おままごと

 昼下がり。

 台風で休校になった娘は、リビングの床でおままごとをしていた。

 私が買ってあげた熊や猫のぬいぐるみを使って、夕食の風景を描いている。

「おままごと?私もやっていい?」

 娘は「ママは”ママ”の役ね」と猫のぬいぐるみを私に差し出した。

「”サキちゃん”は何が食べたい?」

「ハンバーグ!」

「分かった。”パパ”は?」

 私が猫の人形を前後に動かしながら言うと、娘は口をとがらせて注意した。

「違うよ。”パパ”は死んじゃってもういない。それにママは”ママ”の役なんだから、ここで『うっ』って言って倒れないと」


 あれから半年。

 今朝、夫が交差点の事故で亡くなった。

 相手の信号無視で、横から突っ込まれたという。

 私の心には、妙なモノが引っかかって取れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る