第252話 衝撃階層とわんちゃん

 眼を開くとそこには摩天楼がそびえ立っていた。


 いきなり何を言っているんだコイツは?と思うだろうが、正直俺自身も何を言っているのか、そして何を見ているのか解らなかった。

 しかしよーくここまでの経緯を思い返してみれば解る事もあるだろうと思ったので、俺は朝の事から思い返す事にした。


 確か・・・


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 朝、まどろみから覚めた俺は顔を洗い、同じく起きて来ていたごぶ助やエペシュ達と食堂へと向かった。


「おはようごぶ!今日は良い肉が入ったごぶ!朝からジューシーステーキ祭りが出来るごぶ!」


 すると既に起きて料理をしていたごぶ蔵がそんな事を言ってきたので、肉大好き犬、肉大好きゴブリン、肉大好きエルフの俺達は朝から肉フェスティバルを・・・


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 いや、ここら辺は絶対に関係が無いな、うん。


 なので日常編はカットして・・・そうだな・・・21層の探索を再開した所辺りから・・・


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 ダンジョン21層へと再び降り立った俺とごぶ助、ついでにニアの1人と2匹は、今日も元気に探索を開始した。


「ごぶ助、早速『探索』に反応在りだ」


「ごぶ?・・・ごぶ、昨日の奴ごぶ」


「他にもいるな。ん?あれは魔法使いか?前衛系の敵と一緒に出て来るとか、ちょっと厄介かもしれないな」


 探索して早々、硬そうな前衛と魔法使いという厄介な組み合わせの敵が出てきたが、俺達はこれに冷静に対処をする。


【ごぶ助!降りて注意を引いてくれ!その間に俺が後ろへ回ってかき乱す!】


【ごぶ!】


 何時ものゴブリンライダー状態から分離し、二手に分かれて攻撃する事にしたのだ。


「ごぶ!ごぶっ!」


「後ろから失礼するぜっ!っとぉ!」


「「「グガァッ!?ギャバァァ!!」」」


 所詮ダンジョン産の魔物といったところか、敵は俺達の華麗なコンビネーションに翻弄されて前衛と後衛が入り乱れてしまい、場はぐちゃぐちゃになった。

 そうなるとステータスで優っている事もあり、俺達は敵をサクサクと倒し戦闘をアッという間に終わってしまった。


「っし、良い感じだ。この調子で行こうぜ!」


「ごぶっ!」


 この日の緒戦がこんな感じにいい調子だったので、俺は『ガンガン行くぜ!』とばかりに進み始めた。

 その後も敵や罠を突破して順調に道を進み、特に変わった事も無くボス部屋へと到着。そしてそこに居たボスの『合鉄鬼』という、鉄鬼の強化バージョンともいえる魔物と戦った。


「ステータス的にも硬いし、スキルも強化系統だ!イケるかごぶ助!?」


「ごぶ。言ったはずごぶ。我に切れぬものはちょっとだけしかないと、ごぶ」


 しかし相性が抜群に良かったごぶ助にズンバラリと切られ、それ程苦戦する事も無く倒した俺達はハイタッチ(お手ではない)を決め、22層へと進んだ。


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 とまぁ、朝からの一連の流れはこんな感じだ。

 途中端折ったりサラッと流してはいったが、話した通り特に変わった事は何もなかった。特殊な敵を倒したりだとか、特殊な罠を踏んだりだとか、そう言うのは一切なかったのだ。


 それなのに・・・


「何で22層へ降りた先にあった扉を開いたら、現代日本の都会になるんだよ」


 そう、俺が見ている摩天楼とは、現代日本形式で建てられたビルが立ち並ぶ都会の町の風景だった。

 と、一応これで何を見ているかは解っただろうが、何故こんな事になっているかは俺もまだ分からなかった。

 しかし、それは珍しく俺と同じ様に不思議そうな顔をしていたニアによって、少しだけ理解できることとなった。


「ほほぉ?ほぉ~?む?一狼よ、アレを見るのじゃ」


「んん?っていうか、ニアはここに来たことあるんだろ?何をそんなに不思議な顔をしてるんだ?」


「いや、妾は『悪鬼』へは来た事がないのじゃ。他には行ったことがあるのじゃがな・・・と、今はそれは良い、アレを見るのじゃ。興味深い事が書いてあるのじゃ」


 ニアが指し示していたのは、直ぐ傍にあった看板であった。結構目立つ物だったが、先程までの俺はよっぽど動揺していたのか、見えていなかった様だ。


「地図と・・・色々な言語での注意書き?」


 もっと近くへ行きその看板を見てみると、どうやらそれは町の案内板兼諸注意が掛かれた看板であった。

 しかもそれは大勢の者が見ても解る様に、様々な言語で書いてあった。俺が知っている異世界の文字や、見たことが無い文字、そして使、だ。


「まさか・・・」


 俺の中にはが思い浮かんだが、取りあえず今はそれを後回しにする事にし、取りあえず看板に書かれてある事を読んでみる事にした。


「ふむふむ・・・ふむ。なるほど」


「ごぶ?」


「どうやらここは限定セーフティエリアになっているんだとさ」


「ごぶごぶ。ごぶ?限定ごぶ?」


「ああ」


 俺がそこの内容を読んでやると、ごぶ助は町の方を見た後頷いた。恐らく俺が読んでやった『このセーフティエリアには迷宮から産まれた魔物が住んでいます。ですが攻撃を加えない限り攻撃はしてきません』の内容通りに、本当にダンジョン産の魔物がいるか確かめる為だろう。


「ごぶごぶ・・・。他にはなんて書いてあるごぶ?」


「えーっと・・・・」


 ごぶ助は他にも何が掛かれているかが気になった様なので、俺は看板に書かれていた事を全部読んでやった。

 他に看板へと書かれていたのはそれほど多くなく、『買い物が出来る』『お金は換金屋で魔物素材を換金出来る』とこの町の基本的なルールしか書いていなかった。一応最後に『解らなければ、メイド服を来た魔物に聞いて』と書いてあったので、詳しくはそちらに尋ねてみれば良さそうだ。


「つぅか、メイド服ってダンジョン前で聞いたあれか・・・」


「ごぶ。あんな感じの奴ごぶ?」


「ん?・・・そうだな」


 メイド服の魔物に尋ねれば良さそうだとは言ったが、俺はごぶ助が見つけたを見て『あれに声を掛けるのか』と思ってしまった。というのも、は人間によく似た美形の姿をしているのはいいのだが・・・男なのだ。


「あれは吸血鬼じゃな」


「へ・・・へぇ・・・」


 ニアの言葉に『吸血鬼ってやっぱ美形なんだな』とは思ったが、やはりなぜ男にメイド服を着せているのかがよく解らなかった。確かにムチムチで美形ではあるが、(筋肉で)ムチムチな美形(だけど、それはダンディーとも言える)だ。せめて燕尾服、若しくは女の吸血鬼にしろと言いたい所だ。


「・・・まぁいいや、セーフティーエリアってんなら、回ってみよう。あ、けど一応警戒は忘れずにな?」


「ごぶ」


 突っ込みたいのは山々だが、ダンジョンの事に今更突っ込んでもどうにもならないだろうと思い、俺はそれらを無視して町を回る事にした。

 しかしだ、自分でダンジョンを経営しているから解るのだが、この状況は罠だと言う事も十分考えられる。

 なので俺はごぶ助へと注意を促してから町へと繰り出す事にした。


「先ずは換金屋だな」


「ごぶ」


 そしてまず向かったのが『取りあえず先立つモノがないとな』という事で、換金屋だった。幸いにもここのダンジョンで狩った獲物のドロップアイテムもあるし、以前から集めていた分もあるので十分な通貨が得られるだろう。


「自動ドア・・・だと・・・!?」


「イラッシャイマセ。カンキンデショウカ?」


「・・・っと」


 現代風の作りをした換金屋へと入るとオーガに出迎えられたのだが、コイツは普通の男物の服だった。・・・よかった。

 それは兎も角だ、俺は店員オーガへと魔物素材を渡し換金してもらうのだが、どのくらいしていいか解らなかったので100万アーキ(という通貨らしい)分を換金してもらった。先に店を覗いてから来た方が良かったかもしれない。


「ごぶ?ごぶごぶ」


 そんな考えが顔に出ていたのだろう、ごぶ助は換金屋を出ると、直ぐ近くにいたムチムチ♂なメイド服吸血鬼へと近寄っていき、持っていた通貨について質問をしていた。


「そうですね・・・パン1つで100アーキ、あそこの食事屋ですと定食が900アーキ位でしょうか。他に例を上げますと・・・」


「ごぶごぶ」


「勇者だなごぶ助・・・あ、覇王様だったか。つか服はアレなのに、喋りはメッチャ普通にダンディーってギャップがすごすぎぃ・・・」


 あの格好の奴に臆す事無く喋りに行ったごぶ助へと尊敬の眼差しを、ギャップが凄すぎるムチムチ♂メイドへと胡乱げな眼差しを向けていると話が終わったのか、ごぶ助が戻って来たので話を聞いてみる。するとどうやら日本くらいの物価らしかった。

 更にだ・・・


「ごぶごぶ。で、もう1つ凄い事聞けたごぶ」


「へぇ?なんて?」


「23層も町になってるらしいごぶ。お金はここと共有らしいごぶ」


「そいつは中々デカい情報だな!ナイスごぶ助!」


 なんとごぶ助は次の階層の情報という、なんともナイスな情報を仕入れて来ていた。

 俺はこの予想外の情報を仕入れてきたごぶ助へと賛辞を送りつつ、同時にある事を考え始めた。

 それは、『先に23層を見てきた方がいいかもしれない』という事だ。


(さっきは物価を確かめずに換金屋に走るっていう失敗を犯したからな・・・)


 俺達はレベルアップの為にこのダンジョンへと来たので、22層に引き続き23層もセーフティエリアというのならば、両方を回ると言うのは無駄だろう。

 なので良さそうな方だけ回った方がいいだろうと、そう考えたのだ。


「なぁ、ごぶ助・・・・」


 しかしごぶ助も同じ様に考えているとは限らないので、取りあえずその考えをごぶ助へと話し、相談してみる事にした。

 するとごぶ助は少し考えた後、『ごぶごぶ・・・相棒の考えに賛成ごぶ』と言ってきたので、この案を採用する事にした。


「いいのか?」


「ごぶ。相棒の言う通り遊びに来たわけじゃ無いごぶ。だからいいごぶ」


「そうか・・・わかっ」


「ごぶ。それにどっちかに一日も滞在すれば十分楽しめるごぶ」


「・・・そうだな、うん」


 ごぶ助はレベルアップも怠らないが、楽しむ事も怠らないと言う考えの様だった。


 とまぁ、ごぶ助のぶらり町遊び計画は置いて置き、取りあえず23層がどうなっているかも確認してくることにした。

 俺達は町中に点々と設置してあった案内の看板や案内のダンディー♂メイド服へ確認し、次の階層への階段へと向かう。

 因みにこの時、この階層にどんな店があるのかも確認していく。・・・どちらの階層の方が周りがいがあるかを比べる為だ。


 そうして俺達は23層へと向かったのだが・・・そこでも衝撃を受ける事になる。



 何故なら・・・そこは異世界だったからだ。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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