第246話 開かれたダンジョンの町とわんちゃん

「気になる所はあるけど、一旦これで許してやるごぶ!」


 ダンジョン内に大規模な町を作り始めてから約半年経ったある日、ポンコのコアルームにてダンジョンの町が漸く完成との知らせが上がった。


「「「お・・・おぉぉおおお!!」」」


 それを会議に出るイツメンとルキは間近で聞いていたのだが、ずっと待ち焦がれていた瞬間だ・・・聞こえた瞬間に『ワッ!』と沸き立った。


「実際にリョシンやホークス達、特殊な環境を好む人達に試してもらったから直ぐにでも住めるごぶ。町の地図はポンコに言えば出してくれるごぶ」


 なので続けてごぶ蔵が言った言葉を誰も聞いていなかったのだが、仕方がないだろう。・・・それほどまでに待ち焦がれていたのだから。


「やっとだ・・・多くの勧誘した人に『何時から住めるんだ?なぁ?』って漸く詰められなくて済む・・・」


「流石のボクもそろそろ抑えきれなくなってきてたからね・・・良かったよ本当に・・・」


 まぁ一部・・・俺やルキ何かは少し違う意味で待ち焦がれていたのだが、それは許してほしい。


 と、兎に角だ、約半年かけたダンジョン大改造はここに完成を見、漸く次のステップへと勧める事となったので、俺は喜びに満ち溢れた末踊り出していた会議メンバーへとストップをかけ、次のステップ・・・即ち住民の移住に関しての会議を開くことにした。

 そうすると、皆も『町が出来たからハイ終わり』とはなっていなかった様で、踊りは直ぐに中断し話を聞く体勢になってくれた。


「ありがとう皆。よし、んじゃあ移住について話を進めて行こう。ごぶ蔵、何時から人を入れれるんだ?」


「ごぶ?今さっき直ぐにでもいけるって言ったごぶよ?聞いてなかったごぶ?」


「・・・すまん」


「やれやれ・・・一狼はうっかりさんごぶね・・・」


 そして話を進め始めたのだが、ごぶ蔵の話を聞き逃していた事を本ごぶから怒られてしまった。・・・俺が100%悪いのだが、イラッとするから怒って良い案件だろうか、これ?

 と、どうでもいいやり取りを挿みつつ、俺達は会議を進めて行った。


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 そして約1週間後、移住に関しての会議を元に進めて行った計画はこの日、完遂する事となった。


「それじゃあホルク村の皆はここを使ってくれ」


「ホークスには、はいコレー。この町の地図だよ。これを参考に住民を割り振っていってねー。んで地図にある通り、商店街はここら辺ね?お店を出したい場合はこの役所へ来てね」


「了解ダ」


「じゃあホークス、俺達は役所の方に居るから、何かあったら来てくれ。ルキ、行こう」


「はーい。んじゃ皆、まったねー」


 予めこの計画に乗り『移住する』と言ってくれていた人の移住が終了したのだ。


「はぁ・・・でもこの後からお役所仕事ラッシュだな。この際だからと色々盛り込んだから少し大変だな・・・」


「そう?ボクは別にだけどなぁ」


「いや、お前は元村長で色々やってたからだろう?俺なんかは勝手が解らんからさっぱりなんだよ」


 しかし移住が終わったからと言って全てが終了ではなく、次なる仕事が待っていた。

 それは大規模になった住人に対しての書類仕事である。

 といってもだ、そこまで大逸れたモノではなく、住人に対しては住民登録、お店や狩りをする人達に対しては免許発行をするのである。

 これは今までは村という小さなくくりでやっていたので不要なモノだったが、町という大きな集合団体へと変わった事により必要になると思われるので、この際だからやる事にしたのだ。


(追々追加していくのもありだが、やっぱ最初にある程度はやってしまう事が肝心だからな)


 100人規模から1000人規模に変わってくるのだ、流石になぁなぁで済ませていくと問題が出て来るので、このスタートこそが肝心なのだ。


 そしてそれは勧誘時に住民にもある程度は説明してあるので、今の所は問題は起きていなかった。


 今の所は・・・だが。


「けど問題は出て来るんだろうなぁ・・・」


「ん~?」


 そんな事を思いながら歩いていると、どうやら口から悩みが漏れてしまっていた様で、ルキが尋ねてきた。


「どしたの?問題って何?パンは食べれるのに、何でパンツは食べれないのとか?」


「いや、エペシュたんのパンツなら食えるが・・・って違う違う。いやな、これからどんな問題が出て来るんだろうなぁ。ってさ」


「・・・何かドン引きな発言が聞こえたんだけど!?流石のボクもドン引きだよ!?」


「まぁまぁ、それは置いといてくれよ」


「う・・・うん」


 ルキは俺から少しだけ距離を取りつつ、その愚痴に答えてくれた。


「ボクもこれだけの規模を率いたことが無いから何とも言えないからねー。何とも言えないや」


「そうか」


「ま、でもあれさ、何かあった時は他の人を頼ればいいのさ。区長を決めた方がいいって言ったじゃん?それはそういう時の為なのさ」


「成程な・・・っと」


 そうやって愚痴に答えてもらっていると役所についたので、話はそこまでにして俺達は中へと入り書類仕事をする事にした。


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 その様な感じで日々は過ぎ、移住が完了してからの3日程は書類仕事や住人の疑問対応に追われる事となった。これらはもっと大変かとも思ったが、住人からも何人かスカウトをしていたりしたので、意外にもスムーズに事は運んでいった。


 そうして少し楽になった頃、俺は住人会議を開くことにした。


「よく来てくれた皆。一応知っているかも知れないが自己紹介から始めよう。俺は一狼。元はこのダンジョンと一緒に流れてきた流れ者だ」


 これは数日前に話していた区長を集めた会議で、未だ問題は上がって来てはいなかったが自主的に開いてみた会議だった。


「ボクはルキフェル。区長じゃないけど、アドバイザー的な感じで参加するよ!」


 この会議には大体が元村長で構成された区長以外にも、ルキや長老、ごぶ助と言ったいつメンも参加させている。理由としては上記の通り、アドバイザー的な役割だ。


「オレはハグレ者の村出身、ハガーだ。ハグレ者の村で代表みたいなものを務め、今はそいつらをまとめる区長をやらせてもらっている」


「ハガーで最後だな。んじゃ自己紹介が終わったところで、今回この会議を開いた理由を今一度説明しておく」


 そうしてアドバイザー達と区長達の自己紹介が終わったところで、俺はこの会議を開いた理由を説明しだす。一応招集を掛ける時に説明はしたが、皆で意識を共有する為に今一度説明するのだ。


「1、それぞれが担当する区の様子を共有する為。2、語ってもらった様子以外に、何か気になる点や住民からの要望があったならそれを報告してもらう為。3、決めた方がいい法・ルール等はあるかを尋ねる為。4、それ以外の気になる事について質問する機会を設けた。だな」


 俺が説明をすると、皆ちゃんと解っていたのか頷いている。尚、一部アドバイザーが「ごぶ?」とかなっているが、それは見ない事とする。


「この会議は定期的に行おうと思う。何故なら、こういう事の積み重ねがよりよい町を作っていくと思うからだ」


『『『コクコク』』』


「では、レターユから順に頼む」


「はい!えー、1区ではですね・・・」


 因みにだが、元ルキの村からはレターユが区長として選ばれている。理由としてはルキがアドバイザー役に収まった事で辞退した事、そしてそのルキの妹という事が大きい。まぁきっちりした性格、面倒見がいいと他にも理由は大いにあるのだが。


 と余談はさておき、レターユの1区から始まり2区、3区とドンドン報告が続いて行く。

 各区の様子は未だドタバタしている所が多いが、特に問題らしい問題は起きていないとの事で、気になる点・要望はあったとしてもささやかで、やれ『ベッドを直してほしい』や『家の扉の様式を少し改良してほしい』と言ったモノだった。


 決めた方がいい法・ルールについては、『何か問題が起こった時の罰則について制定すべき』や『敵が現れた場合どうするか』等が上げられた。

 これらについてはある程度予想していた事なので、予め決めておいたことを話し、その際細かいところまで皆で決めていく。


 そして最後、それ以外の質問なのだが、ここで思いもよらぬ事を2つ上げられた。

 それは『この町の名前は?』、そして『この町のトップは誰だ?』という事だった。


「ふむ・・・」


 これについては少し揉める・・・とまではいかないが、紛糾する事となった。


「ゴブ。やはりダンジョンの長である一狼様がトップに相応しいですゴブ」


「私達としてはやはりルキ村・・・いや、ルキフェルさんをトップに推したいんだが」


 と、この様に、町の名前は兎も角、トップを誰にするかという事に、昔から俺と居る俺派と昔からルキに世話になっていたルキ派に別れてしまったのだ。


「いえいえ、ここはごぶ蔵様かと・・・住みやすい町を作ってくれた張本人ですし。え?ごぶ蔵様は一狼派?ならそちらで」


「イイやここはニアさ・・・いえ、なんでもないです」


 因みに、少数ながらごぶ蔵派とニア派も居たりしたが、自然に流れていったのでこれは置いて置き・・・この後少し会議は長引く事になってしまった。


「相棒が・・・・」


「いやいやルッキーが・・・」


「ボスが・・・・」


「ルキフェルサンガ・・・」


 何故ならどちらも意見を譲らなかったからだ。

 まぁ俺としてはどちらでも良かった為何も言わずに置いたのだが、ルキもそれは同じ様で、彼女は唯々紛糾する会議をボォ~っと眺めていた。


「ふむ・・・」


 しかしこのまま無為に時間を過ごすのもあれなので、俺はルキに話しかけ、2人の間でそれらを決めてしまう事にした。


「なぁルキ、お前としてもどっちでもいいんだよな?」


「ん~?まぁそりゃぁね?特にやる事は変わりないだろうし?」


「だよな?んー・・・じゃあさ、トップは任せてもいいか?」


「んぇ?」


「いやさ、俺はやりたい事があってさ、度々この町から離れることになると思うんだ。そうなるとさ、ルキがトップでいてくれた方がいいじゃん?」


「あー、そうなんだ。たしかにそれはそうかもねぇ」


 俺はそういった理由を話し、ルキにトップを譲ろうとする。これは出まかせやその場で考えた事ではなく、前々から考えている事だった。

 ルキへと更にその理由について話すと、彼女は『それなら・・・』とトップになる事を承諾してくれ、紛糾する皆の知らないところで話は固まる事となった。


「あー、聞いてくれ皆」


 なので俺はそれを未だワイワイと言いあっている皆へと伝えたのだが、その後直ぐにルキから予想外な事を言われた。


「という訳でボクがトップになった訳なんだけど、それじゃあ一狼がアレじゃない?ってことで、町の名前は『イチロウ』にしようと思いまーす」


「えっ!?」


 完全に予想外だったので驚いていると、『未だ!』とその隙に長老達が外堀を埋めてしまい、町の名前が何故か俺の名前になってしまった。

 これには少し恥ずかしくなってしまい、俺はたまらずシュンと縮こまってしまう。


「うっそだろぉ・・・オぃイ・・・街の名前が俺の名前って・・・」


「にひひ、よかったねー、一狼!」


「よ・・・よかねぇ・・・ぐぬぬ・・・」


 そんな俺をルキがからかう様に茶化してきたので・・・俺は逆襲する事にした。


「おい皆!トップじゃあんまりだから、なんかいい名称考えようぜ!」


「んぇ?」


「ラブリーリーダー☆キューティールキフェル!とか!皆のトップアイドル☆ルキフェルちゃん!とかさ!」


「えぇ!?何それダッサァ!?」


「さぁさぁ皆!何かいい案はないか!?」


 逆襲としてはささやかだが、まぁやられた事も同じ様な事なのでいいだろう。


「さぁー!何か凄いネーミング付けてやろうぜ!」


「ちょっと!トップでいいじゃん!」


「駄目だ!ロリ婆大統領とかどうだろう!なぁ!?」


 ・

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 ・


 と、この様に第1回住民会議は最後がぐだぐだと締まらない展開となってしまったが、内容自体はいい感じに決まる事となった。



 そしてそれから1週間後、大分町も落ち着いてきたので大宴会を開くことにしたのだが・・・



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

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