番外編⑥『ホッキーゲームをしよう!』
――文化とは、人が人であるための根幹である。
食文化、芸能文化、武芸における文化、それはまさに多種多様。
年月と数多の人々が生み出した人類史の営みの一環。
貴賤は関係なく、また土地や歴史も関係ない。いかなる文化も、そこで人々が日常を営んで生まれた結果。それが――文化である。
「ホッキーゲームをやりたいって?」
とある午後の日差しが暖かな、その日。拠点たる小屋の中で、アッシュが問い返した。
応えるのは大魔導書の娘、バーネットだ。
「そう! それなりに昔から存在したゲームでね、いろいろな人が幸せに至るゲームなんだ。人の生み出した文化! ゲームの中での人気なんだ! それがホッキーゲームさ」
上機嫌に語るバーネットに、アッシュは上腕を組んで尋ねる。
「ふうん……俺は里で育ったから詳しくは知らないが……皆はどうだ?」
問われたシルティーナは小首をかしげる。
「いえ。わたしも人と接した期間は長いですが、普段は保管庫でした。なので、市井で流行った遊びなどは判りません」
「ミリーもなのです! そのホッキーゲーム、よく判らないのですよ!」
小柄な少女、ミリーも片手を上げて宣言する。
「そうか……まあそうだよな」
ホッキーゲーム。それはホッキーと呼ばれるチョコが付いた細い棒状の菓子を用いた遊びである。
参加者は二人。それぞれホッキーの端と端を加えながら、互いにお菓子を食べ合い、途中で折れた場合は、長い棒の方が勝ちというシンプルなゲームだ。
よく街中で仲の良い友人、恋人、時には家族などが行い、笑顔や幸福の溢れる、大変素晴らしいゲームと言えた。
しかし。
「あわわわ……あわわわ……っ」
シャルナだけが。そのゲームをよく知らない擬人化娘をよそに、震え上がっていた。
ホッキーゲーム。それは楽しいゲームであることは間違いないが、お菓子を端から食べ合うという関係上、たまに参加者『二人の唇と唇がくっつく』ゲームとして有名だった。
英雄の子孫として鍛錬してきたアッシュや、世俗に疎い擬人化娘たちは当然、知らない。
例外は、膨大な知識を有する大魔導書のバーネットや、街によく買い物に行くシャルナだけだろう。
つまりは――。
「ふむ。皆、知らないようだね。それでは今から早速、ホッキーゲームをやってみよう。皆、日頃から忙しいからね、たまにはレクリエーションというのも必要さ!」
「「賛成!」」
「(あわわ、あわわわわ…………っ!)」
実情を知っているシャルナだけは当然、慌てていた。
「(あ、アッシュと誰かがキキ、キスだなんて! 駄目よそんなの絶対駄目!)」
幼い頃からアッシュのことをひたすら想い続けたシャルナ。
その彼女にとってキスとは何より重要。誰にも渡せない行為の一つ。それを、例えゲームであっても自分以外に成立させてはならなかった。
「ねえ皆。もう少し違うゲームとかやらない? ほら、ポーカーとか七並べとか」
「えー、それ、前にやったけど上手すぎる人が多いのでミリーつまらないのです」
「そうだな。シルティーナとかバーネットとか、ポーカーフェイスが上手すぎて俺たちまったく勝てないからな」
ミリーやアッシュがぼやく。
「えっと、それはそうだけど……っ」
シャルナは思考を加速させる。
「ならかくれんぼ! かくれんぼならいいでしょ!?」
「音速を超えて走れるシルティーナやユリーハが絶対的に有利だろ。この前二十戦やって、全敗したときは俺は端っこで寝てたぞ」
「ミリーも! 勝てないゲームはつまらないのです!」
「うう、ううううう……っ!」
ここでシャルナが『ホッキーゲームってこんなのだよ』と説明できれば問題はないのだが、彼女は彼女で思惑がある。
『アッシュとホッキーゲームしたい』
その一言で済ませられる心情により、やりたい――けれど出来ない。
擬人化娘とアッシュがもしキスしてしまったらどうしよう……っ! という葛藤のもと言い出せずにいた。
アッシュがそんな彼女を知らずに続ける。
「で、バーネット。賛成多数でホッキーゲームをやるのはいいんだが、ルールはどういうものなんだ? 面白そうならすぐ始めるが」
「ルールは至って簡単さ! 二人ずつで、一本のホッキーというお菓子を咥え合うんだ。そして二人ともが端っこから食べ合い、途中で折れたら長い棒の方が勝ち。ね? シンプルでしょ?」
にこやかに語る大魔導書の娘。
「ねえバーネットお姉ちゃん」
ふとミリーが呟いた。
「いつの間にか、アッシュお兄ちゃんがいなくなってるのです」
「え!?」「え!?」
擬人化娘やシャルナは思わず周りを見渡した。
確かに、たった今まで部屋のテーブル越しにいた彼の姿が影も形もない。
まるで煙のようだ。
「い、いつの間に!? わたしまったく気づけなかったんだけど!?」
シルティーナやユリーハですらもが、「い、いつの間に……」と驚きの表情を浮かべていた。
ふむ、とバーネットが細い指をあごに当てて問いかける。
「フローレンス、アッシュはいつ頃から消えたか判る?」
窓の外で成り行きを見守っていた要塞娘は、顔だけを覗かせながら応えた。
「えっと、かろうじて見えただけですけど……『お菓子を咥え合う』という辺りで、いなくなったかと……」
「逃げたんだ!」
バーネットは途端に椅子から立ち上がり、断言する。
「アッシュ、説明の途中でホッキーゲームの全容を把握! そして予測される事態を推察し、危機を察知し逃げた!」
「そ、そうね! わたしもそう思う! アッシュ、危機感知は長けてるから!」
シャルナも立ち上がりつつ叫ぶ。
「皆がアッシュを慕っているから、面倒ごとになるのを避けたんだわ!」
シャルナの言い分は正しい。
だが半分だけ間違っている。
じつは――擬人化娘たちの全員が、『ホッキーゲーム』を知っていた。
シルティーナはこの山岳都市での遊撃隊たちとの歓談から。
ミリーやフローレンスは都市内の本屋から。
ユリーハは、買い出しでよくシャルナの護衛をしたとき、恋人たちがやっているのを見て知った。
つまり――。
「(アッシュ様と)」「(お兄ちゃんと)」「(アッシュ殿と)」「(合法的にキス出来るチャンスだったのに、逃げられた!)」
――全員にとって、アッシュは物から人へ生まれ変わらせてくれた恩人だ。
また戦友として大切に扱ってくれている。さらには彼のおかげでこの国が発展していることもあり、好意はある。むしろ抱擁やマッサージ、下着を見られるくらいならなんでもないと思っている。裸ですら構わないくらいにはアッシュを慕っていた。
「ふう……逃げられたんなら仕方ないね」
バーネットが静かにテーブルを叩きながら語る。
「今からアッシュを捜索する! 全員、方位陣形を敷いて、彼を発見し、確保するよ! ――それでいいね!?」
「異議なし」「意義なしです」「意義ないのです!」「が、頑張ります……っ」
そうして擬人化娘たちが一致団結してアッシュ捕縛作戦が決定した。
「あわわわわわ……っ」
その横でシャルナは震えながら青ざめていた。
数分後。
「――いました! 第三区、銭湯の辺りで発見です!」
『よし、シルティーナはそのまま右から追い込んで。反対側にミリーがいる! 二人で挟み撃ちを!』
「「了解!」」
「なんでだよ! なんでお前たちはそんな必至で俺を捕まえようとするんだ!」
決起から数分後。
少年は悲鳴を上げて森の中を走っていた。
通信具と連携で山岳都市を探しまくり、追い詰めてくる擬人化娘に成す術がない。即席のトラップや落とし穴も作ったのだが――すぐに看破、あるいは突破され、見る見る逃げ場がなくなっていく。
「待ってくれ! 話を、話をしよう! ゲームを無理やりやらせるなんて、間違ってると思うんだ!」
「言い訳無用、ゲームとはときに無理にでも参加して、親睦を深めるためにあります」
「お前ら下心あるだけだろ!」
森の枝の上を駆け、茂みの中を通り、時に土を被りながら逃走する少年。
しかし視力や速力に長けた擬人化娘たちはそれすらも見破り、あるいは上回り、彼の逃走速度を遥かに超える脚力で追い詰めていく。
「やった! お兄ちゃんを捕まえたのです! 一番乗り!」
「くっ、位置取りの差で間に合いませんでしたか……ミリー、見事ですね」
「わーい!」
シルティーナが若干悔しそうな表情を浮かべながらも、素直に称賛する。
通信用の魔道具である腕輪に向かい、語りかける。
「こちらシルティーナ。アッシュ様を確保しました。事前のルール決め通り、捕まえた者から、アッシュ様とホッキーゲームをすることでよろしいですね?」
通信の魔道具から、すぐさま指揮官のバーネットの声が返ってくる。
『いいよ。じゃあまずはミリーがホッキーゲームだね。次にシルティーナ。あとは、じゃんけんなり何かで決めようか』
歓声が通信具越しにいくつか聞こえた。
これで、アッシュとホッキーゲームが出来る。
しかし――。
「ねえシルティーナお姉ちゃん」
これからの楽しい光景を思い描いていたシルティーナは、ミリーの声に視線を向けた。
「どうしました?」
「これ、アッシュお兄ちゃんじゃないのです。『別人』なのですよ」
「なんと!?」
シルティーナは硬直した。
「へへ……ばれちまったか、それなら仕方ねえ」
アッシュによく似た髪をしていた少年――魔道具で変装していた少年は、作戦が成功したことを誇り、やりきった感満載の笑みを浮かべていた。
「……っ! こちらシルティーナ! 緊急です! やられました! アッシュ様は『影武者』を用意していた模様! ――繰り返します! アッシュ様は『影武者』を用意! おそらく多数が辺りにはびこっています!」
『なんだって!?』
バーネットの驚きの声と。
『はあ……良かった……』
シャルナの安心したような声が、ほぼ同時に聞こえた。
「――みくびってもらっては困るな」
同時刻。アッシュはとある場所で、潜伏しながらせせら笑っていた。
「俺がこういう事態に対し、何の備えも用意してなかったと思うか? 甘いな」
暗がりのその場所で、アッシュは不敵に笑みを浮かべていた。
そう、擬人化娘たちが自分のことを慕ってくれているのは周知の事実。
具体的にはシルティーナから『婚約』の話を持ち出されたり、膝枕をされたり、他にも銭湯に入っていたら大勢が全裸で乱入してきたという前科もあった。
ゆえにアッシュは思った。
『――これ、対策しないとまずくね?』
それからアッシュは対策を決行、擬人化娘たちが暴走をしたときに備え、『保険』をいくつも準備していた。
替え玉はそのうちの一つ。聖者の里の面々の数名と、遊撃隊、傭兵隊を中心にいくつか条件を出して替え玉を打診していた。
「ふっ。まさか擬人化娘たちとの握手をする権利だけでここまでしてくれるとはな」
アッシュが擬人化娘たちに人気があるように、擬人化娘たちも、この国の皆で人気を集めている。
見目麗しく一騎当千なシルティーナ。地表に舞い降りた天使と讃えられるミリー。他にも「ユリーハさん美人!」「バーネットさんはボクっ娘可愛い!」など、純粋な好意や憧れの他、濁った大人の欲望やらでまみれている。
それを、アッシュは利用。替え玉要員として雇っていた。
「ふ、俺はあいつらを転生させた者だ。思考くらい読めなくてどうする」
アッシュは再度不敵に笑い、通信の魔道具を耳に近づける。盗聴の魔道具だ。
『うわー、こっちもニセモノのお兄ちゃんなのです!』
『わたしの方も替え玉でした。思ったより多い……っ』
『第二区と第五にも替え玉が! これは思わぬ策です! アッシュ殿! おのれ!』
各地に取り付けた中継用の魔道具を経由し、擬人化娘たちの声が聞こえてくる。
用意した替え玉は――全部で『百人』と大量だ。
これだけいれば当面の時間は稼げるだろう。
あわよくばこのまま退避していたいが……ふとアッシュは疑問を口にする。
「ところで……なんで俺は自分の国の中で、味方の女の子から隠れてるんだ?」
今さらすぎる疑問を浮かべ、しかし彼は思い直す。
「まあいいか。そのうちあいつらも正気に戻るだろう。これ自体がちょっとしたゲームだ。ある程度遊んだら、満足して帰るだろ」
アッシュは、何度か分からない不敵な笑みを浮かべ、余裕綽々の表情でそう呟いていた。
――そして一時間後。
「うーん、あいつらちっとも諦めないな」
通信具からは相変わらず捜索と捕縛の声が飛び交っている。
――三時間後。
『そちらに逃げました! 今度こそ確保を!』
『お兄ちゃん、覚悟――っ!』
「全然、勢いが衰えないな」
まるで諦めるということをしない擬人化娘たちにアッシュが呟く。
――そして、『十五時間』が経過。
「なあ長くない!? あいつらいつまで追いかけてるんだよ!? いくらなんでも長すぎるわ!」
あれからもう日は暮れ、とっくに夜中の時間帯。擬人化娘たちは相変わらず国中を捜索し、アッシュを捕獲せんと奔走しまくっていた。
『こちら第八区! 八九人目の偽アッシュ様を確認! 残るは何人ですか?』
『第三区! 廃屋の床下にまた偽者発見! 九十人目! ――さすがにもう少ないと思いますが』
『お兄ちゃーん! 出てきてほしいのですー! もう九十一人目の偽者捕まえたのです! 観念するのですよー!』
「やべえわこれやべえわほんとやっばいわ!」
アッシュは珍しく動揺をあらわにし、震える声で盗聴具を握る。
「こ、これで残る九人しかいなくなった! 替え玉がもう残存がほぼいない! くそ、あいつら思ったよりしつこい!」
まさか光学迷彩や腐臭を放つ魔道具など、隠蔽魔道具を搭載した偽者まで発見され、捕縛されるとは思わなかった。
残っている替え玉は九人。
あとは精鋭の中でも精鋭たちだが、時間の問題だ。いずれ全員が捕縛され、時間稼ぎも叶わなくなるだろう。
そして虱潰しに国中を探されれば、アッシュの命運は尽きる。
「くそ! これはやばい。俺、あいつらに捕まってホッキーゲームさせられてしまう!」
アッシュは頭を抱える。
別に擬人化娘とホッキーゲームをするのはいい。全員が美少女だ。アッシュとて年頃の男子、可憐な少女たちとの遊びが興味ないと言えば嘘になる。
だが好意の重さが問題だ。誰とホッキーゲームしようが、誰かが嫉妬、あるいは「じゃあ私も私も!」とせがむのは目に見えている。
慕われるのはいいが、気疲れが半端ない。それは間違いない。アッシュは暗がりの中、通信具を固く掴み、震えていた。
そんな中でも通信は響いてくる。
『これで九六人目です! さあアッシュ様! どうせどこかで聞いているのでしょう! いい加減、このシルティーナの前に出てきてください!』
『ミリーのところへ来てもいいのですよ!』『わたくしのところへ』『ボクのところでもいいよ』
『あの……私も……』
次々と擬人化娘の声が聞こえてくる。そう言えばフローレンスとホッキーゲームする場合、巨大娘とホッキーゲームは出来るのかするとしたら色々と面倒ではないか、いやいやそんなこと考えている暇あるか、逃避やめろ俺――。
なにか対策は、対策を――と考えているアッシュのもとへ。
「悩める少年よ。貴様に人生の先達として、助言でもくれてやろう」
暗がりの奥、アッシュの潜伏している場所の闇の向こうから、そんな言葉が聞こえてきた。
「……ベルゼゴール? 何の用だ。お前、《八神将》ともあろうものが、何か妙なことを口走ったか?」
アッシュは一瞬で取り繕い、その闇の向こうへ声をかける。
闇の声の主は極めて平静な口調で応えた。
「ふ。我が帝国兵を打ち破り、破竹の勢いで世界へ影響を及ぼす脅威の新興国。その皇帝がこの有様では見てはおれん。助太刀してやろうかと、言っているのだ」
「馬鹿な……っ!? 貴様敵国の幹部だろ! なぜ俺に助言を……!?」
アッシュは驚愕した。
敵将たる幹部は静かな声音で応じる。
「ふっ。我も武芸に秀でた身。若き頃は淑女たちから黄色い声で言い寄られたこともあった。ゆえにアッシュ、貴様の苦境――分からんでもない」
「まさか敵に理解されるとは……お前も、色恋沙汰でトラブルを抱えたのは、同じだということか……」
「然り。少年よ、我も色々あった。そう――色々とな。妻のアリシアが、我を慕うライバルたちを次々と陥れ――いや何でも無い。……六十年以上も生きていれば、修羅場の一つや二つは迎えるものだ」
アッシュは悟りにも似た神妙な面持ちで聞き入った。
確かに、その通りだ。相手は歴戦の武将。その言葉には六十年以上の重みがある。
ちなみに、ここは地下牢獄。先の決戦で捕虜にした帝国の幹部を投獄している場所だ。
もう一人の方は「平和ですねぇ。じつに平和ですねぇ」と笑った後、眠っていた。
「で、ベルゼゴール。人生の先輩であるお前に問いたい。この窮地、どうすれば俺は脱出できる?」
「簡単なことだ。先手を打つがいい。アッシュよ。貴様が攻められるのではない――貴様が、先手を打つのだ」
「な、なるほど……っ!」
言って、ベルゼゴールは、闇の奥から動く気配を見せた。
「そら、それに相応しい相手が、やってきたぞ……?」
その瞬間、アッシュが振り返った。
数々の偽装を施し、万一も発見されないように隠した秘密の扉からやって来たのは――。
「シャ、シャルナ!?」
「……ようやく、見つけたわ、アッシュ。こんなところにいたのね……」
葉や土を大量に衣服に引っ付けたシャルナが、幽鬼のように近寄ってきた。
「……よくこんなところ、造ったわね。地下牢? ひょっとしてあの二人が、奥に?」
「ああ。捕虜として置いている、『あの二人』だ。ある意味最重要な施設だな。……しかしシャルナ、どうやってここを?」
「あなたを探しまくったからに決まってるじゃない!」
シャルナは半泣きで叫んだ。
「もう~~~~~っ、探しても探しても偽者のアッシュばかり! もう全然似てないし、替え玉ばかり見つけるのはうんざりよ! やっとアッシュ見つけて喜びかけて、でも外れを引いたわたしの気持ち、判る!?」
「なんかすまん……色々と……」
シャルナは泣いているんだが怒っているんだか判らない声でまくし立てた。
「もうね! 国中の端から端を探しまくったの! 擬人化娘たちに先を越されるわけにいかないし! 偽装とトラップに引っかかって何度もひどい目に遭ったわ! 色々あったけど……下着脱がそうとしてくる小型ゴーレムとか反則でしょ! 撃退苦労したわよ!」
「ごめんなさい」
「でもシルティーナやユリーハたちに奪われるのも嫌だから探したのよ! もう駄目かしら……と思ったら急に声が聞こえて! あなたの声が一瞬だけ聞こえて! それに導かれるようにして来たの! そうしたらいたの! あなたが!」
「うん……頑張ったな」
「だから! 無事に見つかって良かった~~~~~っ!」
シャルナは疲れた声音でふらつき、アッシュの方へ倒れてくる。
それを優しく、アッシュは受け止めた。
「すまない、シャルナ。色々と苦労をかけたな。これからはこんなこと、させないからさ。元気を出してくれ」
「やっと見つけたわ……アッシュ。もう離さない……もうずっと、一緒……」
そして、疲労のせいかシャルナは静かな寝息を立てて、アッシュの胸の中で眠り始めた。
静謐で、それでいて平和な時間が流れていく。
「……で、このあと俺はどうすればいいんだ? ベルゼゴール?」
「運命の導くままに、赴くがいい――少年よ」
「お前さっきからあんまり役に立つこと言ってないよな、ベルゼゴール?」
歴戦の猛者たる彼は聞かなかったフリをして無言を貫いた。
アッシュは疲れた顔でその場から出ることにした。
翌朝。朝もやが未だ立ち込める時間帯にて。
「――で、ホッキーゲームは無期限延期になりました。以上。解散!」
「「ええええええ~~~~~っ!」」
拠点に戻るなり全員に集合をかけたアッシュは、開口一番、そう宣言した。
「俺、考えたんだ。争いを生む可能性のゲームは全部禁止だ。俺の心臓がもたないから」
擬人化娘たちは口々に文句を言ってきた。
「そんな! それではわたしの皇妃への計画が色々と!」
「お兄ちゃんそれはつまらないのですっ」「どうか再考を、アッシュ殿!」
「その代わりに、代替案をしよう。これから毎日、俺のマッサージや食事や諸々の担当を頑張ること。それで手を打とう。ちなみに異論は受けつけない。疲れたからな」
擬人化娘たちは不承不承、頷いた。
「……まあ、アッシュ様にご迷惑をかけるわけにもいかないですし」
「仕方ないけど、我慢するのです」
「まあ楽しかったし、いいよね」
一部不服そうだったが、アッシュの言葉に、擬人化娘たちは受け入れてくれた。
ひとまずアッシュは、疲れたシャルナの体を労った後、温泉にでもいこうかと思った。
――数日後。
「アッシュ様。新しいゲームを仕入れてきました。今度は争いを生みません。
『ツイスターゲーム』と言いまして、多数の色のパネルを用い――」
「嫌だ。絶対にやらない。嫌な予感しかしない」
今日も彼らの国は平和である。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※本エピソードはカクヨム限定公開となります。専門店特典SSとは内容が異なります。
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