山道
ある日のことだった。
地元では言わずと知れた暴走族の族長であった男が、バイクの単独事故で死んだ。計15人で近くの山の峠を走っていた時だ。
メンバー曰く、彼は運転ミスで死ぬようなやわな人間ではない、原因はやはりアレだとみんな口を揃えて言うのだ。
私は取材の一環で、族長と走っていたメンバーの一人に話を聞くことができた。
「あの人、途中までは全然平気そうだったんっす。むしろ調子良さそうで。『今日は夜が明けるまでに茨城までは行けそうだな』なんて言ってました」
「なるほど。では、事故のきっかけは何だったんですか?」
「その、アレをきっかけと言っていいのか分かんねえんすけど……一応あったっちゃありました」
「何です?」
「車道の、真ん中の白い線、あるじゃないですか」
「センターラインですか」
「あ、そうっす。俺らがずっと呼んでるアレっていうのは、あの人、そのセンターラインをなぞるように走ってたんです。ちょうど道のド真ん中を走る感じで」
「……それだけ、ですか?」
「そうなんすよ。それだけなんです。でも、そのセンターラインの上を走り出してから、あの人は急に減速し始めました」
「その時に何か言っていたと聞きましたが」
「『ごめんなさい許してください』『二度と真ん中は走りません』って、ずっと念仏みてえに呟いてました。最初こそ俺たちをビビらすために言ってるのかと笑ってたんですが――」
「急カーブで曲がれず、そのままガードレールを突き破って落下した」
「……はい」
実線のセンターラインを越えて走ることは法律違反だが、それよりも気になったのは族長の言動だ。
例え法に触れているとしても、誰かに許しを乞うというのは少し異常だと言える。
もしかしたら何かしらの掟が彼を縛っていたのかもしれない。
そう思い、検索エンジンで『山道 真ん中 走行禁止』と調べようとした時だった。
日頃の疲れからか変換を間違え、気づかぬうちに『参道 真ん中 走行禁止』と検索していた。
パッと画面が変わり、検索結果に出てきたのは
正中とは、いわば参道における神の通り道とされている。
山道の真ん中。参道。正中。
そういえば、あの山は山岳信仰で有名だったはずだ。
ただの変換ミスなのに、私の心にへばりついて離れない。
彼はいったい、何に謝っていたのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます