に答えてくれよ! 人格につき一つという事は俺のもう一つの人格にもあるってっことだろ? 俺は解離性二重人格なのにその世界に行って安全にもう一つの人格と意思疎通出来るところが無いと俺は嫌だぞ!」
「だぁかぁらぁ! 転移すれば分かる事じゃ! それと禁則事項じゃて何度言えば分かる!」
俺と干し芋の神はずっとそのことについて口論をして体感、一時間以上。ずっと同じところで話がループしている。俺が食い下がっているのがいけないが俺にとっては本当に重要な事だ。絶対に聞き出してやる。
「ああもう、面倒くさい! 強制転移じゃ!」
急に俺の身体が光り輝き始め、足からどんどん光の粒になっていく。
「あ、おい! まだ話は終わっていないぞ!」
「儂の世界に行けばおのずと分かる……達者でな。芋の転生に巻き込まれた小さき人よ」
さっきまで声を荒げていた干し芋の神とは打って変わって優しい慈愛に満ちた声で語り掛ける干し芋の神。
正直、人生の中で一番怖いと感じた。
そう感じたが俺はその恐怖を強制的に話を終わらせて俺を転移させるということに対する怒りで打ち消し、干し芋の神に叫ぶ。
「必ず、もう一度お前の前に現れて殴り飛ばしてやる! クソがぁぁぁぁぁぁっ!」
光の粒となった俺は視界をはじめとした感覚が消えていき、最後に意識が徐々に薄れてった――。
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