第243話 襲撃された村とわんちゃん

 扉が片方無くなり、防壁としての意味を為さなくなっている門。


 綺麗に整地されていた筈が、穴だらけで凸凹になった地面。


 しっかりとした造りだった筈なのに、焼けたり崩れたりしている家屋。


 あんなに素晴らしかった村はその様に様相をがらりと変え、起こった襲撃の凄さをありありと俺に伝えてきた。


「・・・っは!?村の人達は大丈夫なのか!?所々に血の跡はあるけど・・・」


 しかしそこには村人の無残になった姿は見受けられなかったので、『もしかしたら・・・』という思いもあり、それを確認する為俺はルキの元へと急ごうとした。

 だがその前にだ・・・


「『レモンの入れもん』!」


 俺はレモン空間を開き、ごぶ助、エペシュ、ニコパパ、それとゴブリン10人、コボルト10人程を連れて来た。


「「「・・・」」」


 ごぶ助達はボロボロになった村の様子を見て何とも言えない顔をしていたが、緊急事態だった為それらは押し殺してもらう。

 そうやって我慢してもらった所で、俺はごぶ助達に呼び出した理由を説明した。


「今からこの村の代表の所に行くんだが、それまでに倒れている人や家屋の中で苦しんでいる人が居るかもしれない。その人等を助けながら行きたいから、手伝ってくれ!」


 俺がそう説明するとごぶ助達は2つ返事で了承をしてくれる。


「ありがとう!じゃあ、始めよう!」


 そうと決まれば時間が惜しい。なので俺達は早速行動を開始する。


「ごぶ!誰かいるごぶ?」


「こっちは誰もいない」


「クンクン・・・がる、こっちから濃い血の匂いが・・・がる?誰もいないがる」


「こっちも誰もいないな。次!」


 俺達は村を捜索しながら取りあえず集会場を目指す。ルキの家へと向かってもよいのだが、何かあれば集会場の方だろうと思いそちらを目指す事にしたのだ。

 そうやって移動を続けていると、やがて集会場に来たのだが、集会場の方もがらーんとしていた。


「ふぅ・・・あ、一狼さんじゃありませんか」


 しかし無人という訳でもなく、集会場の中からレターユが出て来た。


「レターユ!何があったんだ!?村の人達は!?ルキは何処行った!?」


「わっ!?ちょ・・・ちょっと!落ち着いてください!そんなに詰め寄られたら話すモノも話せませんから!」


 なので俺は鼻と鼻がくっ付くほどにレターユへと詰め寄り、矢継ぎ早に質問をした。だがそんな事をするとレターユの言う通り話すモノも話せなかったので、俺は一旦離れてレターユの答えを待った。


「ふぅ・・・とと、のんびりしていてもいいわけじゃないので、移動しながら話しましょうか」


「ああ!それでいい!」


「では付いて来て下さい」


 レターユは何かをしている途中らしく、移動しながら話を聞くことになったのだが、結論から言うと・・・村人達は多少の怪我はあるモノの、全員無事だった。


「姉さんから聞いてるのかな・・・?まぁ、あれだけ一緒にいるなら話してもいいですかね?えっとですね・・・」


 レターユが言うには、なんとこの村には予知能力が使える者が居るらしく、そのお陰で全員避難する事が出来死者が出なかったのだとか。


「『村に襲撃がある』とか、『何処何処の村に襲撃がある』っていうのも、大体は予知出来ていたから救援が間に合ってたんですよね」


「ああ、確かに・・・」


 言われてみると救援へと言った際『救援を出す前に来てくれたんだな!』的な感じで迎えられたこともあった気がするので、俺はなんとなく腑に落ちた気がして納得してしまった。

 そうして納得した所で話の続きを聞いてみると、村人は無事だったものの迎撃自体は微妙な感じだったらしい。

 それというのも原因は2つあり、1つは最高戦力であるルキの不在だ。


「・・・すまん」


「ああ、いえ。居なくてもなんとかはなる筈だったので、謝らなくても大丈夫ですよ?姉さんもそれを知っていたから一狼さん達と行動していたわけですし」


 俺はその事について謝るが、『大丈夫大丈夫』と軽く流されてしまった。『こんな事になったのにそれでいいのか?』とは思うが、人死にも無かったのでそんな感じで言ってくれたのだろう。


「まぁ、運が悪いとこういう事もあるんですよ。今までもなかったわけじゃないですしね」


 そしてもう1つの原因なのだが、予知能力の不発らしい。

 この予知能力なのだが万能のモノではないらしく、見える時は大分先まで見えるのだが、見えない時は直前まで解らないとかもあるらしいのだ。


「本人曰く体調とか気分も絡んでくるらしいので、そこまで安定したものでもないんですよね。あ、村人達としては勿論物凄く助かってますし、こういう事になっても『何時も助かってるからね。ありがとう』という感じなので、本人に会っても何か言ったりはしないでくださいね?」


「勿論だ。つか、予知能力とかパナ過ぎだろ・・・」


「うむ。予知系能力はなかなか稀なのじゃ」


「ニアが言うなら相当だな」


「・・・吃驚したぁ。いきなり現れるのは心臓に悪いですよニアさん!」


「うむ。すまぬのじゃ」


 謝ってはいるが悪びれた様子はしていないニアにプリプリしていたレターユだが、目的地に着いたのか様子を切り替え中へと入って行く。


「あ、こっちです」


 レターユはその建物の中を勝手知ったる様子でスイスイと進み、俺達を案内してくれた。・・・まぁ、自分の家なので当然なのかもしれないが。


「忘れ物でも取りに来たのか?」


「いえ、忘れ物自体は先程取ってきましたよ?あ、こっちに秘密の通路がありまして、地下に避難所があるんですよ」


「へぇ・・・」


 幾度か尋ねて来た事はあったが、どうやらルキ・レータユ邸の地下には有事の際に使える避難所があるらしい。そして村人たちは今回、そこに避難しているとの事だったのだ。


「ただいま戻りました」


「お帰りレターユ!持ってきた?」


「ええ。最新版はこれでよかったんですよね姉さん?」


「ん~・・・そそ、これこれ。んじゃ、守備隊に手分けしてもらって確認していこうか」


 避難所へと到着するとそこはとても広い空間になっており、ベッドやイス、竈なんかも設置してあって避難所と言うよりは普通に住める家みたいな感じになっていた。

 そしてそんな中、ルキは人にアレコレ指示を出したりして忙しそうにしていた。


「ルキ、来たぞ」


 しかし声を掛けない訳にもいかないので、俺は彼女へと声を掛けた。

 すると指示の途中だったので、『少しだけ待ってて!』と言われた。まぁそうだろうとは思っていたので、俺達は大人しく待つ事にする。


「お待たせ!ごめんね、来てくれたのに。あ、ありがとね」


 そうして暫く待っていると、一旦間が空いたのかルキが話しかけてきたので俺達は互いの動きを話し合ったのだが、村に誰かいないか見て回って来た事を告げると非常に喜ばれた。


「いやね?さっきレターユに取って来てもらったのが村人の名簿でねー。今全員ちゃんといるか確認しているんだよー。念には念を入れて確認したい所だからね。助かったよ!」


 しかし村全域を見て回って来たわけではなかったので、『もう一回村を廻って確認してきた方がイイか?』と提案すると、即座に『お願い!』と言われたので、俺達は再び村の中を廻る事にした。

 しかし俺達が避難所から出て行く際、ルキから1つだけ忠告がなされた。

 それは『もしかしたら襲撃を掛けて来た奴らの残党が隠れているかも知れない』という事だった。


「一応ボクが帰って来てからざっと見て回ったけど、見逃してる可能性はあるからね」


 最初は一部の村人が反撃、後にルキが残っていた者達を殲滅したのだが、それも乱戦だったり急いでいたりで、敵が今だ何処かに潜伏し機を狙っている可能性が大いにあるのだとか。


「見つけたらやっちゃってほしいんだけど、いい?」


「ああ。けど前は見逃してたのに、いいのか?」


「いいよいいよ。前も言ったと思うけど、見逃してるのはあくまで面倒だったからで、今回の場合は見逃した方が面倒だからね」


「了解だ」


「ありがとー!あ、やっちゃったら死体は裏門の所に積んどいて!後でまとめて処分しちゃうから」


 それで言う事は終わったらしく、ルキは自分の作業へと戻って行ったので俺達もやるべき事をやろうと避難所から出て村を廻る事にした。


「2班に分けよう。エペシュ、ごぶ蔵とコボルト達を連れてあっちから回ってくれるか?俺はニコパパとゴブリン達を連れて逆に回っていく」


「うん。解った」


「ごぶ!」


 村を廻るにしてもこれだけの人数で一塊になっていると非効率だ。なので俺は人数を2つに割る事にした。因みにエペシュをリーダーに指定したのは、村に来たことがあるのがエペシュしかいなかったからだ。


「それじゃあ行動開始!ごぶ助、敵が出たら頼んだぜ?」


「ごぶ、任せるごぶ」


 しかし戦闘面ではごぶ助が何より頼りになるので、俺は別れ際ごぶ助に声を掛けておいた。

 それを終えると、俺もニコパパとゴブリン軍団を引き連れ行動を開始する。


 ・

 ・

 ・


「お、エペシュ達が見えたな。って事はこれで見回り完了か」


 あれから村をぐるりと回ったのだが、結局残された村人はいなかった。

 しかし・・・


「がる。ならこいつらを裏門に置いて来るがる」


「ああ、頼んだニコパパ」


 ルキが危惧していた通り、敵の残党が数人だけだがいた。

 と言っても俺やニコパパが居る場所を察知する事が出来たので、不意打ちなども喰らわずに安全に処理出来たが。


「そっちはどうだった?」


「村人0人」


「ごぶ。でも敵が5人居たごぶ」


 エペシュ組の方でも敵の残党を発見したらしいが、そちらも無事に怪我を負う事もなく処理が出来たらしい。


「うし、後は念の為ルキに確認すればミッションコンプリートだな」


 敵の残党も処理できたので、ミッションとしてはパーフェクトだろう。

 なのでさっさとルキへと報告に行くかと避難所へと歩き始めたのだが・・・


「がる!ボス!敵襲がる!」


「何っ!?」



 ニコパパの『敵襲!』という声が、村へと響き渡った。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」「予知能力だと!?」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。

 ☆や♡をもらえると ごぶ蔵が 明日の天気を予知してくれます。


 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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