第2話 HPも攻撃力も弱体化せずに加入してきた敵幹部
(前回までのあらすじ)
理不尽すぎる強敵を見て、王様に退職願を出したら、その理不尽すぎる強敵が背後にワープしてきて亡命したいと言いだした。
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「至高の方、大魔王様の御令嬢と我の亡命を受け入れてもらえぬだろうか?」
「大魔王?」
話を聞くと、魔王よりも偉い大魔王という存在がいたらしい。
大魔王は12名の魔王を従えていたのだが、3日前 666歳の寿命で崩御したのだという。
やっぱり裏ボスがいたのか。まあ、RPGの定番だよな。
そんな事を考えていると
「くそっ!!!勇者よ。大魔王とやらに寝返ったのか!」
目の前で、雇用者がトンデモナイ勘違いをした。
「いや!辞めるとは言ったけど寝返ってないよ!まだ!」
「……まだ?」
ていうか大魔王がいるってさっき知ったばかりだよ!!!
「だが、魔族の幹部がこの王宮まで来たという事は、お主たちが寝返ったという事ではないか!ああ、こんな余所者を勇者として信用するのではなかった!」
「信用してなかっただろ!だから小遣い程度の金と棒一本で放り出したんだろう!この超ドケチ!信用するなら、もっと金を出せよ!このケチケチケチ王!!!」
「それは、そなたを成長させるための愛の鞭だったのじゃ」
「だったら、お前も50エンで旅に出てみろよ!自分じゃ出来ない事を他人にさせようとするな!このクズ王!!!」
互いに、罵りあう俺と王様。人間って醜いね!
「衛兵!この者たちを捕まえろ!反逆者だ!」
あ、バカ。バケモノを刺激するんじゃない。
そう言おうとしたが。
「それでは、これなら信用してもらえるかな?」
そう言うと、敵の幹部は姿を消した。
そして次の瞬間、先日逃したカバ…もとい、四天王のカッファーが両手足から血を流しながらぼろ雑巾のような状態で引きずられて来た。
「うわ…」
「こいつはひでぇ…」
胴体は無傷だが、両手足の損傷があまりにもひどく10人中10人が「ああ、これはもう助からないな…」と思えるような状態だった。
映像化したら、モザイクを書けないとお見せできないぐらい徹底的に拷問を受けたようなカッファーは
「…………シテ…………コロシテ………」
と譫言のように懇願を始めた。
「我に助けられたのに、恩知らずにも大魔王様を裏切ったのでな。前に会った時の状態にして返そう」
その言葉を聞いて王様たちが俺たちをみる。
違うよ?
いくら敵とはいえ、俺たちこんな酷いことはしてないよ?
弁解を求めるように敵幹部を見る。すると
「ああ、暴れられると面倒から手足は潰したが、胴体は無事だ。煮るなり焼くなり経験値にするなり、好きに使ってくれ」
問題はそこじゃねぇよ。
「勇者よ。これはもうひと思いにトドメを指した方がよいじゃろう」
「そうね。私たちの村を襲った憎い敵とはいえ、ここまで酷いと可哀想になってきたわ…」
2人の言葉に、俺はうなずくと。
「フネ。やってくれ」
フネにお願いをした。
「ワン!(了解です!ご主人様!)」
元気な声とともにフネのキヤノン砲がうなる。
敵の四天王だったカバは、自分に即死クラスの攻撃が来たのを感じたのか
「…………アリガトウ」
という言葉を残して絶命した。
そのセリフは、敵に操られた味方とか一般人が言うものであって、敵の幹部が言っていいセリフじゃない。
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「今まで魔族の活動は大魔王様によって制御されていた」
と、残虐なシーンが終わると、敵の幹部は自分達の情報を説明をし始めた。
どうやら魔王軍は大魔王の指示で動くフロント企業のようなものだったらしい。
「つまり、この大陸の魔王は支店長みたいな存在で、一番偉い大魔王がいたと?」
「支店長とはよく分からぬが、大魔王様が一番偉い方と言うのは正しいな」
その大魔王が、寿命で亡くなった今、後継者争いが勃発したという。
「なるほど、それでそこのお嬢さんが大魔王の御令嬢というわけか」
魔王軍というのは実力主義の世界らしいので、強大なトップが消えた今、時期大魔王の座を狙って魔王同士で争いが始まったのだという。
「お前さん位の強さなら、そのまま大魔王に収まればよい気がするがのう」
余計なアドバイスをするスイヘイ。
おいやめろ。それだと俺たちにとってのラスボスはこの化け物になるじゃないか。
「というか、ここで貴方に勝てる人間はいないから、人間の王国を乗っ取る事だって可能じゃないですか?」
……お前たち、『売国奴』って言葉知ってる?
「私は、そんな地位に興味は無い」
と敵幹部は言う。
「こちらの指示に従わず、不平ばかり並べ立てて弱いくせに反乱ばかり起こす害獣を何でお世話せねばならんのだ」
うんざりしたように言う。
「だいたい、次の大魔王は御令嬢と定められていたのに、弱いくせに出世欲だけは一人前な雑魚たちが身の程知らずに反乱を起こしたのだ」
そんな聞き分けのない烏合の衆を治める気は無いのだと言う。
「ところで、何で亡命しようと思ったのじゃ?」
スイヘイが尋ねる。
「うむ。我が世話周りの者たちも反乱に加わったため、家事が出来る者がおらんくなってな」
「はい?」
「このままでは、御令嬢が今日ゆっくり寝る場所が確保できぬのだ。城は結界に覆われているとはいえ、あのような醜い者たちを御令嬢の目に移すのは目の毒じゃし、見せしめに100匹ほど殺しても良いのだが、消し炭で景観を損なうのももったいない」
反乱を起こされたのに、害虫駆除かなにかをするように語る敵幹部。
えーと、元仲間だよね?
「恩を忘れた害虫どもが?」
にっこりと笑っているが、底知れない恐ろしさを感じたのでそれ以上その話をするのはやめた。
「そこで、力は弱いがそこそこ文化的な生活をしている人間に寝どこを借りたいと思ってな。、仕方ないが牛小屋や馬小屋の中で比較的ましな場所がここだったので、こうして頭を下げて頼みに来たと言う訳じゃ」
「喧嘩売ってんのかてめえ」
「やめなさい。勇者。逆らってもミンチにされるだけよ」
「嫌味とかではなく、素でワシ等を家畜や野生動物のように見とるのう…」
人間の世界は馬小屋よりはずっと綺麗だし、食べる者もそれなりに上手いので、わざわざ選んでくれたのだと言う。
そんな、偉そうなセリフをさっきから ずっとふんぞり返って言ったのだが、やっぱり敵になられても困るので まあいいや。
こうして、敵幹部はこちらの食客となり、俺たちは退職届を撤回したのである。
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「まあ、強い敵って味方になったとたんに弱体化する事が多いけどね」
ゲームバランス維持のためか、某ロボットの大戦とかSRPGなどでイヤと言うほど見てきた光景だ。
だが、あんな化け物と戦わないといけない事を考えると弱くても味方になってくれただけで御の字である。
あれが敵だったらバランスブレイカーどころの話ではない。
なのだが…
「大変です!!!」
「どうした?」
「城の外に、竜の大軍が!!!100頭以上の竜がいます!!!」
空には天を覆わんばかりの、体長30mはある大型の竜が飛びまわっていた。
この世界だと、5mの竜を倒せたら英雄とか勇者と言われるレベルである。
「どうやら御令嬢と我を追いかけてきたようだな」
と澄ました声で述べる敵幹部。
て め え の 仕 業 か 。
「この国も終わりか。短い人生じゃった」
勝率0の敵の大軍を見て王様があっさり生きる事を諦めた。
だが、
「ああ、すまない。すぐに追い払うからちょっと待っててくれ」
そういうと、敵幹部は姿を消した。
先ほどの影を使った移動でもしているのだろう。
そして、次の瞬間。
火山でも噴火したかのような轟音が鳴り響き、上空を覆っていた竜たちは一匹残らず消し炭となって、地面に落ちてきた。
「何をしたんだ?」
「いや、ただのファイア(初級呪文)を使ったのだが?」
「ファイアって火球を作って敵一体を攻撃する呪文だったはずじゃがのう?」
「そうなのか?」
意外な顔をする敵幹部。
だが、俺だけは知っていた。
目の前の化け物が攻撃を放った時に、一瞬だけ性能が見えたのだ。曰く。
『 ただのファイア 攻撃力;150000 (MAP) 』
おい、ゲームシステム変わってんぞ。
「普通の魔法攻撃がMAP兵器になるってどうなってるんだ…」
「あれじゃのう。蟻にとって、ドワーフが一歩動いただけで全体攻撃というか、範囲攻撃になる感じじゃないかのう」
某小説で『私の測れる強さのものさしは1メートル単位』1mmと2mmの違いって分からないという言葉があったが、目の前で起こっているのがあれだったのだろう…
とんでもない化け物だが味方になってくれて本当に良かった。
それと、今まで味方になったら弱体化した敵キャラのみなさん。
弱体化してくれてありがとう。
あなたたちは、味方になってくれた後は裏切ってもそこまで怖くなかったけど、そのままの強さで敵になってたら恐ろしい事になっていたよ。
選択次第では、この化け物と対峙しないといけない事を考えると、俺たちはいつ大魔王軍に寝返るべきか真剣に思いをはせるのであった。
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「いまのはメラ●ーマではない。メ●だ。」
これ、リアルでやられたら心がバッキリ折れますよね。
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