水たまり

 昨晩まで降っていた豪雨はすっかり止み、空には奇麗な青空が広がっていた。

 道路にはあちらこちらに水たまりができている。

 とある少年の家の前にも水たまりができていたのだが、それを覗き込む一人の少女がいた。

 見覚えのあるデザインの名札から、同じ小学校の生徒であることが分かる。

「どうしたの?」

 少年が尋ねると、少女はこちらを向いた。

「この水たまりの中にね、アタシのおばあちゃんがいたから、あいさつしてた」

 周囲に少年と少女以外に人の姿はない。

 少年も気になって水たまりを覗いてみた。

 そこには青空と、少年の顔と、少女の顔と、黒い電線が映っているだけだった。

「遅れちゃうよ」

 はっと気がついたかのように少年は言うが、少女は水たまりの側から離れなかった。

「もう少し」

 少年は少女を置いて立ち上がり、登校班の集合場所へ歩みを進めた。


 ふと、彼女はまだ来ないのかと後ろを振り返った。

 そこに少女の姿はなかった。

 ただ、水たまりに大きな波紋だけが広がっていた。

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