第5話
大学2年になって、俺は生まれて初めて一目惚れをした。
一目惚れ、とはつまり名前の知らない女子に心を射抜かれたのだ。
正直言って、自分でも驚いた。何せ初めての経験なのでそれが一目惚れであることに暫くは気付かなかったくらいだ。
一般教養科目で他の学科も一緒に受ける授業で、最低限の単位さえ取れれば良しとするつもりだった俺らは、授業開始時間ぎりぎりに教室へと滑り込んだ。やる気のある数名が前の方の席に座るだけで、やる気のない大多数が後ろの席から埋めている。仕方なく俺ら三人は中ほどの席で、前に人が居る場所を選んだ。前に誰も居ないと突然あてられる場合があるためだ。そうして俺らは小さい声でいつものどうでもいいような話をくっちゃべっていた。
授業が始まって15分くらいだったろうか、突然前に座っていた女子がクルリと俺らの方を向いた。
「うるさい!黙れ!」
それだけ言って、またクルリと前を向いた。
俺らは予想外の出来事に唖然としたのをはっきりと覚えている。
確かに、話し込んでいた俺らが悪い。俺も悪い。俺が悪い。
しかし、小学生レベルの注意のされ方をしたことに単純に驚いた。
そして反省した。
小学生レベルの禁忌事項を自分がしていたことに、猛省した。
そして同時に、心臓がドキッとしたんだ。
その時は、単に自己嫌悪とか謝罪の気持ちが心臓の鼓動を速めているのだと思っていた。
翌日になっても、クルリとこちらを向いた彼女の顔を思い出すと、妙な動悸がした。
その次の日も、またその次の日も、この胸やけのような不整脈のようなヘンな体調不良が続いた。いっそどこかの医者に診てもらおうかとも思ったが果たして何科に行けばいいのか、どうやって医者にこの浮ついた感覚を説明すれば通じるのか、まったくわからないまま一人で己の異変に動揺する日々が続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます