やるぞ模擬戦やる気はねえけど
騎士団付き司祭(異端審問官)という新たな仲間を得て、ムガンダ聖堂騎士団はますますどこへ向かっているのかわからなくなっていた。混迷の時代である。
『……で、整備長。パトレン殿の持ち込んだMKどう?メドゥサフレーム、最近中小騎士団で売れ線みたいで気になってはいたんだよね』
『ええムガンダ様ァ、機動力重視・射撃戦仕様にするのに向いた軽量フレームで、中々悪くねェです。パトレン様の機体もそっち向きの調整されてまさァ。その割にゃあ専用部品もそれほど多くありやせんからマルスフレームとの混用も大した支障はねェと思いやす』
少し疲れた顔をした整備長が答える。まあここんとこいろんなことがありすぎたからね……思い出したくもないことが!
『でもまあ独自仕様の対MKミサイルが主武装なのはちょっと悩ましいとこだなあ。結構費用かさむからねミサイルは。まあ、そもそもパトレン殿を最前線に出させなければいいっちゃいい話だけど』
『まあ使う機会がありゃあ十分な威力を発揮してくれると思いますぜ。なかなか小回りの利く遊撃向けのいい機体だと思いまさァ』
『うーん、でも装甲はペラくない?マルスフレームよりも薄いとか。格闘武器も特殊フレイルぐらいしか持ってないみたいだし』
『そこらへんは割り切りですかねェ。白兵戦主体の機体じゃあねぇと思いますし、格闘武器は自衛程度に考えるのがいいんじゃねぇすかね。それと脚部は最新式の……』
突如、背後から朗々たる声が響き、ムガンダたちは振り返った。
『勇気ある騎士たちよ!よくお聞きなさァい!!!二脚MKの本懐はァ!恐れを知らぬ突撃と白兵戦にありまァす!!』
『……ねえ、なんかあの人、自分のMKの特性、理解してなさげじゃない……?』
『何度か伝えたんですけどねェ……』
『なんかこう……せめて引き撃ち覚えてもらわないとそのうち普通に死にそうだよあの人……』
『いや、もういっそ死んでもらったほうが好都合なんじゃないスか?』
『一理あるけど物騒すぎない?エバー君?』
『そうですよ、とんでもないこと言い出さないでください。あの乳が失われるのは世界の損失です』
『マロクス君ブレないね……』
『あの乳のためなら死ねる』
『衛生兵?ちょっと病人診てくれる?』
いつものムガンダ聖堂騎士団といえばいつもの通りであるが、少しずつ病人が増えてるのマジで怖い。こうやって組織は狂っていくのかもしれない。ムガンダは努めてその現実を直視しないことにした。
『まあ流石に死人が出ると後味が悪いし、下手するとまた教会からガチ目に詰められる可能性あるからね……』
『八方塞がりじゃないすか』
『だからあの乳はですね』
『もうマロクス君は黙っててくれるかな?』
無視しようとしても狂人たちの方から無理矢理視界に入ってくるの色々と厳しい。
『まあこれはもうちょっと覚えてもらうしかないよね……』
『どうやってですか?』
『気は進まないけど、例えば模擬戦やるとか……』
『模擬戦んんんーーッ?!』
噂は稲妻の如く騎士団を駆け巡った。娯楽に飢えた騎士たちにとってこんなに面白いこともそうはない。市民はいつだって支配者にパンとサーカスを要求する――それはムガンダ聖堂騎士団においても変わりはなかったのである。
『野郎ども!模擬戦やるらしいぞォ!我らが団長ムガンダvs美しき異端審問官パトレン様!さァ張った張った!どっちが勝つか一勝負だァ!』
『こいつぁ面白いぞォ!異端審問官vs聖堂騎士!勝利の栄冠をつかむのはどっちだァァ!!』
『そんなもんムガンダ様に決まってらぁ!!』
『いーや!ここは大穴でしょう!!私はパトレン様に張ります!あのほほえみに自信を感じる!!!』
『自分はムガンダ様で行きます!やっぱここは団長にかっこいいとこ見せてもらわないと!』
『アタイはやっぱパトレン様の異端審問アーツに期待しちゃうな!!!』
異端審問アーツって何だよ。いきなり一大イベントとして大盛りあがりするの、早すぎない?そもそも模擬戦やると断言はしてねえし、まして俺が出るとは一言も言ってねえんだが?しかし、ここで中止などすればそれこそ暴動ものである。ムガンダはもうスッパリ諦めることにした。そう、いつものことである。いつものことであってほしくない……。
対するパトレンはというと、にこやかに周囲に手を振っている。自信があるのか、それとも状況を把握していないのか……ミステリアスな笑みを浮かべている。ムガンダのしかめっ面とは対照的である。
『ムガンダ様ァ。本当に模擬戦やっちまうんですか?』
『え?なんかあるわけ整備長?今更もう止めるって選択肢なくない?もう諦めたよ俺……』
『いやァあの、さっき途中で話途切れちまったんでアレなんですが、あの機体、脚部を最新式のホバータイプに換装してるんでさあ』
『は?』
『あの足、凄え速度出ますんで、その、ご健闘をお祈り致しますぜ……』
『はああああ?!!!』
ふざけんなよ異端審問官。教えはどうなってんだ教えは。ついこないだまでめちゃんこ厳しく異端取り締まってた癖に、いざ許されたとなったら最新式の異端ギリギリ装備持ち出してくるの最悪だろ……。ルール取り締まる人間がそんなことしたら世の中無茶苦茶じゃねえか。こんなの詐欺だよ詐欺。だが外野は今更引っ込ませてくれそうもない。ムガンダは人生の理不尽を感じていた。なんでいつもこういうことになるの?俺が、俺が悪いの?しかしもう逃げ場はないのであった。
『では!模擬戦のルールを確認する!
一つ!頭部を破壊認定された者は敗北となる!
二つ!相手のコクピットを攻撃してはならない!三つ!……』
模擬戦の前口上が流れていく。遠い目をしたムガンダ。ほほえみを絶やさないパトレン。向かい合う二機の魔導騎士。舞台は整った。静まり返る観衆。そして、緊張が最大まで高まった瞬間、審判役の騎士の手が振り下ろされる!
『レディー……ゴーーッ!!!』
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