第242話 ダンジョン攻略中のワンチャン2

 ダンジョンに入って8日目、俺達は22階層にまで歩を進めていた。


「こっちは私達に任せてくれっ!」


「ああっ!頼むっ!」


 10階層くらいからリョシン達にも戦闘に加わってもらっていたが、それは今も継続しており、俺は彼らに背中を任せていた。


「エイハチ!パクラ!敵の気を引いてくれ!その隙に私達が上から攻めるっ!」


「「了解!」」


 彼らの戦法は8人でチームワークを駆使し戦う戦法で、リョシンの支持で皆がまるで1体の獣かと思う猛攻を繰り出していた。


「くらぇぇっ!」


「「「うぉぉおおっ!」」」


「ギギャャャァァッ!!」


「・・・空中泳げると便利そうだな」


 俺はその様子を見てぽつりと言葉を漏らす。

 言ったと思うがこのダンジョンは謎システムを採用しており、リョシン達は空中をまるで水中かの様に泳ぐことが出来る。

 そして彼らはそのシステムを十全に活用し上下左右と縦横無尽に攻撃を繰り広げられるので、今回のダンジョン攻略に置いては非常に頼もしい存在になっていた。・・・とまぁ、それは大変喜ばしい事なのだが、俺もあの楽しそうな謎システムの恩恵を受けたかったので少し羨ましい気持ちがあり、それでついつい羨むような言葉が漏れてしまっているのだ。


「だね。でも一狼も空中飛べるよね?」


「まぁそうなんだが・・・それとこれとは別なのだよエペシュさん」


「???」


 完全に隣の芝は青く見える状態なのだが、それでも羨む事はやめれなかったのだ。・・・だってまだ1さいのあかちゃんけんなんだものbyいちろう。


「え?一狼って空中飛べるんだ?すっごーい!」


「まぁな?って呑気に喋ってる暇じゃねぇ!こっちも・・・って終わってんのかい!」


 と、俺が馬鹿な事をしている間にエペシュとルキが敵を片付けてくれていたみたいで、視界から敵の姿は消えドロップアイテムのみが落ちていた。


「ならリョシン達の手伝いを・・・」


「ふぅ・・・終わったぞ一狼。ん?どうした釣った魚をキャッチ直前で逃がしてしまった時みたいな顔をして?」


「・・・なんでもないさ」


「そうか。あ、今回のドロップアイテムだ。頼む」


「あいよ」


 何もする暇がなかったので、俺はリョシンから受け取ったドロップアイテムと、床に落ちている分を無言で拾い集め収納していく。

 そしてそれが終わると次へと進むのだが、俺は思うところがあり、進む前にルキへと尋ねてみた。


「さて・・・ルキ」


「んー?」


「この先ってどう思う?」


「多分一狼が考えてる事と同じじゃないかな?」


「だよな」


 するとルキも俺と同じ様に考えていたみたいだった。

 しかしリョシン達には何の話か解らなかったので、彼らは俺達に謎の会話の真意を尋ねて来た。


「話が見えないが・・・何か凄い罠でもあるのか?」


「罠じゃない・・・ボスだ」


「つまり、終点ってことだね」


「成程・・・そういう事か」


 そう、この先からは今までの敵とは格が違う気配がするのだ。敵の強さや現在居る階層を鑑みるに、恐らくこのダンジョンの『守護者』、ラスボスだろう。


「んー・・・」


 ダンジョンの終点が見えたのならさっさと進み『ハイ終了』と行きたい所だったが、現在起きてから探索を初めて半日ほど経っていた筈なのでそろそろ一休みしたい時間になっていた。

 なので俺は考えた末に『ボス討伐は明日に回そう』と結論を出し、それを皆へと伝えた。


「うん」


「私達は一狼とルキ村長に従おう」


 すると皆から了解を貰ったので、ボス討伐は明日に回される事に・・・


「あ、ちょっとまった」


「ん?どうしたルキ?」


「御免だけど今からちゃっちゃとやっちゃおう。どうもまた村が襲われそうって連絡が来ちゃった」


「っふぁ!?」


 なりかけたのだが、ルキの発言により撤回となった。

 そんなルキの発言に『こんなダンジョンの奥でも届く便利なスキルがあるんだなー』と変な事を考えていると、その考えを見透かしたかのような事を言われてしまう。


「うん。便利なスキルだよー。んで、そのスキルが連絡を知らせて来たから、さっさと帰らなきゃいけなくてね。ごめんねー」


「心でも呼んでんのか?って、そりゃ大変だな!ボスとかイイから、直ぐに帰ろうぜ!」


「いいの?」


「勿論だろ!」


 エスパールキに驚いてしまうが、今はそんな事を考えている場合じゃないと俺は帰る事を提案する。するとリョシン達も『こちらはそこまで緊急でもないから行くべきだ』と言って来てくれたので帰る事に決定した。

 そうして決定したのなら即帰宅すべきだと、俺はチート移動をしようとレモン空間を開く。


「皆、レモン空間へ入ってくれ。実はこの空間を使うと・・・」


「あ、ちょっとだけ待った!」


 開くのだが、ルキが『ちょっとだけ待った!』とストップをかけ、そのままダンジョン奥へと走って行ってしまった。


「えぇぇえっ?」


 余りにも唐突だったので俺は思考停止状態に陥ってしまう。しかしエペシュがペシペシと叩いて来た事により再起動する事が出来たので、皆に声を掛け一緒にルキの後を追った。


「どこ行ったんだあいつ!」


「・・・ボス部屋?」


「そんなまさか・・・まさか?」


 ルキの向かった方へと走るのだが、その方向はボスが居るであろう方向だったのでエペシュの発言に『もしかして?』と信憑性を持たせてしまう。

 更に・・・


「いや、ルキ村長なら有り得る。彼女は意外と効率重視な動きをする時があるからな」


「え?つまり一回戻ってまた来るより、一気に終わらせて帰るって?」


「そうだ」


 ルキの事を俺達より知るリョシンの言により、彼女が本当に単騎でボス特攻しに行ったという線が濃厚になって来た。


「えぇ・・・大丈夫かよルキ・・・」


「ちょっと心配・・・」


「いや、ルキ村長なら大丈夫だと思うぞ?」


 リョシンは大丈夫だと確信しているようだが俺達はそこまで大丈夫だと思いきれず心配してしまう。

 なのでリョシン達を置いてけぼりにしない位の速さだが、なるべく急いでルキの後を追っていく。


「扉だ!って、やっぱ開いてる!」


 すると俺達の前に大きな扉が現れたのだが、その扉は既に開いていた。今までの傾向からするとこの扉の先にボスが居る筈なので、やはりルキは単騎で特攻したのだと言う事が解ってしまい、俺達は慌てて中へと入った。


「ルキ!」


 中へと入り声を掛けるのだが、返事が帰ってこないどころか、物音1つ帰って来ず俺は焦って・・・しまうより困惑してしまった。

 何故なら・・・物音1つ帰って来ないと言った様に、部屋の中には何もいなかったからだ。


「んん?」


「一狼、あれ」


 俺が首を捻っているとエペシュがある一点を指し示したのでそこへと視線をやると、そこには何やら物が散乱していた。近づいて確認してみると、それは魔石やら剣だったのだが、これはまさか・・・


『・・・ゴゴゴ・・・』


「むっ!?・・・これはあれか?」


 散乱していた物を見ていると突如ダンジョンが振動し始める。しかしそれは直ぐに止み、それと同時に奥にあった通路からルキが姿を現した。


「待ってても良かったのに来てくれたんだ。あ、これ取って来たよー!」


「やっぱりか」


 俺の考えていた通り、先程の振動はダンジョンコアをコアルームから出した時に起こる振動で正解だった様で、ルキの手にはダンジョンコアがあった。

 ルキはそのままダンジョンコアを俺に差し出してきたので、俺はそれを受け取りつつ話を聞いてみる。

 するとやはりリョシンが言っていた通り2度手間になるのが嫌だった様で取って来たとの事だったが、いきなり単騎で突っ込むのは心配するので止めてほしい。

 流石にこの先も同じことをされると寿命が縮みそうなので、俺は彼女へと『ボスを瞬殺できるほど強いのは解ったけど、心配になるから次からはなるべく一緒に行ってほしい』と伝えておいた。


「あー、うん。ごめんごめん。ボクって大体1人で行動してるからさ、そう言うの慣れてなくて・・・ごめんね?」


 するとしおらしく可愛い感じで謝って来たので、俺は逆に謝ってしまった。


「あ、いや。解ってくれればいいし、ルキは俺がダンジョンコアほしいの解ってるから取って来てくれたんだもんな・・・すまん。ありがとな」


「うんうん。解ってくれればいいのだよー、うん」


「ああ、すまん・・・ん?」


 そうすると何故か俺が悪いみたいになっていた。解せぬ。

 これが老獪なロリババアのテクニックかと戦慄していると、急いでいるのは本当だったのか、ルキがさっさと帰ろうと促してきた。

 俺としてもそれは賛成だったので、直ぐにレモン空間を開き、チート移動方を説明、実践する。


「え・・・凄すぎるんだけどこれ?」


「っふ、だるぅぉう?」


 ルキは流石にそんな未知の技があると思っていなかったらしく吃驚していたので、俺はやや巻き舌でドヤっておいた。

 しかしルキに変なマウントを取っている場合ではないと思い出し、ルキへと村へ行く様促した。


「俺もリョシン達をトゴヤギ村まで届けたらすぐに行くな」


「りょうかーい!ありがとね!んじゃ先に帰ってるから!」


 そうやってルキを送り出すと、俺はリョシン達にレモン空間へと再び入ってもらい彼らをトゴヤギ村まで運送する。


「着いたぞリョシン、皆!出てくれ!」


 今回は急ぎなのでエペシュも載せずに全力ダッシュでトゴヤギ村へと到着し、リョシン達をレモン空間から出す。

 その後は急いでとんぼ返りしなくてはいけないので、俺は挨拶もそこそこに去ろうとしたのだがリョシンに声を掛けられた。


「なんだ?今は聞いての通り忙しいからな。報酬とかは後で頼むぜ!」


「ああ、すまない。それはそうさせてもらおう。だが話はそれではない。一応言っておきたくてな」


「ん?」


「数日間一緒に過ごして解ったが、ルキ村長同様、お前も信用信頼に足る者だという事が解った。だから以前言っていた計画を皆へと前向きに勧めてみようと思う」


「何!?本当か!?」


「ああ」


 リョシンの話は、以前言った『様々な種族が集まる住処計画』を前向きに検討してみるという話だった。以前は話を出した時点で『否』と断じられたので、これはかなり大きな進歩だろう。


「実際に過ごしてみると良かったしな。何より・・・飯が美味い」


「お・・・おお。まぁ、良かったよ、うん」


 俺の頭の中に以前ルキが言った『魔族は大体美味しいご飯には弱いし力にも弱い』という言葉が思い浮かんだが、あれは本当なのかもしれないと実感した瞬間だった。


「おっと、勘違いしないでくれ?あくまで私はダンジョンを住処にする一狼が信用信頼たる者だったからこそ前向きに考える気になっただけだからな?過ごしやすい環境や飯はおまけだ」


「・・・っふ、解ってるさ」


「・・・本当か?」


 リョシンが『オレ クイシンボ チガウ』と言い訳をしてきたが、100%言い訳ではないと理解している。

 なのでちょっとふざけてみたが、何時までもふざけている訳にもいかないのでお暇する事にした。


「それじゃリョシン、俺はもうそろそろ行くわ。またな」


「ああ、今回は本当にありがとう!また改めて礼は言いに行くが、ルキ村長にも伝えておいてくれ!」


「了解だ!じゃ!」


 俺はリョシンへと挨拶をし、トゴヤギ村を出発した。


 そして全速力でルキの村へと向かったのだが・・・



「・・・なっ・・・これは・・・」



 ルキの村は・・・廃墟もかくやという様相へと変化していた。



 ------------------------------------

 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「ルキさん強すぎぃ!」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると ルキが ドヤ顔を決めてきます。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る