番外編⑦『栄えある一番は誰?』

 ――胸とは、夢あふれるロマンの塊である。

 それは単なる脂肪に非ず。少年ならばその大きさに妄想し想像する。

 少女ならば羨望の対象として、あるいは嫉妬の対象として。

 大いなる双丘を持つならば、肩が凝るという悩みも付きない――まさに万の談義の種となる。

 戦乱の時代にあってもそれは関係ない――むしろ熾烈な戦いがあるからこそ、人々はこぞってロマンの塊であるその話題について談義を交わす。


 

「――最近、誰かの視線を感じることが多いですね」

 蒼穹にまばゆいほどの日差しが注ぐその日。拠点たる小屋の一室で、アッシュは擬人化娘の報告に眉根を寄せた。

 相談したのは銀髪の美少女にして聖剣の娘であるシルティーナだ。

「どういうことだ、説明してみてくれ」

「はい。先日から鍛錬や日常の何気ないときなど、妙に視線を感じることが多く……よもやこれは帝国の密偵なのでは、とアッシュ様に相談をしようと」

 擬人化娘はこの国の主戦力であり希望の象徴でもある。

 それを帝国が監視、というのはあり得る話だ。

 隣で聖短剣の娘、ユリーハも言い募る。

「わたくしもです。散歩や偵察、街での買い物……いたるところで『視線』を感じることが多々あります。はじめは気のせいかと思ったのですが……わたくしでも発見出来ないとなると、相当の猛者かと」

「なるほどな」

 アッシュは極めて真剣な面持ちで、あごに手を添え、頷いた。

「理由は明白だ。――お前たちが『露出多めの衣服』を着ているからだろ? だったら結論も簡単だ。嫌でも目が行ってしまう人が多いだけ。はい論破。説明終わり」

「いやいやアッシュ! それだとあまりに可哀想よ!」

 シャルナが思わず突っ込んだ。

「シルティーナもユリーハも日頃、頑張ってくれてるわ! なのにその言い草! もう少し、言い方ってものが――」

「しかしシャルナ、そうは言っても考えてもみてくれ」

 幼なじみの少女に向け、アッシュは溜息混じりに語る。

「シルティーナは胸元が大きく見える衣装だし、へそ周りも大胆に見えてる衣装だ。可憐で姫みたいで豪奢だが……動くと長いスカートのスリットから太ももや白いガーターベルトがちらりと見えるんだぞ? ……むしろ、人目がいかない方があり得ないと思うんだが」

「う……そ、それは……っ」

「あとユリーハも、まず胸がでかいし、体に密着している黒装束だ。かと思えばこれもまた長いスリットで、脚の曲線美が映える服だし、それに網タイツも使用してる。これだけの要素があれば、むしろ見ない方がどうかしていると思うのは俺の気のせいか?」

「それはそうねー」

 シャルナが納得し、シルティーナやユリーハいやいやとが抗弁する。

「そんな! アッシュ様、それではわたしたちがまるで痴女みたいな言い草ではないですか!」

「三割くらい合ってると思う」

「いやいや! ……確かに、わたしは動きやすさを優先してこのような衣装をしています。……が! それは誤解! 全ては戦闘のため! その言葉、撤回していただきたい!」

「お前、割としょっちゅう俺に膝枕したがるじゃん。前には入浴中に乱入してきたり、皇妃との婚約どうのこうの。痴女まではいかなくても、少なくとも清楚とは程遠い前科があるんだがそれはどう思ってるんだ?」

「ええと……」

 シルティーナは急に聖剣で素振りをしだした。「今日は良い素振り日和ですね!」とじつに白々しい。

 横でユリーハも必至に言い募る。

「アッシュ殿! わたくしは衣装を魔力で編み、隠密に向いた衣装を着ているだけ。シルティーナ殿のように、色目を使ってアッシュ殿を誘惑したり、あわよくば皇妃を狙って色々暗躍とは無縁です! その認識は改めていただきたいです!」

「お前も入浴中の俺に乱入してきただろ。あとバーネットから聞いたけど、お前最近、図書館娘のリーンベルのところに行って、『男性に好かれるコツが書かれた本ありますか?』と聞いてるんだって? 男性って誰だよ。俺の目を見て言ってみろ」

 ユリーハが突然、汗をたらたらと垂らしながら目を逸らした。

 シルティーナが微笑みながらユリーハに近づく。

「ユリーハ様? 今わたしのこと何ていいました? え、誘惑? 模索と?」

「あうああああ……」

 シャルナが慌てて叫んだ。

「まま待って! こんなことで喧嘩をしてはいけないわ! 穏便に! 穏便に! ……アッシュ、何かいい案はないの?」

 アッシュは数秒の間、思案顔をしてから応じた。

「いくつかある。シルティーナ、ユリーハ。今日から【シャルナと同じ衣装を着て】生活しろ。そうすれば普通の衣装だろ。視線は自然と収まり、平凡な日常を送れるだろう」

「さすがはアッシュ様!」

「名案を思いつくのが上手い!」

 絶賛する二人とは裏腹に、シャルナが顔を引きつらせた。

「え、私の衣装……? あの、何か……嫌な予感しかしないんだけど……」

 そうして彼女の呟きは風に流れ、そしてシルティーナとユリーハは行動した。

 それぞれ魔力でシャルナの衣装を模倣し、その日を過ごすことになる。

 

「あ、シルティーナさん! 鍛錬の見学をしてくれ……何だよ。良く見ればシャルナじゃないか。なに、買い物?」

「あの、ユリーハさん、あとで隠密術について聞きたいことが――ってなんだシャルナか。紛らわしい格好だなぁ。ユリーハさんかと思ったぜ」

「なあシルティーナさん……あたし、あなたのことが…………あ、なんだシャルナぁ? なんであの人と同じ衣装なの? もー、紛らわしいなあ!」

 

 半日後。

「ねえアッシュ!? なぜか皆がシルティーナやユリーハと勘違いして! わたしだと知ったら文句言ってくるんだけど!? しまいには『シャルナ、おまえ衣装変えろよ。シルティーナさんとユリーハさんの格好、同じだから紛らわしい!』って文句まで出てきたんだけど!?」

 アッシュは続けていた書類作業の手を止めて顔を上げた。

「気持ちは判る。擬人化娘は人気者だから、お前と見間違えて苛ついたんだろ。シルティーナとユリーハと同じ格好なんだから、そりゃ文句も出るさ。我慢我慢」

「時系列おかしくない!? わたし、ずっとこの衣装着てたのに!」

 シャルナの着ているのは故郷、聖者の里の民族衣装だ。

 英雄の子孫であることを誇りとする格式高い衣装。所々が金や黒曜石に似た模様で、白い上質な絹などを組み合わせた、由緒正しい衣装だ。

 シルティーナとユリーハのパクリ呼ばわりされたシャルナが憤る。

「まったく! わたしはいつも通りなのに迷惑千万だわ! シルティーナ、ユリーハ、すぐに服を変えて!」

「すみませんシャルナ様。わたしの美貌、どこに行っても目立つようで」

「申し訳ありませんシャルナ様。この衣装、割と気に入ってるのため、変えたくないです」

「あああ……っ、もう……っ! これだからもう!」

 シャルナは自分とそっくり同じの衣装の二人を睨みつけた後、こう言った。

「いいわ! じゃあこうしましょう。――わたしとあなたたちを、混合しないように髪型を変えるの! ……そうね、シルティーナ、ユリーハ。あなたたち、今日からスキンヘッドで生活してみて!」

「「それだけは勘弁を」」

 一拍置いて。

「むしろユリーハ様が、「殿が」変えてくれると嬉しいです」」

「このアンポンタンどもが――っ!」

 どうやらシルティーナとユリーハは、新たな衣装で新鮮な気持ちもあり、若干浮かれている。

 普段より無茶なことも言っている。この辺りは衣装に興味を示す普通の女の子らしいと言える。なのでアッシュとしては微笑ましい光景ではあったが。

「……そうだな。何であれ争いの火種になるのなら避けるべきだろう。シルティーナ、ユリーハ。すまないが元の衣装に戻ってくれ。シャルナだってこの国に貢献してくれている。あまり負担をかけたくない」

「ありがとうアッシュ! 今日は優しいのね。ついでに擬人化娘の情操教育の係、変えてくれると嬉しいわ」

「それはお前以外に適任がいないからお前が担当してくれ」

「まあ~~~そうよねー。期待してなかったけどね~~~…………」

 一縷の望みをかけて頼んだシャルナがぼやきにも似た口調で言った。

 彼女は擬人化娘の教育係。

 人間になって日が浅い擬人化娘たちに常識を教えるのは大変だが他に適任者がいない。他に頼んでも途中で逃げる。

「さて。話もまとまったところで俺は昼食にするから。お前たちはどうする?」

「アッシュ様。わたしが膝枕して『あーん』などして差し上げましょう」

「あの、アッシュ殿。たまには趣向を変え、ホッキーゲームなどは……」

「やめてくれトラウマを刺激しないでくれうああああ……っ」

 珍しく取り乱したアッシュもあって、その日、その後は何事もなく終わった。

 

 一方、山岳都市の一角にて。

「――皆、集まったな? これより、同志による会合を開きたいと思う」

 アッシュたちとはまるで関係のない宿屋の隅。四人の影が談義をかわそうとしている。

「今日集まってもらったのは他でもない。シルティーナとユリーハさんのことだ」

 彼らは『聖者の里』出身の者たちだ。故郷である里が、帝国の幹部ゼーレハルトに襲われ、ここへと避難。その後はアッシュが起こしたアッシュルナ皇国の一員として活動していた面々だ。

「今日、シルティーナさんとユリーハさんが突然、衣装を変えて驚いたと思う。それについて、我々は是非感想を言い合いたい」

 一同は一斉に頷いた。

 数秒後、何かを溜め込むかのように黙った後。

「ああ! 素晴らしい、すごいよシルティーナさん! あの衣装、あの着こなし、まさに王女の如し!」

「ユリーハさんだって負けてはいないわ! 立ち振舞から漂う強者の威厳! それでいて淑やかさも感じる仕草! は~、うっとりしたわ~」

 彼らはウンウンと頷き合う。夜闇の下、宿屋の中で熱き感想が交わされる。

「何がいいってシルティーナさんとユリーハさん、何を着ても似合うことが判ったことだな!」

「普段とは布地も色合いも全く違う衣装! なのに一瞬シャルナの方がパクリと思ってしまう着こなし! 可憐! 清楚! もうね! もうね!」

 四人は揃って、天井を見上げて言った。


「「は~~~~~~、尊いわ~~~~~~~っ」」

 

 ――擬人化娘は、この国において希望の象徴である。

 一人一人が一騎当千、いやそれ以上もザラではない無双の戦乙女。

 並み居る帝国兵を蹴散らし、先日の帝国の《八神将》との激戦でも活躍。まさに戦いを司る存在と言っていい。

 加えて、全員が美少女ときている。銀髪の聖剣使いシルティーナ、天真爛漫で聖盾使いのミリー、隠密の要たるユリーハに、大魔導書のバーネット。それに、要塞から転生したフローレンス。いずれも歴史に名を残しかねない美貌だ。

 この国の者たちにとって強さとは絶対だ。そして憧れや尊敬の対象とも言える。

 戦闘において頂点である擬人化娘たちは、もはや崇拝の領域にすら入っている。

「連日連夜、シルティーナさんやユリーハさんを見守っていたが、これほど興奮したことはない!」

「ああ、特にあの二人はスタイルもいいから何着ても似合う! 想像はしていたが、まさかあそこまでとは。脳が……とろける!」

「あたしね、あたしね、実際に鼻血が出たの! もうね、輝かしいあの衣装を着ただけで、地面が鮮血で染まったわ」

「「わかる! わかるよ!」」

 擬人化娘たちのファンである彼らはしきりに頷く。

 なお、女の子が女の子に夢中になったり、鼻血出たなどの程度は、今さら突っ込みを入れる者はここにはいない。

 全員が生粋の擬人化娘のファンであり、欠点と思える所すら「尊いわ~」と美点に変換されて興奮の材料となる。

 そしてシルティーナたちがアッシュに相談していた『視線』を送っていた犯人たち四人でもある。

 彼女らが知ったら粛清されるだろう。

「諸君! これでシルティーナさんやユリーハさんの魅力は我々をより魅了したわけだ! だが我々は変わらず彼女らを見守ることに変わりない!」

 リーダー格の青年が高らかに宣言する。

「いやしかし……今日は視線が気になる、とかシルティーナさんたちが言っていたよな? まさか……気づかれていたとは」

 ファンの一人の少女が言った。

「そうね。迂闊だったわね。まさかバーネットさんに貰った『隠密』の魔道具を使ってすら察知されるなんて……さすがシルティーナさんとユリーハさん、素晴らしいわ」

 バーネットからは「変なことには使わないでね? まあ一応ね」と言われて受け取った物品だが、この程度なら問題ないと感じている四人でもあった。

「そうだな……さすがに視線が気になると言われては、我々としては失敗と言わざるを得ない。今後はより遠くから見守ることにするが――意義はあるか?」

「「異議なし!」」

 リーダーは深く頷いた後。

「よし、それでは次の議題に移ろうと思う。――それは」


「擬人化娘のうち、誰が二番目に、『巨乳であるか』――だな」

 

 四人が一斉に頷いた。

「そう、一番胸がでかいのはフローレンスさんと誰もが知っている。なにせ要塞娘だからな。それに異論はあるまい」

 一人が手を挙げて報告した。

「目算ですがバストZカップの数十倍はありますな」

「その通りだ。ゆえにフローレンスさんに関しては不動の一位として考え、我々が考えなければならないのは――誰が二番目に大きいか、だ」

 一同が大真面目に首を縦に振る。

「やっぱりシルティーナさんじゃないか? 胸元大きく見えてるし、歩いているときもその大きさは際立つ。彼女が筆頭に上がると思う」

 他の少し太ったファンが首を横に振った。

「いいやユリーハさんこそ二番目だな。あの密着した黒装束。そこからはみ出さんばかりの巨峰。まさに巨乳と言うに相応しい。霊峰のお手本だ」

「バーネットさんは?」

 リーダーが即座に言った。

「バーネットさんは……他と比べるとやや慎ましいな。それでも平均程度はあるとは思うが。さすがにシルティーナさんやユリーハさんと比べるのは酷だろう」

 うんうんと一同が頷く。

「ミリーちゃんは?」

「あの子は大きくては駄目だろう。小さい天使、『お兄ちゃーん』と甘ったるい声でさえずってくれるから良いのだ。異論はあるまい?」

「異議あり! 成長して巨乳幼女になるのもアリだと思います!」

 太ったファンの少年が、手を挙げた。

「なんだと? 同志ドライ。貴様、ミリーちゃんが胸大きくなっても良いと抜かすのか?」

「だって巨乳幼女ってロマンじゃないか! でかいのに小さい、そのギャップが最高じゃないか! 全てが大きければいいってもんじゃないぞ!」

「き、貴様! 同志ドライ! それは小さい胸が好きな私を、侮辱と知っての発言か!? 表へ出ろ!」

「小さい胸もいいがロマンが大事だよ! ミリーちゃんは成長して巨峰! これが理想だ!」

「貴様ぁぁぁぁ! 歯を、歯を食いしばれ! 同志ドライ! 修正してやるぅぅぅ!」

「そっちこそ、奥歯の代わりを用意しておくんだな……っ!」

 互いに剣や槍を抜き、臨戦態勢に入ったところでファンの一人が言った。

「待て待て、アインにドライ。僕たちの目的は擬人化娘たちの談義じゃないですか。喧嘩するためじゃないでしょう?」

 冷静沈着な態度。職人に作らせた特注の眼鏡。顔立ちがそれなりに整っている少年が、眼鏡のつるをクイッと押しながら発言する。

「美人で巨乳。幼女で巨乳。どちらも尊いことには変わりない。僕たちはそれぞれの性癖で魅了されていれば良いのです。価値観を他人に押し付けることは野蛮ですよ」

「……そ、そうだな、すまない、同志ツヴァイよ」

「あまりのことに、我を忘れていたよ、同志ツヴァイ。ごめんな」

 臨戦態勢だった二人が武器を収めた。

 ツヴァイと呼ばれた眼鏡少年が笑う。

「擬人化娘は皆、美しいし可憐――そのことに異論はないでしょう。細かな好みの差異で争うのは愚かなこと。我々は平和的に彼女らを見守っていけば良いです」

 全員が「異議なし!」と叫んだ。

 眼鏡の少年、ツヴァイが眼鏡のつるをクイッと押しながら続けた。

「ちなみに僕は、シルティーナさんかユリーハさんに踏まれて、『痛いですか? 痛いですよね?』って言われながら『気持ちいいです……』と応えるのが夢です」

「「業の深い生き物だな……」」

 一同は戦慄しつつも、他人の趣味には口を出さないのが掟である。

「さて諸君! 互いに絆を深め合ったことで談義の続きといこう! ――フローレンスさんを除き、誰が一番胸が大きいか!」

 リーダーが場を再び仕切る。

「あたしの目算でも一番はわからないのよね……」

「俺もだよー。シルティーナさんもユリーハさんも『胸が湯船に浮くらしい』――ということまでは知ったけど」

 リーダーがファンの少女に言った。

「そうだな。先日、シルティーナさんやユリーハさんと銭湯に入り、胸が湯船に浮くことを確認したフィーア。彼女が言ったので間違いない。だがそれ以上は――」

「ごめんなさい、アイン、ツヴァイ、ドライ……あたしが不甲斐ないばかりに」

 しょげるファンの少女にリーダーが肩へ手を乗せる。

「いいや、そんなことは良い。問題は……近接しても判らなかったということだ。それほどの僅差ということは、普通の手段では分からないということ。どうすれば測れるのか、議論が必要だ」

「いいえ、あたしが謝ったのは、シルティーナさんとユリーハさんの胸の大きさ、それを測る前に、鼻血出して気絶しちゃったことよ」

 アインとツヴァイとドライは、一瞬だけ無言になった。

「貴様にはがっかりだよフィーア!」

「そうですよ! 自分に任せて、とか言いながらなんですかその体たらく!」

「ファンの風上にも置けないよもう!」

「だってだって!」

 フィーアは半泣きで皆に謝る。

「ごめんね! でも想像してみて? 目の前に憧れだったシルティーナさんやユリーハさん、二人が裸体で自分のそばにいる。手を伸ばせば触れられるほどの近くにいるのよ? ――そんな状況で、人類の中で鼻血を出さないのなんている? いないでしょ?」

「確かに!」

「それなら仕方ないな!」「ですね!」

 一同は揃って、フィーアの意見に賛同する。

「むしろ胸が浮くことだけでも判っただけ良しとしよう」

「そうですね。フィーア、僕が間違っていました。あなたはこそ最大の功労者」

「ごめんねフィーア! 凄いよフィーア!」

 リーダーのアインが軽く手を打ち鳴らし、流れを戻す。

「ふーむ。だがそこまで判っていて、なお一番が分からないのはファンとして不甲斐ない。何らかの方法で真相を知りたいものだが……」

 しばらく、一同が思案に没頭し、膨大なるアイデアが量産されていく。

「――皆、僕にいい考えがあるよ」

 ふと眼鏡のつるをクイッと押しながら、ツヴァイが静かな声音でそう言った。

「何か浮かんだのか、ツヴァイ」

「――考えたんだ。昔読んだ本の中に、女の子がイケメンに、背後から『違う。料理はそうじゃない、こうだ、貸してみろ。俺が――教えてやる』って言って女の子の背中に密着して、背後から料理の手ほどきをするシーンがあった」

「ま、まさかツヴァイ……っ!」

「あなたはそれを……っ!」

 ツヴァイは、眼鏡のつるを一際強くクイッと押しながら高らかに宣言する。

「そう――同じことをやれば判るんだ。シルティーナさんかユリーハさんから、背後で密着してもらって、指導される流れを作ればっっっ!」

「ああ! 押し付けられる巨峰! その弾力! それで胸の大きさが判別出来ると!?」

 おおおおお、と一同が凄まじくどよめいた。

「す、すごいわ! そんな方法が、あったなんて!」

「ツヴァイ、君は天才だよ!」

「ツヴァイ!」「ツヴァイ!」「ツヴァイ!」

「ふふ、よしてくれ」

 眼鏡の少年はまたもつるをクイッと押しながら言った。

「それほどでもないさ。――君たちもいずれ思いついただろう。……ともかく。同志諸君。あとは実行あるのみです。考えるべきは――誰がその役割を、担当するかですね」

「私が! 私がやるから! 絶対に!」

 少女ファンのフィーアが手を挙げた。

 リーダーのアインが首を横に振る。

「フィーア、残念ながらお前は駄目だ。なぜならシルティーナさんやユリーハさんの胸が密着したとき、絶対鼻血出して倒れるからな。諦めろ」

「ええ~~~それは……そうね」

 フィーアは無念そうに挙げていた手を下ろした。

「ここは発案した僕がやるべきでは? 常に冷静で、的確な意見を述べる僕の出番です」

「ず、ずるいよツヴァイ! いくら発案者だからって!」

「そうだ、それとお前は巨乳幼女派だろう? シルティーナさんとユリーハさんの胸の差、判るのか?」

「判るとも! 巨乳ならどんな差も判る! それが巨乳好きというものですよ!」

 リーダーのアインが手を打ち鳴らした。

「待て待て。身内同士で争っても意味がない。……ここは公平にクジで、といかないか? 運を天に任せる――それこそ我らがファンに相応しい、平和的で紳士的な方法だ!」

「アイン……っ!」

「さすがは我らがリーダーっ! 判ってる!」

「ふふ……褒めるな褒めるな。……ではやってみようか。こういうこともあろうかと用意していた、クジ。四人のうち、誰かシルティーナさんとユリーハさんの胸に密着してもらうか――それでは全員で引くぞ! ――せーの」

 

「いたーっ! お兄ちゃん、覗き見していた人たちを見つけたのです! 全部で四人です!」

 

『よし、よくやったミリー。では全員捕らえて地下牢に閉じ込めておけ。後で矯正する』

「「やめてぇぇぇぇぇぇぇ」」

 窓の縁から聞いていたミリーとアッシュの通信具越しのやり取りに、アインたちは絶叫した。

 

 

 ――数時間後。この件に関してシャルナが報告を聞き、まず呟いた言葉がある。


「今日もこの国は平和ね。さて、日記に何て書こうかしら……」


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※本エピソードはカクヨム限定公開となります。専門店特典SSとは内容が異なります。

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