第3話 本当は怖い結界の話 ~セキュリティ関係者を敵に回した末路~
▲※この作品には暴力的、またはグロテスクな表現が含まれています。
(RPG界の金字塔にして、初の18歳以下お断りの家庭用ゲーム。リンダキューブより)
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「とりあえず手みやげに、魔王軍の進路を結界で塞いでおいた」
規格外の敵の幹部は、そう報告した。
あー。俺も結構やられた結界な。
RPGでは、特定の敵を倒さないと先に進めない結界という便利な舞台装置が有る。
結界を張った奴を倒さないと先に進めないタイプや、特別なアイテムがないと通れない『目の前に目的地が有るのに進めない』意地悪な通せんぼである。
魔王の城の前とかにだいたい張られているやつだ。
「一本道の最後の最後で塞いでおいたから、魔王軍の行軍は30日遅れるはずだろう」
「えぐいなー」
結界に何度も阻まれた俺たちは、実感を込めてつぶやいた。
ゴール直前で先に進めないというのは、俺たちのような個人事業者4人なら損害はそこまでないが、軍隊で30日の作戦延長は莫大な費用がかかるだろう。
飯。野営地の設営。給与の追加支払い。
3万の兵なら90万人工が増えるのである。
仮に日給1万円とすれば人件費だけで9億円。必要経費や食費などを考えるとさらに費用がかかる。それらが全て無駄金となるのだ。
元社会人としては震える金額である。
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「結界って便利だよな」
目の前の壁を強引に通ろうとして押し寄せる魔王軍を見ながら俺は言った。
15日の行程を経て『さあ、やっと戦争だ』と思ったら、たった一枚の透明な壁があるから進めない。
そんな理不尽に納得がいかない兵士たちが、動物園の檻の中の猿のように結界に張り付いてわめいている。
その後ろで進軍計画を立てていたっぽい大将と参謀が、絶望的な表情でお腹を抱えてうつむいていた。
食料の確保を略奪で考えていた場合、帰りは共食いでもしないと生きて帰れないのかもな。管理職は大変だな。
どれだけ数の暴力があろうとも、蟻一匹通さない理不尽な防壁。結界。
これを作れるのはかなりの強者だと思う。
「しかも、これワシらは自由に行き来できるんじゃよな」
そう言いながら、スイヘイが道の端から結界の外に出る。
食ry…戦えそうな相手を見つけて、魔物たちが殺到するがひょいと結界に入りなおすと、魔物たちだけ見えない壁に遮られていく。
あ、後ろから来た魔物たちに前の方の魔物たちが押しつぶされていく。骨が見えて、血しぶきが水槽のように結界に張り付いている。
…………経験値ゲットだぜ!(外道)
そんな光景を見ながら敵幹部は口を開く。
「昔は城への橋を壊して通れなくした魔王もいたそうだが…」
あ、それ某有名RPGの1作目で取られた妨害だ。
「いかだ船であっさり通行されてからは、研究が進んでな。特定の因子を持つ生物だけを弾く結界が開発されたわけだ」
だよなぁ。
世界救うためなら、船くらい自作してでも海を渡るよね。
ちょっとした壁とか扉など『壊せばいいじゃん』と思うし、幅1mの水路を渡れず引き返す救世主たちを見て『飛び越えろよ、それくらい』と、何度も思ったものである。
しかし、敵幹部は気になることを言っていたな。
「特定の因子を持つ生物だけを弾く魔法を張っているって、それって例えば、人間とか魔族だけが通れないけど他の物質は自由に出入り結界も作れるのか?」
そこまでしなくても、解除キーみたいなものを持っている人間は素通り出来るけど、そうでない人間はブザーが鳴ったり焼き殺されたりするって漫画みたいなセキュリティもできるのだろうか?
「ああ、やろうと思えば簡単にできるぞ」
ただ、誤作動を起こした時に味方まで殺してしまうというリスクを考えて、通れないだけにしているのだと言う。
だから無人の施設や敵幹部の住処の場合、即死クラスのダメージを与える結界を設置しているらしい。
殺傷もせず、ただ通せんぼするだけの結界って優しかったんだなぁ…。
「結界張りは様々な事態に対応してフィードバックを繰り返す安全管理の要だからな。我も23ある魔族の集落に結界を張っていたが、その重荷を降ろせたのはありがたいな」
防衛システムを張る所って、交通の要所か住宅だよな。
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「ということは、今その結界は?」
防御魔法を少しだけ使えるリーベが、興味深そうに問いかけた。
「さあ?システム自体は動いているかも知れぬが、メンテナンスはしておらんから、色々トラブルはあるかもしれん」
世の中には辞める前にシステムを破壊していくやつもいるのだから、そのまま放置していくというのは優しい話である。
「そういえば、人間は通れないけどワシやフネが通れた結界ってのがあったのう?」
「ああ、それは勇者たち人間が持つ因子を通さない形にカスタマイズした結界だな」
人間は通したくないが、エルフやドワーフの行商人は通したいという定義なのでそうしたという。
逆に、魔族しか通さないという設定もあったらしい。
わざわざ人間とドワーフとエルフは通さないって設定にした場合3倍の手間がかかるから、設定はシンプルな方がいいのだろう。
そんな話をしていると、耳長エルフが余計なことを言った。
それは本当にただの思いつきであり、本人に全く邪気がないのは分かっている。
彼女はただ、こう言ったのだ。
「へー。じゃあその町を覆った結界を魔族を弾く設定にして、…そうね、たとえば全体の大きさを縮めたらどうなるのかしら?」
「縮める、とは?」
意表を突かれたように敵幹部は尋ねる。
「言葉通りよ。前に結界の張られている位置が広がっていくのを見たことがあるのだけど、逆に結界を町の中心に向かってどんどん狭めたら、強制的に外に出されるのかしら?それとも袋にどんどん芋を詰めたみたいになるのかしら?」
少し考えるしぐさをして、敵幹部は
「なるほど。それは興味深いな」
化学実験でも始めるかのように言ったのである。
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「なんじゃこりゃぁああああ!!!!」
大魔王の御令嬢に反旗を翻した町の魔族たちは叫んでいた。
ある日突然、町から外に出られなくなったのだ。
それどころか、建物の壁と見えない壁に挟まれて、あばら骨や頭蓋骨がミシミシ音を立てている。
この町では『弱いクソ大魔王の娘を殺して、新しい大魔王を!!!』と書かれた旗を立てていたのだが、旗を立てていた魔族は見るも無残な姿で町の入口に放置され、旗は全てへし折られていた。
そこで『大魔王派の仕業か?』と、警戒した衛兵たちが町の外に出ようとしたのだが、入口で止まってしまったのだ。
「おい。どういうことだ?外に出られないぞ」
狩りに出かける魔族はもちろん、城から食料を運ぶ部隊も町から城へ行く魔族も、生命体たちは全て出入り不可能となっている。
食料だけは出し入れできたので、飢え死にの心配はなさそうだが、これでは不便で仕方が無い。
「この結界を張った、あのクソ大魔王の隣に居た…あのクソ女の仕業か」
「ああ、あの生意気なメスか。そういえば良く分からない事を言っていたな。この町には結界を張っているとか何とか…」
魔族たちは結界が何なのかを理解していなかった。
そんなバカな。と読者のみなさまは思うかもしれない。
だが、パソコンに詳しくない人間がパスワードを書いた紙をパソコンに張り付けるという『鍵穴の隣に鍵をぶら下げている』ような、愉快な状態を見たことが有る人なら『人間、理解できない事には幾らでも無知な行動が取れる』事を御理解いただけるだろう。
重要情報の入ったPCのセキュリティを勝手に解除して誰でも閲覧できるようにしていた時は血が凍る思いをしたものである。
今まで結界と言うセキュリティがどれほど自分達を守ってきたのか?
その恩恵を理解できていない魔族たちは好き勝手に悪口を言い合った。
分けのわからないメスが作った、わけのわからない『おまじない』みたいなもののせいで、自分たちは不当に不便な思いをしている。という事で意見が一致した時
「あれ?」
一匹の魔族が違和感を感じていた。
「俺達、何かに押されてないか?」
先ほどまでいた町の入口から1mほど離れた位置にいたのだ。
「そういえば…体が勝手に町の中心に押されているような」
秒速1mmくらいのスピードで、押されているのがわかる。
「いででえでででええええ!!!!!」
中には家の壁と見えない『何か』に挟まれている者もいた。
木でできた壁の場合壁の方が先に壊れてくれたが、石の場合魔族の骨が折れ、頭蓋が割れ…………最終的に水風船のように体が破裂した。
「なんじゃこりゃあああああああ!!!!!!」
魔物たちは慌てふためいた。
見えない壁が、ゆっくりと自分達の方へ―――正確に言えば町の中心へ迫って来ていたのだ。
結界は目に見える物もあるが、この町の場合は目に見えないので、どこまで結界が迫っているのか分からなかった。
家の中に居た魔物は、気が付いたら自分が何かと壁の間に挟まれているのに気が付いたし、運よく扉から逃げだせた者は、町が魔物たちであふれかえり、足が折れたり、体の半分が潰れてもなお牛にでも引かれたかのように動いてきているのを目にしていた。
ある者は町の中心へ、ある者は高い所へと逃げようと建物の上へと避難した。
だが、7階建ての塔にいた魔物たちが飛び降りるのを見て「天井も塞がっているのか」と理解せざるを得なかった。
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結論から言おう。
大方の予想通り、23ある魔族の町が住民だけ壊滅した。
建物はほぼ無傷、台所には調理中の料理が手をつけられないまま残っていたのだが、魔族だけが何者かに押しつぶされたかのように、地面にぺっしゃんこな状態で血溜まりになっていた。
とある町の牢獄に捕らえられていた獣人は助けられた後、こう証言した。
「
身長3mはあるオーガは、頭をぶつけたように何かが当たってしきりに頭をなでていたという。
「で、次に魔族全員が、天井のようなものに頭をぶつけないよう、かがんで歩くようになりました。まるで、見えない天井がジワジワと降りてくるようにして、…最後にはみんなしゃがんではいつくばるようになってました…」
犯罪を犯したとして同じ牢獄に閉じ込められていた魔族は、見えない力に押さえつけられ、ベッドが壊れて地面に倒れたという。
「ワタシは何ともなかったですが、牢屋の外からは『立てない!』とか『出られない!誰か助けてくれぇ!!!』って声が聞こえてきまして…。彼らが死ぬ数秒前でしたか?目の前にいた看守が「空が落ちてくる」って言って目の前でトマトみたいに頭が潰れたのは…」
その時を思い出して獣人は神に祈るように手を組んで震えていた。
生物というのは頭か胸が一番大きい。
なので2mくらいの高さに結界を張り、10cmずつ高さを下げたりすると、そのような圧殺破裂を起こすのだろう。
実況検分に出た町は、所々にプレス機で潰されたような血と何かの跡があった。
別の町では、壁の形に抜けた壁や潰れたトマトみたいな跡があったり、町の中心部で、まるでなにかを押し固めたような、赤と骨と(検閲削除)と(検閲削除)と(見せられないよ)の混じった立方体の塊が転がっていたりした。
「…私が悪いんじゃない…私が悪いんじゃない…。…私が悪いんじゃない…私が悪いんじゃない…ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさい…ごめんなさい……」
「………ワシ、一生トマト料理は食えないかもしれんのう」
「…クゥン(これはひどい)」
という声が町を出るまで聞こえていたが、たぶん空耳のたぐいだろう。
今まで見ていたのも、トマトケチャップかドッキリのたぐいだ。
決して脱出不能の凶悪なトラップで全滅した悲惨な町などなかった。
これは全部夢。目が覚めたら魔物たちは普通に生きていて、あの下卑た笑い顔で俺たちと戦うのだろう。
ああ、面倒だ。命が有るって素晴らしい。
お願いだから生き返ってほしい。
これは夢だ。楽をして敵を倒したいと思った俺が見た白昼夢だ。そうにちがいない。
夢ならいいのに、夢だったら良いのに。
…………夢だったら本当に良かったのに。
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結界師という漫画があったなぁ。と書いてから思い出しました。
どんな攻撃も通らない壁という理不尽の塊が迫って来る結界って、使い方次第では理不尽な攻撃も可能だなと思います。
というか素直にデモン●ウォール(FF4)みたいな状態起こして押し潰せば楽勝なんじゃないかなと思ったのがきっかけで書いてみました。
日本の会社ってセキュリティという一番大事な部分を軽視しているけど、担当者を冷遇してたら酷い目に会うって意外と想像できない人が多かった気がします。
なお筆者的に現場監督時代 工事現場への道が崩壊して通れず半日無駄になったことがあるので、敵の参謀さんには同情します。
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