山田くん

 昨日、山田くんの家が夜逃げしたと聞いて、ふと思い出しました。

 これは僕が小学生の頃の話なんですが、当時仲の良かった山田くんの家に遊びに行くことになったんです。

 山田くんは玄関前で「うちのお母さん、少し変なとこもあるけど、気にしないでね」と苦笑いをしながら言いました。

 彼が手慣れた手つきで鍵を取り出し、玄関を開けると、何かが腐ったみたいな、嫌な臭いが漂ってきました。

 それとほぼ同時のことでした。

 暗い玄関の下駄箱の上に、足を一本だけ切り落とされて三本足になった蛙の死骸が、こちらにお尻を向けて置かれているのが目に入りました。

 それも、数十体という数でした。

「こうするとお金が入ってくるのよ」

 暗い廊下の奥で、ぼろぼろの黄色いエプロンを着ている女の人が、引きつった笑みを浮かべてました。

 やっぱり、所詮はおまじないなんですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る