神をも恐れず勝手に改造・かくしごと
『やりましたぜェ……やってやりましたぜェ……』
文字数の都合で秒で改造は終わった。この間の時間外労働で病んでしまった整備員たちの顔は見なかったことにしておきたい。つうか整備長の顔もかなり怖い。変な凄みが出ている。
改造を施されたムガンダ専用機は、突貫工事の割にはなかなか様になっていた。脚部にはエーテル機関とローラーが増設されて一段太ましくなったものの、重心の低い、安定した機動を予想させるデザインである。
『す、すごいや、本当に出来るんだ』
『絶対無理だと思ってた』
『やれちゃうもんなんすねえ』
こいつら技術屋に仕事を丸投げしてた癖に言うことが好き勝手すぎる。はっきり言って最悪である。読者はこんな大人には決してなってはいけない。世界を動かしているのは技術者なのである。敬意を払おう。
だが技術者も技術者であった。こんな大規模な改造が可能な資材や技術的蓄積をどっから捻り出してきたというのか。絶対この新型エーテル機関とかローラーとか正規の手段では手に入るわけない奴だし。一体どういう裏の手口使ったんですか整備長。これでは管理者の目の届かないところで何やってんだかわかったもんではない。それはムガンダ達もうっすらわかってたけど、状況が状況なので誰もツッコまなかった。大人の対応である。
『さぁ、試運転してくだせェ。出来は上々でさァ』
エバー君とマロクス君が揃ってムガンダを見る。
『あ、やっぱ俺乗らないとダメ……かな……?』
『専用機改造させといて乗らないとかどうすんすか』
『大丈夫です、ムガンダ様、骨は拾います』
『覚悟決めてくだせェムガンダ様』
逃げ場はなかった。管理職ってこういうこと普通やんなくない?とはいえ成り行きだし仕方がなかった。こういう急造試験機、結構事故るんだよなあ。ムガンダは悟り切った目をする。だがもう試運転開始前から、騎士団の全員がこの実験に興味津々という趣で勢揃いしている。やるしかねぇ。やる気はねぇけど!
全てを諦めて機体に乗り込んだムガンダは静かに発進シーケンスに移る。
『魔導騎士、OS起動。主エーテル機関作動よし、続いて脚部エーテル機関作動確認、動力伝達、全て正常』
機関の低い唸りが徐々に大きくなっていく。
『行くぞぉ!!!!!!』
刹那、魔導騎士は爆発的な加速を見せて平原に飛び出す。騎士団員達から興奮の歓声が上がる!すごい!すごい加速と機動力!足に車輪付けただけの癖に!前進後進だけではない、脚部に備えられたローラーは自在に可動し機体の向きを変えることもなく前後左右とスムーズな機動を実現する。騎士団員総員がまさにスタンディングオベーション。勝つる!この装備なら勝つる!
『すげえよ!整備長!こんなすごいの出来んの?!ムガンダ感激!』
『お褒めに預かり光栄でさァ』
『あーでもこれ継続的整備性どうなんすかねー。壊れた時直せるんすか?』
『エバー君今ちょっとだけ良い話してるから静かにしてて?』
『ですがこれはホント明るい見通しですよ。まあ最悪バレても「ムガンダ様が全部やりました」って言えばいいし』
『おお恐るべき異端の所業!我々は騎士団長ムガンダの無法な命令に逆らえず、仕方なく車輪という悪魔の発明に頼らざるを得なかったのです。大審問官様!我々は無実です!』
『君ら俺のこと何だと思ってんの』
責任者は責任を取るのが仕事なのである。それぐらいは引き受けてもらわないと困るのである(あんまり現実はそうなってはないけど)。ただまあ、誰だって火刑は喰らいたくはない。それはムガンダも例外ではなかった。詳細は見苦しいので割愛するが、小一時間ぐらいすったもんだの議論をした挙句、最終的に結局ムガンダが全責任を負うということで話がまとまった。火刑、喰らいたくねえなあ。死ぬのは構わんけど死ぬときは楽に死にたい……ムガンダは遠い目になっていた。諦めろ責任者。火刑の件は神に祈れ。
しかし、この試験が目覚ましい成果を見せたことで、騎士団所属機の改造は猛烈なスピードで進んだ。整備隊はみんな鬼気迫る顔で昼夜ぶっ通しの作業に従事する。どんどんキマっていく整備隊の表情。怖い。まじで怖い。もはや現代の怪談。神よ、彼らの宗教的献身にどうか祝福を与えたまえ。できれば過労死する前に。ホ、ホントに何とかなっちゃうのかなあ。ともあれ、魔王軍との衝突の機会は目前へと迫りつつあるのであった。お仕事だから仕方ないけど、みんな身体には気をつけてね……。
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