椅子

 夕日が差し込んでいるリサイクルショップに、心の惹かれる椅子があった。

 質の良さそうな材木に、店内の淡いオレンジ色の日の光を受けて輝くニス。

 高さもちょうどよく、男は半ば購入する気持ちで値札を確認した。

 そこには500円と書かれていた。こんなに安いのは何か訳があるのではと思い、彼は店員にこの椅子について尋ねた。

 案の定、店員は少し困ったような笑顔で答えた。

「この椅子の元の持ち主さん、別に亡くなったわけじゃないんですけどね? その、この椅子で自殺をしようとしたらしくて。首吊りで。それでこの椅子、0時になるとひとりでに倒れるんだそうです。『ガタン』って」

 それでも購入しますか、と諦めるように店員は尋ねたが、男は意外にもこころよく了承した。


「こういうの、探してました。僕の心を押してくれる」


 男はそれを車の後部座席に乗せ、家に持ち帰った。

 生活感のないリビングの中心に、さきほど買って来た椅子を置く。

 天井からはテレビの電源のコードが円形に結ばれてぶら下がっている。

 男は椅子の上に立ち、コードを首にかけ、0時を待った。

 

 そして、長針と短針が12を指す。


 ――ガタン。

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