コラム:ムガンダ聖堂騎士団の実態
さて、さらに話を進める前に、ムガンダ聖堂騎士団のなりたち、装備や戦術について簡単に解説しておこう(こういった要素に関心のない読者の方は全て読み飛ばして次の章をお読みいただいても問題はない)
・そもそもムガンダ聖堂騎士団とは
ムガンダ聖堂騎士団は、北方の蛮族鎮圧において(偶然)活躍したムガンダ・ヴァンダインを初代団長として新設された、非常に歴史の浅い騎士団である。
読者の方は『新しい騎士団』という言葉にどんなイメージを持たれるであろうか。新しい門出、意欲に溢れる若い騎士たち、ピカピカの新装備……そう、希望に満ちた何かを想像されるのではないだろうか。
だがその実態はというと、「出世に無縁な騎士団のはぐれ者」「一匹狼」「変わり者」「オタク」「問題児」「鼻つまみ者」「厄介者」「教会の異端児」、そういった人間の集まりであった。その上装備もだいたい中古品、という、文字通り寄せ集めの掃き溜めだったのである。当然、上からは左遷先としか認識されておらず、期待もかけられてはいなかった。
しかし、幸か不幸か、聖堂騎士ムガンダはそういうアレな人間たちを率いるのに割と適性があった。その結果、ボンクラ集団にしては予想外の活躍を見せ、さらに他で扱いかねた人間が送り込まれ、気がつけばそこそこの所帯になり、やがて軍からいわゆる雑用・便利屋的にコキ使われるようになる(この扱いに対してムガンダは『やっぱり仕事なんてあんまり真面目にするもんじゃねえ』と嘆いたという)。
なお、ムガンダ聖堂騎士団は聖地奪還を目指した「レコンキスタ」運動においてこれまで華々しい戦果こそ上げてこなかったものの、聖地に向けて突進する人類連合軍の側面を狙った魔王軍の反撃を複数回撃退するなど、縁の下の力持ち的な活躍を見せている。
・ムガンダ聖堂騎士団の装備と戦術
ムガンダ聖堂騎士団の持つ装備はほとんど例外なく中古品であったが(にもかかわらず!)魔導騎士はおおよそマルスフレーム(あるいは、それらと互換性のある装備)で統一されており、戦闘能力はともかく行軍や整備、兵站に関するトラブルは比較的少なかった。
ムガンダ聖堂騎士団が結成以来ずっと寄せ集めの集団であったことを踏まえると驚くべき事実である。これは団長ムガンダの手腕と言ってよいだろう(これについてムガンダ自身は『やたらと新しいおもちゃを欲しがる名門騎士様のお下がりを有り難く頂いただけ』と述べている)
しかし、人類連合軍内部、とりわけ極めて希少かつ強力な、いわゆる「超MK」を運用する家格の高い騎士団の間では、こうした堅実かつ身の丈にあった運用に対する軽侮と蔑視は根強く、平たく言うとバカにされることが多かった。戦局が悪化しても、人類連合軍のこうした体質はなかなか改まることがなかったのである。
一方、ムガンダ聖堂騎士団の装備が戦闘面において一線級の騎士団から見劣りするものであったことは否定できない。もちろん『超MK』を保有するような名門騎士団とは比較することすらおこがましい。ムガンダ聖堂騎士団は(定数に基づくならば)MKの数こそ約50機前後と相当数を保有していたものの、その主要武装は射撃武器も格闘武器も一世代二世代前のものが中心であり(費用対効果はけして低くはないものの)本格的な重MK部隊と衝突するには荷が重い、というのが正直なところであった。
そのことは団長ムガンダもよく理解しており、彼は主に小規模に分割した部隊による急襲、混乱につけこんだ乱戦・ゲリラ戦を常套手段としていた。その戦術においてムガンダ聖堂騎士団は非常に練度が高かったと言ってもよい。ときには敵後方にひそかに浸透した上、物資まで盗み取ってくることさえあったが、これは「騎士というよりコソドロの手口だ」などと陰口を叩かれている(しかし、考えてみるとそうした「騎士」たちも占領地では堂々と略奪を行っていたのだから、いい面の皮だと言うほかない。酷いケースになると、同じ『神と人と精霊』教を信仰する都市で略奪と破壊に及んだ騎士団さえあったのである)。
・ムガンダ聖堂騎士団の編制とその実状
結成当時のムガンダ聖堂騎士団は非常に小規模な集団であったものの、時が経つにつれて騎士団不適合者の処分場として多くの騎士団から穀潰しを集め、とうとう現実世界で言うところの大隊に近い規模の部隊にまで達した。
その組織は3つの騎士中隊と本部中隊から構成され、それぞれの騎士中隊には約14〜17機程度のMKがあり、それはさらに約5機前後の小隊に分けられる……編制上はそのように記載されている。しかし、実際にはもっとグダグダで、各役職の兼任などもあり、指揮系統はかなり混乱していたと言われている。これも周囲の騎士団からバカにされる理由の一つではあった。
ところが、意外なことに所属騎士たちの技量は必ずしも劣ったものではなく、小規模なグループである程度独立した戦闘を行わせると驚くべき強さを発揮した。ムガンダもそれをある程度理解していたのか、戦闘において団員におおよそ自由な行動をさせていた節がある。その方針はMKを集中運用するに際しても大きく変わらなかったようだが、現実の戦果と照らし合わせるに、それはあながち間違った判断ではなかったようにも思われる。
こうした規律の緩みについてムガンダが上から叱責を受けることも多々あったようだが『んなこと言ったって変人どもを無理矢理従わせても上手く行くわけないんですから、ある程度放任して時々手綱を締めるくらいでいいんじゃないすか』と答えたという記録が残されている。更に滅茶苦茶怒られたことは言うまでもない。
ムガンダ聖堂騎士団とは、かくも奇妙な戦闘集団だったのである。
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