第245話 進むアレコレとわんちゃん

 レモン空間内に作った一時滞在用の建物、そこで援軍として来てくれたポポト村の者とシート村の者を持て成したのだが、彼らは見事ダンジョンの虜になっていた。


「ヨイツチニミズ、ソレニタイヨウ・・・?トモカク、イイナ」


 植物系魔族とでもいうのだろうか、トレントによく似たポポト村の者達は、エペシュが管理している土とレモン空間内で生成された水と光を見て満足そうにし・・・


「飯も上手いし住処も暮らしやすいニャス。というか、この寝床と食べ物は革命ニャス!」


 シート村の者達・・・見た目がまんま2足歩行の猫のケット・シー族なんかは、こたつ型ベッドとごぶ蔵が特別に開発したご飯『チチュゥール』にド嵌りしていた。


(っふ・・・計画通りだ)


 俺はその様子を見ながら、心の中でほくそえんでいた。しかも先程トッポとニニャスが『ダンジョンいいかも』宣言をしていたのを聞いてしまったので、『ニチャァ・・・』という擬音が付きそうな笑みを浮かべてしまっていた。


 と、俺の気持ち悪い笑顔はさておきだ、ここまでダンジョンの虜になっているのなら頃合いだと思い、俺は一日の作業が終わった後、彼らに一度断られた移住の話を進めてみる事にした。


「よし!今日はここまでにしよう!」


「「「おー」」」


「じゃあレモン空間への入口を開くから入ってくれ。あ、トッポとニニャスはちょっと話があるから、残ってもらっていいか?」


「ワカッタ」


「いいニャスよ」


「ボクも残った方がいい?」


「あ、そうだな。残ってもらうか」


 作業が終わった後トッポとニニャス、それにルキを引き留め、俺はトッポとニニャスに移住の件を話し始めた。


「残ってもらったのはさ、前に一度村に言って話させてもらった移住の件、アレを再度勧めさせてもらうと思ってな」


 俺がそう話し始めると、2人の顔が1個人の顔から村の代表へと変化を遂げたので、俺も佇まいを少し直してから続きを話し始めた。


「2人やポポト村、シート村の皆には一時的にレモン空間内で生活してもらってるよな?説明はしたと思うが、あの空間も一応ダンジョンだ」


「アア」


「で、実際暮らしてもらって解ったと思うが、結構快適だろう?だから『ダンジョンなんて・・・』という偏見さえ失くしてしまえば、最高のモノになる」


「確かにニャス。まぁその偏見をなくすのが難しいのニャスけど」


「まぁな。でも2人や皆って今はそうでもないだろう?つまり、実際に体験してもらえば皆理解してくれるんじゃないか?」


「フム・・・イワレテミレバソウカモナ」


「ニャス。確かに最初は『ダンジョンで寝泊まり?キモッ』って思ったニャスけど、割と直ぐに『快適!素敵!』に変わったニャス」


「だろ?だからさ、以前は断られたダンジョン移住の話をもう一度考えてみてほしいんだ。どうだろう・・・?」


 俺がそう言うと、2人は唸りながら考え始めた。


(リョシンっていう前例があったからって、ちょっと甘く見てたか・・・?)


 俺はそんな2人を見て少し計算違いだったかと焦る。思い返せば、リョシンの場合は長い時間肩を並べて戦った末に向こうから言い出してくれたので、この2人よりかは好意的に見てくれたのは当たり前だったのだ。


(ミスったな・・・何がダンジョンの虜だ・・・)


『完全に時期尚早。失敗だ』と、表面には出さなかったがため息を吐いていると・・・


「大丈夫だよ2人共。一狼は信じられるし、迷宮は怖いだけのモノじゃない」


 それまでは俺の横でニコニコしていただけのルキが援護射撃を行ってくれた。そしてこのルキの援護は威力が抜群で、それまで唸っていたトッポとニニャスは唸るのをピタリとやめ、前向きな答えを返してくれた。


「ルキソンチョウガイウノナラ・・・ウム、ソウダナ。ムラノモノヲセットクシテミヨウ」


「ニャス。ルッキーがここまで言うのはあまり無いニャス。だからニャーも村の皆に話してみるニャス」


「おぉ・・・ありがとう2人共!よろしく頼む!」


「ありがとうね2人共。ボクは嬉しいよ」


 やはり彼女はこう見えても長くこの地の為尽力して来た人物なのだろう。俺はこの時のルキからは何時もの少女然としたモノではなく、聖母もかくやといった雰囲気を感じた気がした。

 なので『話はこれで終わりだ。ありがとな2人共』と、トッポとニニャスをレモン空間内へ送った後、ルキに改めて礼を言っておく。


「ありがとなルキ。お前のお陰でうまい事は無しが進んだわ」


「ん?いやー、元はと言えばボクが周辺の村の子達も住ませてあげてって言ったんだしね。当然だよ」


「そうか・・・いや、それでもありがとうだ」


「ふふ・・・どういたしまして」


 礼を言い終わると俺達もレモン空間へと移動する。そしてごぶ助達にダンジョン移住計画が進んだことを報告した。


 ・

 ・

 ・


 そんな事があった後、俺達はポポト村の者やシート村の者達と交流を深めながら作業を続け、気が付けばルマオ村の撤収作業は全てが終わっていた。


「終了だな」


「だね!コレで妙な奴らが住み着く事もない筈っ!んじゃ最後に、おバカな奴ら向けにっと・・・」


 作業が終わった元村を俺とルキ、それにポポト村の者達とシート村の者達で眺めていると、ルキが何やら言い出し看板を設置し始めた。

 一体何かは解らなかったが取りあえず見守り、看板設置が終わった所でルキへと尋ねる。


「一体それは何だ?おバカな奴ら向けって言ってたが・・・?」


「あー、いきなりこの村が無くなったら、ボクもどっか行っちゃったって思われるじゃない?」


「だな?」


「そうしたら略奪好きな馬鹿達が調子づいちゃうじゃない?そうならない為の書置きさ!」


 ルキの説明を聞いた後看板を見てみると、そこには『ボクはダンジョンに引越ししました!文句が言いたかったらかかって来い間抜け共ー』と書いてあった。どれほどの効果があるのか不明だが、少なくともルキは健在だという事は解るのでこれでいいのだろう。


 そしてその設置が終わると、長らく村の解体作業を手伝ってくれていたトッポ達とのお別れの時間である。


「ジャアマタ」


「またニャース」


「ああ、またな」


「まったねーぃ」


 と言っても別に今生の別れでもなく、その内一緒の場所に住むかもしれないので、別れはさらりとしたモノだ。

 俺とルキは彼らを見送り、彼らの姿が見えなくなると移動する事にした。何処へ行くのかというと・・・


「ごーごーれっつだんじょんごー」


 ダンジョンコア収集の為にダンジョン攻略だ。


「ルキの村の人達も不便はしていないだろうけど、なるべく早く本拠へと住ませてやりたいからな・・・」


 ルキの村・・・ルマオ村の人達は以前と変わらない生活をレモン空間内と外を行き来して営んでいる。

 しかしあの空間、手を入れてある部分は良いとはいえ、手つかずの場所は上下左右が白で囲まれている精神にクル空間だ。なのでなるべくなら早く、普通の外みたいな空間になっているダンジョンへと移住させてあげたいのだ。


「ポンコ曰くもうちょっとでイケそうって言うしな・・・がんばるぞい!」


「がんばるぞいがんばるぞーい!」


 という訳で、俺達は急いでダンジョンコアを集めるためにダンジョンへと向かうのだが・・・


「あ、ちょっと待った」


「ん?」


「戦争が起こるのを予知したって。先そっちいい?」


 いきなりそれは頓挫する事となった。

 しかしそれを無視する事も出来ないので、俺達は予定を変更し、戦争が起こると予知された場所へと向かった。


 ・

 ・

 ・


 こうして暫くの間、ダンジョン攻略と他の村の救援を繰り返すことになったのだが、何もそれは悪い事ばかりではなかった。

 というのもだ、ダンジョンが村の近くにあった場合、村の救援ついでにリョシンの村同様ダンジョンツアーを行い、ダンジョンの認識を変える事が出来たからだ。


『どうかと思ったが、悪くないかもしれないな。それにルキさんが言うんだ、検討してみよう』


『そうね。これなら・・・。ルキ様も保証している事だし、村の皆で考えてみるわ』


『検討してみよう・・・』


 と、幾つかの村ではこの様に前向きな答えを貰い、ダンジョンツアーを行っていない村でも、何かと理由を付けてレモン空間での生活を試してもらったりして良い返事を貰ったりした。



 そんな日々を俺達は半年ほど続けたのだが・・・その結果ついに・・・



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「聖母ルキフェル☆降臨」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると ルキが 一狼の新たなママになってくれます。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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