第249話 町に住む鬼とわんちゃん

「Are you sorry? If you apologize, from the beginning・・・(ごめんなさいだと?謝る位なら最初から・・・)」


「ソーリー・・・ソーリー・・・」


 物凄くネイティブな英語で怒鳴られていた為、途中からはイマイチ何を言われているのか解らなかったが怒られているという事は確かだったので、俺はひたすら謝り続ける。


「ふぅ~・・・これからは気をつけてくだサーイ。いきなり殴られても仕方ない様な事ですヨー?」


 それが5分程続くと向こうはようやく落ち着いたのか、怒鳴る事を止め『はぁ~やれやれ』と言った感じでそんな事を言って来た。

 なので俺は素直にそれに頷き、最後に『すいませんっした・・・』とだけ言ってその場を去・・・らずに思いっきりツッコミを入れた。


「いやいや、何で英語やねん!あんた転生者だろ!」


「エ?あ、ノリツッコミ!という事は、ジャパニーズデース?」


 するとそのツッコミを理解したのか質問をされたので、俺は答えるついでに質問を返す事にしてみた。


「まぁそうだな。元日本人だ。そう言うそっちはアメリカ人とかか?」


「まぁそうですネー。正確にはUSAとジャパンのハーフですガー。ま、面影0ですがネ!ハッハッハー」


 初手で怒られたし、牙や角があり、更に筋骨隆々で腕が4本もある鬼の様な風貌だったので怖い人かと思ったのだが、その人は意外にも俺の質問にも軽く明るく答えてくれた。

 その後も話を続けようとしたのだが、流石にここでは通行の邪魔にもなるという事なので俺達は場所を移す事にした。


「付いて来て下サーイ」


 鬼の人はこの町に詳しいらしく、話すにはうってつけの場所があるという事で俺達を案内してくれた。

 なので俺達はそのままその人に続き、酒場の様な場所へと入った。


「ようこそいらっしゃーイ。ヤマト屋へようこそー」


 本日は休みなのか、営業していないらしい店内へと入ると鬼の人がそんな事を言って来た。これもよく解らなかったので、俺は取りあえず自己紹介から始めて見ないかと提案をしてみる。

 するとそれに快く了解を出してくれたので、早速俺達から紹介を始めた。


「俺は一狼。こっちはごぶ助、そしてニア」


 名前の他にも、転生者は俺だけだとか、何処から来たとかを軽くだけ話しておく。

 そうして俺らの自己紹介が終わると、今度は向こうの自己紹介が始まった。


「私はヤマトデース。この町に住んでマース」


 つらつらーっと自己紹介で聞いたことをまとめてみると、名前はヤマト、前世では違ったらしいが、転生して姿形が鬼の様な魔族に変わった事もあり、心機一転という事で改名したらしい。

 そしてこの『ヤマト屋』だが、ヤマトさんが営んでいる店らしく、昼は定食屋、夜はバーになるお店なのだと言う。

 更に、ここからが結構衝撃だったのだが・・・


「え?転生してから50年位・・・?」


「そうデース。正確には53年ですネー」


 どうやらこのヤマトさん、今まで出会って来た転生者達より以前に転生した人らしく、今年で53歳だそうだ。

 しかし53年前と言うと、テレビが白黒だった位の時代な筈なので、ハーフとか結構珍しい人だったのではないだろうか?


「シロクロー?何言ってるデース?TVは色ついてるでショー?」


 とか思っていたのだがそうでも無いらしく、ニア先生の解説によると『神は時間の流れも自在なのじゃ』との事で、必ずしも50歳の転生者が50年前の人だとは限らないのだとか。


「まぁかと言って、お主達よりもっと先の時代から来たというモノにはあった事がないのじゃがな」


「それは残念だな・・・猫型ロボットとか居るのか聞きたかったんだが・・・」


「オー!知ってマース!○ラエモーン!」


 余談だが、どうもこのヤマトさんはアメリカ生まれアメリカ育ち、日本には大人になってから仕事で来たそうで、日本の事はそこまで詳しく知らないそうだ。

 そしてそれにかかってくるのだが、何故こんなカタコトな感じかと言うと、担当した神様がそこら辺適当だったかららしい。・・・神ェ・・・。


 とまぁ余談は兎も角、これで大体の自己紹介が終わったので、続けて情報収集がてら質問でもしようとした所で『グゥ~~』と言う音が聞こえて来た。


「ごぶ。お腹減ったごぶ」


「あ、そういや昼時か」


「オー!ごぶ助さんお腹減ったんですネー。ヨシ、なら今日はお休みですが、特別にランチご用意しまショー」


 それはごぶ助のお腹の音だったらしく、それを聞いたヤマトさんが料理を作ってくれるという事になった。

 俺達はそれに甘える事にし、ヤマトさんお手製の料理を頂くことにした。


「ハイ、お待ちドーさまデース。食材が切れカケでこんな物しか作れませんでしたガネ。ハハハハハ!」


「いや、十分美味しそうなんだけど・・・」


「ごぶ!美味しそうごぶ!」


「うむ。ごぶ蔵の料理に引けをとっておらんかもしれんのじゃ」


「オー!サンクス!」


「じゃあ・・・」


「「「いただきます」」」


「ドウゾドウゾー」


 見た目からも十分想像できたのだが、ヤマトさんの料理はとても美味しかった。話を聞く感じ、この町では食材も豊富に出回っているのでそれもあるとの事だったが、唯単にヤマトさんの料理の腕が凄いのもあるのだろう。


「いや、それにしても味付けとかも美味しいと思う・・・」


「ごぶ。絶妙ごぶ」


「うむ。こんな人材を見逃しておったとは不覚なのじゃ」


 因みにこの時ポロっと漏らしたニアの話では、どうやらヤマトさんの事は知らなかったらしい。転生者の観察は彼女の趣味だが、その為に血眼になって探す事はしないそうなので知らない者も多々いるのだとかという話だ。


 そんな感じに雑談も交えながら俺達は料理を食べ終えると、今度は雑談ではなく情報収集の為の話をさせてもらう事にした。

 それは獲って来た魔物の換金方法だったりお土産が売っている場所だったりと色々だったが、一番重要だったのはやはり・・・


「この町の情勢ですカー」


「ああ、何か最近魔王が変わったんだろう?」


 そう、ルキに頼まれていた『魔王について。またそれに関わる町の情勢』である。


「確かに最近変わりましたネー。ですが私が知っているのは世間一般が知っている様なウスーイ事だけデース。それでもオッケー?」


 転生者と言えどヤマトさんは極々一般人として生きる事を選んだらしく、特に魔王に顔が効いたり、伝説的な裏社会の人物だとかいう事実はないそうで、世間一般に広まっている情報しか持っていない様だった。

 しかし今はそんな情報でも十分なので、俺はそれをありがたく聞く事にした。


「ンー、変わったのは1年程前ですかネー?魔王になる為には、『魔王選』というイベントで優勝する事が一般的なんですガ・・・」


「が?」


「変わった魔王があまり良くない人物だったラシクテ、直ぐに暗殺されちゃったんデース」


「え?マジ?」


「イェス。で、そんな事になってしまったのでかなりゴタゴタしちゃいまして、未だに正式な次代魔王が決まってないらしいのデス。一応暫定として先代が色々取り仕切ってるので、町のアレコレは何とかはなっているみたいですガ」


「へぇ・・・」


 ヤマトさんの情報は十分タメになる話で、更に続けて話してくれた情報もいいモノだった。


「デスガ、歪みも出てきているらしく、前は問題が無かった物資の流通等が時たま乱れていますネ。更に権力者達や、スラムの動きが激しいらしいデース」


「動きが激しい?」


「バトルが度々あって、負けた方が町から追い出されているらしいデース」


「成程・・・」


 恐らくルキの村の周辺に流れて来ているのは、こういう町から追い出された者達なのだろう。

 そして未だ魔王関連のゴタゴタが続いている事から、これらも続くのだろうという事が予想出来たのだ。


「私が知っているのはコレ位ですネー」


 ヤマトさんが知っている情報はこれ位だったらしく、『それ以上はさっぱりネー』とアメリカ人っぽいジェスチャーをとっていた。

 しかしもう1つ、これだけはと思い『魔王関連のゴタゴタが終わる様な気配は?』と聞いてみる。

 が、それはイマイチ解らないらしく・・・


「ソーリー。私はバーのマスターをやってるから、偶にそう言う話も聞くけれど、どれも噂の域を出てないのデース。酷いモノだと『空から大魔王が降臨する』とかもありましたからネー。つまり、解りまセーン」


 再び『サッパリ』と言った感じのジェスチャーとされると共にそう言われた。


「そっか、ありがとうヤマトさん。助かった」


「イェス。朝飯前デース」


 だが大体の所は知れたので、俺はヤマトさんへ礼を言って情報収集を終える事にした。

 そしてそろそろ時間も程々に経ったので、そろそろお暇を告げようと立ち上がったのだが、そこでふと言っておくかと言う言葉が浮かんだので、俺はそれを言っておく事にした。


「あ、ヤマトさん」


「ナンデス?」


「もしよかったら、俺達の所へ来ないか?」


 それは毎度おなじみ?優良転生者の勧誘だ。


(仲間は大分増えたけど、転生者はいざという時の為にも仲間にしておいて損は無いし、何よりヤマトさんはいい人っぽいからな。それに・・・)


 これは上記の様な理由もあったが、何より『長くこの世界の町で生きてきた』、その理由が強かった。

 と言うのも、俺の仲間は野に住む魔物orド田舎に住む者達だ。なので『普通に町で暮らしてきた』『転生者』と言うのは、色々な事を知るうえでとても貴重な人材なのだ。


(何気にまだまだ常識とか知らないしな。・・・やばい国とか)


 だから是非ともヤマトさんには仲間に加わってほしかったのだが・・・


「アー・・・少し離れたところにある、新しい町デスカー」


「そうそう」


「ちょっと無理だとおもいマース」


 それは見事に断られてしまった。


 しかしそれは至極まともな理由で・・・



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「スシ、スキヤーキ!」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると ごぶ助が 寿司を握ってくれます。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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