決戦、お客様サポートセンター
(前回までのあらすじ)
巨大人型二脚歩行兵器の整備性の劣悪さに泣かされていたムガンダ聖堂騎士団でしたが、整備の革命、
先日の爆発のショックと混乱からムガンダたちが立ち直るまでに丸々一日を要した。いや、問題は何一つ解決してないんだけど、あんまり予想外の事故が起こると人間何も出来なくなってしまうのである。
よりによって軍事組織がそんなことで良いのかという感じはあるんだけど、軍事組織とて中の人は人間なので仕方がない(実を言うと魔族もこのへんあんまり変わらないらしい)。なんかもう揃って騎士団指揮所で寝倒して現実逃避していた。
ここまでくると軍事組織がどうとかではなくいい大人としてどうなんだ感もあるけど、ともかく衝撃から立ち直るには時間が必要なのである。
寝倒した末に落ち着きを取り戻したムガンダたちであったが、当面の整備については正直どうしようもなかった。使えそうな部品を特定機に集中する共食い整備で誤魔化していくしかないねという「ないもんはないからそれでやるしかない」以上の解決(解決か?)策がないんである。
まあもうそれはしょうがないんだけど、魔導騎士の改造によって増した整備の負担を継続的に処理するには、どうあっても自動三次元部材成型機の再稼働が必要、ということだけははっきりしていた。
導き出される行動は一つ。
そう、お客様サポートセンターへの連絡であった。
『やっぱサポセンに念話掛けなきゃ駄目かなあ。オンラインサポートの方がいいんだけど。念話とか苦手なんだよ……』
『オンラインで解決する問題じゃなくないすか?なんせ爆発してるし……』
『すいやせん、セール品だったんでチェックが甘くなッちまいまして……』
『なんでそんな安物買いの銭失いみたいなことを』
大きな買い物は決裁者がちゃんと物を理解した上で承認出さないと駄目だなーということをムガンダは反省したが、それはもう後の祭りであった。高いものがお安く売ってるからって怪しい品を頼むと最終的にもっと高くつく、買い物の基本である。でも済んだことなんでどうしようもなかった。
覚悟を決めて男ムガンダはサポートセンターとの戦いへと臨む。ええと、番号は……0079-0080、と……。
コール音が静かに響く。
『お電話ありがとうございます。ムナアイハ社お客様サービスセンターです。お買い求めになられた商品の……』
自動音声による案内が響く。自動音声で処理できるような内容のトラブルではないので、とにかくオペレーターに繋がりそうな番号を次々と入力していく。早く、早く何とかしてくれ。
『お念話ありがとうございます。こちらムナアイハ社お客様サポートセンター、ナニ・プルトンパーがお受けいたします』
大分待たされたもの、自動音声ではないオペレーターへと念話が繋がる。頼むぞ、速やかにトラブルを解決してくれないとホント命に関わる。
『あの、お忙しいところすみません。御社の
『かしこまりました。お客様、機材のトラブルということですね?』
『はい、そうなんです』
『それではまず、お買い上げになられた3Dプリンタのコンセントを一度抜いて、もう一度コンセントに挿し直してください』
沈黙。
『……あの、コンセントがどうこう以前に、プリンタ、爆発しちゃってるんですけど』
『まずコンセントを一度抜いて、もう一度コンセントに挿し直してください』
『あの』
『コンセントを一度抜いて、もう一度コンセントに挿し直してください』
全く話が通じてない。というかコンセントの抜き差しの話だったらオンラインとか自動音声で対応できるんじゃないの?初っ端からムガンダは遠い目になった。まあでも仕方ないからコンセントを軍用移動魔力供給装置から抜いて挿し直した。これ、何かの宗教的儀式?
『あ、はい、コンセント、抜いて挿し直しました』
『それではお客様、起動ボタンをしっかりと押してください』
『完全に操作パネル燃えちゃってて、どこが起動ボタンだかもよくわかんないんですけど』
『起動ボタンを押してください』
『あっはいすみません』
なんか逆らわない方が良さそう。わかんないけどとりあえずボタンを押してみた。
『起動しましたか?』
『するわけないですよ』
『ではもう一度コンセントを抜いて挿し直してください』
『何で?!』
もう意味がわかんない。これ一体何をサポートされてるわけ?横で見てるエバー君とマロクス君爆笑してる。笑ってんじゃねえよ君たち。後で覚えとけよ。結局3回くらいコンセントを挿し直すように言われた。当たり前だが動くわけがない。というか爆発してんだぞこっちは。
『あのですねえ!これ早く直んないとホント困っちゃうんですけどお!』
『落ち着いてくださいお客様。まずは原因の特定をするところからが大事です』
『いやそんなん爆発したからじゃないかと思うんすけど』
『なぜ爆発したのかが大事なんですよ』
『それがわかんないから今あなたに相談してるんですけどォ!!!』
流石にムガンダからも鷹揚さが失われつつあった。何故なんだ。何故サポセンの人は俺の悩みに答えてくれないのか。教えてくれサポセン。俺たちはあと何回質問すればいい。
押し問答は続いた。既に念話をコールしてから小一時間ぐらいが経過しようとしている。しかもこれフリーダイヤルじゃないし。何なの?とうとうムガンダも完全にブチギレ始めていた。
『あのですね!これ早く代機とか来ないとホント前線に大穴空いちゃうんですよ!戦争なんですよ!コレ!ホント命かかってんすよ!そこんとこよろしくお願いしたいんですけど!』
『代機のお手配でしたらこちらのサポートセンターでは対応しておりませんので、0080-0083番までもう一度お掛けなおしください』
『それは最初に言えよおおおおお!!!!』
『では、失礼致します。お念話担当は私、ナニ・プルトンパーがお受けいたしました』
『滅べクソ企業!!!!!!!!!』
念話が切れるのとほぼ同時にムガンダも絶叫していた。こんなアコギな企業があっていいのか。せめて通話料金返せ。もう絶対こんな企業とは取引しねえ(でもしばしばそうもいかないのが世の中であった)(ムナアイハ社は世界的クソ大企業なのである)。
結局、代機の手配でも三時間くらい揉めた。世の中間違ってるとしか言いようがない。無能な味方は有能な敵よりタチが悪いのであった。いや、そもそも味方かどうかもよくわからんけど……。代機は爆発しないといいなあ。今日も世界は平常運行であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます