使徒、襲来

 代機もやっぱり爆発した。


 もうこの話題には触れないことにする。嫌なことを忘れることで人間は生きていけるんだ。いいね?


 さて、先日のサポートセンターとの決戦を終えて、聖堂騎士ムガンダは完全に燃え尽き気味であった。他人と話すと疲れるのである。出来れば話がしたくないのである。でも人間生きてると他人と交渉事しないわけにはいかないんだよなー。マジ人生クソと言わざるを得ない。どっか温暖な気候のほっといても色々育つような豊かな地方に移住して引退生活送りたい。まあ叶わない夢なんですが。


『あ、ムガンダ様、またなんか黄昏れてますね。まだ午後始まったばかりですよ。そんな顔してるから人生行き詰まっちゃうんです。シケた顔してないで、ほら、一緒にテンスョン上げてこうぜ。おやつもあるよ』

『エバー君、君の気遣いは何で毎回そういう変な方向性に発揮されるのかな……?有難いけど、今話しかけないでくれる……?俺もうしばらく何もしたくない……』


 応答にもマジで元気がない。大丈夫かムガンダ。仕事に疲れた時はちゃんと休まないと本当にやばいので読者の皆様も気をつけてほしい。仕事なんてどうでもいいんですよ。俺たちの人生が大事です(いいのかなあこんなこと言ってて)


『うう……もう人と話したくない……不労所得で生きていきたい……』

『そんな鬱状態のムガンダ様に良いニュースと悪いニュースがありまァーす!』

『何なのそのテンスョン……良いニュースって何……?』

『先日の戦いが凄い噂になって、とうとう上の方で車輪付き二脚の有効性と導入についての議論が始まったらしいでェーす』

『まじ?!そんなことありえる!?うれしいニュースじゃん!元気出てくるわ。で、悪いニュースって何?』

『それに先立って我が騎士団に異端審問官が派遣されまァーす』

『おいぃぃいいいィいィイ!!!!!!』


 泣く子も黙る異端審問官、巨大人型二脚歩行兵器を否定するものに一切の容赦がない神の使徒。冗談ではない。派遣されるだけで命に関わる。うっかり彼ら相手に口を滑らせたせいでむごい扱いを受けた人間は星の数ほどいるのである。


『ね?元気なくしてる場合じゃないでしょ?』

『ね?じゃねえんだよォ!?普通にコレ死ぬ奴だろ!!!!!完全にぬか喜びじゃねーか!!形だけ議論したフリして殺す気満点だよ!!!よくて俺の命と引換えに車輪付きが認められるとかそういう政治的アレじゃないの??!!コレ!!!?』

『まだですよ、まだ死ぬと決まったわけじゃないすよぉー。審問始まる前に情報入ったんですから、色々隠蔽の余地がありまァす』

『ばっ、ばっきゃろぉー!!何を工作しろってんだよバーカバーカ!!!下手すりゃ教会をたばかった罪で余計に罪状重くなるわ!!!!』

『あー本格的に元気になってきましたねームガンダ様。その調子ですよ!その調子!』

『ざっけんなコラァーーー!!!』


 ムガンダは完全に錯乱していた。おやつどころではない。もう遺書でも書くしかない。こうなりゃもう死なば諸共で騎士団まるごと巻き込んで死ぬか?もうそんなことだけが頭の中をグルグル回っていた。おいたわしや……。


 展開は早かった。翌日早くも異端審問官はムガンダ騎士団宿営地に到着する。こういうときだけ人類連合軍のやることは早い。


『こんにちは、ご機嫌麗しゅう。私は教皇庁より派遣されました異端審問官パトレン・イーバと申します。お気軽にパトレンとお呼びくださいね』


 見目麗しい色白金髪、柔和そうな修道女はニコニコ笑いながらそう名乗った。名乗られなければ彼女が異端審問官であるとは誰にもわからないだろう。だが、見た目に惑わされてはいけないことをムガンダは良く知っていた。エバーが小声でムガンダに耳打ちする。


『ムガンダ様、異端審問官って何かやたら早口で喋るメガネかけたデブかガリの男しかいないと思ってました。普通の人もいるんですね。しかも女性』

『エバー君、それ聞かれたら速攻で火刑決定だと思うよ』


 いきなり見た目に惑わされる発言である。神をも恐れぬ会話であった。こんなこと言われたら作者だって怒る。火刑に処すぞこの女。そんな冒涜的な会話を知るよしもないパトレンが口を開く。


『遠く噂をお聞きしましたが、なんとMKの足に車輪をつけて走り回り、嵐のごとく押し寄せる魔王軍MKの大軍団をちぎっては投げちぎっては投げ、見事全滅させたとか……?』


 なんか噂、尾ひれついてない?ムガンダは思った。そんな大活躍してねえよ俺ら。一体どういう伝わり方してんのコレ。 


『は、パトレン様、もったいないお言葉であります。それは尾ひれのついた噂話と申しますか、我々が撃退したMKはそのような大群ではないのです』

『まあ、謙虚でいらっしゃいますのね。謙虚さは美徳ですわ。聖堂騎士たるものかくあるべし、素晴らしいことです』


 あ、でもこれ、思ったよりピンチではない?俺、生き延びられる?


『しかし』

『は?』

『まさかこのような素晴らしい騎士に見える方が、教皇庁の教えを裏切り、極秘裏に足に車輪をつけるなどという行いに手を染めていたとは、誠に残念至極な話ですわ』

『あっそのそれはその、あれはその』

『もう審問は始まっておりますわ。この場での一言一句が、神の名の下にあなたの罪を明らか にするでしょう』

『あれは噂なんスよ!!!!噂!!!!車輪とかじゃ全然ないです!!!!そ、そう!足飾りです!!!足飾り!!!ちょっとそういうかっこいいめのパーツつけたい年頃だったので!!!!』

『言い訳ならもう少し考えてなさってください!いい歳をした中年聖堂騎士がそんなこじらせた中学生のような振る舞いをするはずがありますか!』


 エバーとマロクスが隣で笑いをこらえてプルプルしてる。てめえら覚えとけよ。死んだら祟ってやる。


『いやパトレン様ぁ、中年だって心は男の子なんでさぁ。こじらせた中学生みたいなことしてみてぇときだってありやすぜ』


 整備長が真顔でツッコんだ。これフォローとかじゃなくて素なんだろうな。エバーとマロクス、とうとう堪えきれずに咳き込んでる。


『黙らっしゃい!あなたたちの言葉は嘘と冒涜に満ちています!!!聖堂騎士ムガンダ!副官エバー!副官マロクス!整備長ズボトム!この場にいる全ての罪深きものたちよ!今一度悔い改め、真実について語りなさい!!!それが出来ぬのであれば、今すぐその身を炎で焼き尽くしましょう!!!』


 エバーとマロクス、え?飛び火?まじかよって顔をした。バーカ。人の事笑ってるからそういうことになるんだよ、バーカ。反省しろ反省。

 パトレンが勢いよく修道服をめくり上げる。服の下から出てきたのは火炎放射器であった。何この人。こわい。そんなもん修道服の下に隠さないでほしい。


『……走らせなさい……』

『え?』

『MKを走らせなさいと言っているのです!それとも今すぐ火刑に処せられたいのですかッ?!』

『アッはい、今すぐ!今すぐ出します今すぐ!』


 完全に全員パニクっていた。ガンギマリの目でこっち見てるパトレンの意図は誰にもわからない。誰が走るのかじゃんけんして、結局じゃんけんに負けたムガンダがMK動かすことになった。なんでいつも俺なんだよ。悲しい顔をしてMKに乗り込むや、発進シーケンスを開始する。もう何でもいいよどうせ死ぬんだから。エンジン音が高まり、爆音が響くやいなや、超加速したMKが凄い勢いで飛び出す。ムガンダは完全に自暴自棄になっていた。


『ははは、ほーら、ドリフトだあー、〜か〜ら〜のクイックステップー。そしてスラロームー。ジャンプも挟んじゃうぞー』


 改造を施されたMKは遺憾なくその機動性を発揮していた。あーあ。でも異端なんだよな……。ここで俺も終わりかぁ……。まあもう人生終わってるしな……。


『……では、降りなさい……』

『アッはい』


 パトレンはガンギマリの目でMKから降りてくるムガンダを注視している。こわい。マジでこわい。


『裁きを言い渡します……』


 沈黙。

 パトレンが動いた。両手を高く挙げる!背を後ろにそらす!更にそらす!大地に手をつく!これは……これはブリッジだあ〜〜〜!!!異端審問官パトレン、ここでブリッジだあ〜〜〜!!!


『『『マーベラァぁァアス!!!!!』』』


 パトレンは絶叫した。えっ何?何なの?えっホント何?


『あっあの、パトレン様……?』


 静かにパトレンが起き上がってくる。大きく息を吸い込む。そして腹の底から叫ぶ!


『……かっこいいので、ヨシ!!!!!』

『は?』

『超!かっこいいので!ヨシ!!!!!』


 二回言った。大切なことらしい。


『あ、あの。私どもの処遇については、その』

『あなた方の疑いは完全に晴らされました!!!教皇庁には私の方からよしなに伝えますわ!!!!ああ、なんてことかしらこれこそ二脚MKの未来と可能性を切り開く偉大な一歩まさに神の恩寵この奇跡を広めあらゆる巨大人型二脚歩行兵器を祝福することが神の御心にかなう行いでしょう聖都から遠く離れた辺境の地でこのような神の啓示を受けるなんて私は今モーレツに熱血しています!!!!』


 異端審問官パトレンは物凄い勢いで何だかよくわからねえ話をまくしたてるや突然膝をついて祈りはじめた。何なんだよコイツ。ほんと何なんだよ。

 一方ムガンダたちは完全に放心していた。緊張の糸が切れて何が何だかわからなくなっていたのである。ムガンダは思った。


『私……異端審問受けたのに……生きてる……なぜ?』


それは誰にもわからない話である。いつだって生や死は偶然の産物なのだ。悲しいけどこれ現実なのよね。今日も一日が無為に過ぎていく。人類軍、大丈夫か?

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