迷子犬

 バイト終わりの帰路でですね、リードに繋がれた犬がどこかへ走って行くのを見かけたんですよ。3匹も。

 確か犬種は柴犬とトイプードルとフレンチ・ブルドッグだった気がします。

 周り見渡しても飼い主さんっぽい人いないし、その時はもう9時半で暗くなってましたから、これは危ないと思って。

 急いで友達呼んでその飼い犬保護しなきゃってなったんです。

 ミニチュアダックスフンド飼ってた経験がありますから、住んでるのペット禁止のアパートだけど、保護しないとまずいって。

 で、僕以外に4人来てくれて、その犬が走り去っていった方を探しに行ったんですよ。

 懐中電灯持って街をうろうろするのは少し楽しかったですね。

 それで、取り合えず柴犬は保護できまして、僕がずっと抱っこしてたんですね。

 全然違う人に抱っこされたからでしょうか。

 腕の中で少し怯えるように吠えていて、「ごめんねー」なんて語り掛けながらもう一匹を探してたんです。

「あ、いた」

 友人の一人が、不意に声を上げたんです。

 でもなんか見つけた喜びの声とかじゃなくて。

 不思議そうな声って言うんですか?

 腑に落ちないような声だったんです。

「他の逃げた犬ってトイプードルとフレンチブルドッグだったよな?」

 友人は僕にそう訊くんです。

 だから「そうだよ」って答えたら、

「これ、見てよ」

 とそこにいるであろう空間に懐中電灯で照らしてくれました。

 そこには。

 首に赤いリードを繋がれた二つのぬいぐるみが置かれていました。

 「……何これ」

 そう僕が呟くと、「俺も分からん」とだけ友人が呟きました。

 その時、ふと抱っこしている柴犬に目をやったら。

 目がボタンでできてました。

 それもぬいぐるみだったから吠えたり動いたりするわけないのに。

 でもさっきまで確かに動いてたんです。

 体温だってありました。

 僕は反射的にその柴犬のぬいぐるみを投げ捨ててしまいました。

 それ以来、僕は犬が苦手になりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る