第233話 ブタゴリラとわんちゃん
翌朝、出掛ける準備を済ませた俺はエペシュ、ごぶ蔵と共にルキの村へと向かった。
「おはようございます。中に入ってもいいですか?」
「おお、昨日の。おはよう。どうぞどうぞ、いらっしゃい」
村へと着くと門番の人へと挨拶をし、ルキの家だと教えられた建物へと向かった。
そうしてそこへと着くとルキも既に準備万端だったらしく、扉の横に背中を預けてぼけぇ~っと立っていた。
「おはようルキ」
「おはよう」
「おはごぶ!」
「・・・んぇ?あ、おはよー」
俺達が声を掛けると反応を示したのだが、ルキの声からは緊張の欠片すらも感じられなかった。・・・明日が戦争だと聞いたが大丈夫なのだろうか?
そんな心配を余所に、ルキは今日会議があるのだと言い俺達を近くにある建物へと案内した。
「ここ、村の集会場みたいな場所なんだよねー。お、皆いるね。おっはよー」
そこに入ると今日出席する人員は全員すでにいたらしく、丸いテーブルに5人の人が座っていた。
その中にはレターユや昨日会ったガインもいたので、俺は前足を上げて挨拶をしておく。
「やぁやぁ、それじゃあ始めようか」
ルキは早速会議を始める事にしたらしく、始まりを宣言した。そしてまずは数人に不思議な顔で見られている俺達の事を紹介することにした様だ。
「それでなんだけど、まずこの子達を紹介しよう。3人の名前は一狼、エペシュ、ごぶ蔵で、この子達は明日あるとみられる戦いに参加してくれる子達です!」
「「「おぉー」」」
ルキが俺達を紹介すると、その場の人達は俺達を歓迎してくれた。そうして口々にお礼を言われた後は、逆にルキがその場に居る人たちを紹介してくれた。
その場にいたのは前述したレターユ、ガインの他に、守備隊の隊長『ニカン』、後方で色々やってくれる婦人部の代表『シトラス』、そして今回有志で戦いに加わるらしい『マウロ』だという。
その場にいる全員が挨拶をしあい、それが終わると俺達はテーブルへと着いた。
「紹介も終わったところで早速本題にはいるよー?皆も知っての通りナババ村が戦争を吹っかけてきそうなわけだけど・・・・」
そうするとルキが会議を進行し始めたのだが、彼女は俺達が知っている彼女ではないみたいにしっかりとした様子で会議を進めた。その様子を見て、改めて彼女が『見た目通りの人物ではない』事を実感したのだが・・・
「・・・・・と思うんだよねー。あ、喉乾いたんだけど、ここってお茶とか無かったっけ?」
もう少しだけ緊張感は持ってほしいモノである。・・・まぁ、それだけ彼女にとってはこの戦いが余裕なモノであるのだろうが。
その証拠として、ルキは明日の戦いに作戦という作戦を言わなかった。彼女が言ったといえば・・・
「ナババ村のある方向にボクが先頭で陣取るから、守備隊や一狼達は適当に広がってて」
この様に、超適当な隊列のみだった。
しかし村の面々はそれに慣れているのだろう、『了解』と何も言わずにそれを了承していた。・・・それでいいのかお前ら。
と、そんな顔をしていたのでこそっとレターユが教えてくれたのだが、ルキはルキなりに良く考えているらしく、ナババ村の様に一方向しか来ないようなときは今の様に、全方向から迫ってくるときはルキが村に留まり守備隊を周囲に散会させる等、その場その場に沿った戦闘方法を言って来るのだとか。
口調が軽く凄く簡潔に言うために誤解しやすいが、ルキはやはり長く生きた強者だという事なのだろう。
「んじゃー会議終了ね。あ、何時もみたいに守備隊以外は明日の夜明け前にここに集合で!それじゃ解散!」
レターユと話している内に会議が終わったので俺達も会議場を後にするのだが、ここからどうしようかと迷ってしまった。明日敵が攻めて来るとは言っていたが、もしかしたら今日来るかもしれないので流石に帰る訳にはいかないし、どう暇を潰すべきだろうか。
そう考えているとルキがちょんちょんと俺の体をつついてきた。
「ん?」
「やる事ないだろうから、ボクの家に来なよ。おやつでも食べながらお話でもしてよーよ」
「ごぶ!賛成ごぶ!」
「賛成賛成!」
「お前ら・・・まぁいいが」
ルキはこの後の事を提案してくれたのだが、それに俺が答える前にごぶ蔵とエペシュが決めてしまった。
まぁ俺としても嫌でもないので、そうさせてもらう事にはしたが。
「んじゃーいこー」
「ごぶ!あ、お店寄っておやつの材料買ってくごぶ。ごぶがおやつ作るごぶ」
「お、いいねー」
ごぶ蔵の提案で先ずは雑貨屋に寄る事にし、その後俺達はルキの家へと向かった。
そしてルキの家へと着くとごぶ蔵が言っていた通りにおやつを作ったので、俺達はそれを食べつつ雑談へと興じ始めた。
・
・
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そんな緊張感のない事をしていた翌日、俺達は日が昇る前に起きてルキと共に会議場へと向かった。因みにレターユはルキと一緒に住んではいるのだが、昨日は守備隊の詰所で色々やる事があったらしく、そこから直接会議場に来るとの事だった。
「おっはよー。皆揃ってるー?」
薄ボンヤリとした明かりが灯っている会議場の前へと到着すると、すでにそこには多数の人が集まっていた。
といってもここに居るのは半数程らしく、守備隊の半分は偵察やら何やらでいないらしい。
「居るみたいだね。んじゃあ戦闘に参加する人は移動しようか。支援隊は何時もみたいにここに詰めててねー」
「「「はい」」」
「じゃ、行こう」
ルキはその場の面々に簡潔に行動を伝えると移動し始めたので、俺達もそれに習いルキの後を付いて行った。そうして皆でゾロゾロと移動して村から少し出た場所に着くと、各々木の陰などに隠れ始めた。
「ここで待ち伏せるから一狼達も適当に隠れてね。あ、敵が来る時は少し前に守備隊が教えに来てくれるから、そこまで気を張っていなくても大丈夫だよ」
「了解だ」
昨日の会議では言っていなかったとは思うが、待ち伏せをするのだという。どうやら直前まで隠れていないと『敵がばらけてしまうかも知れない』かららしい。
「ナババ村の奴らもボクの事は知ってるからねー。正面からは来ないんだよね」
敵もルキという強者の存在は知っているらしく、流石にわざわざ彼女の前に固まって来る事はしないんだとか。・・・まぁ結局はバレバレで待ち伏せされてしまっているんだが。
「ふふふ・・・ボクの村の者をなめちゃいけないってことさ。なんせボクが眼を掛けてスカウトした子達だからね」
ルキの『ボクの村の子凄い』自慢を聞いていると、俺の『索敵』に反応があった。そして『来たな』と思っていると守備隊の知らせも来たので、俺達は戦闘に備え始めた。
そうしてそのまま10分ほど待っていると小さく足音が聞こえて来た。・・・どうやらお出ましの様だ。
(さて・・・敵はソコソコ強いトンラ族が主体だと言ってたが、どんなもんでどんなやつらかなっと・・・お、来たな。『鑑定』)
名前:ピグー・マウンテン
種族:トンラ族
年齢:133
レベル:69
str:753
vit:716
agi:411
dex:603
int:182
luk:95
スキル:腕力強化・中 嗅覚強化・小 盾術 鈍器術 指揮
ユニークスキル:
称号:ダンジョン1階層突破
現れた敵を適当に選び『鑑定』を掛けてみると、そいつが件のトンラ族だった。
そんなトンラ族の外見は簡潔に表すならば『ブタゴリラ』。もう少し詳しく言うのならば、ブタの顔にゴリラの体といった感じのモノで、見た目はとても
だが
(他のも同程度だし、ルキが余裕がるのもわかるな)
他のトンラ族や、トンラ族に混じっていた他の魔族も『鑑定』してみたが、どれもこれも最初に鑑定した者と同程度のステータスだったので、推定強者のルキからすれば取るに足らない敵なのだろう。だからこそ近くで『お腹減ったなぁ』みたいな感じでお腹を擦っているルキの様子が理解出来・・・
(・・・いや、理解できんわ。緊張感なさすぎぃ!?)
いくらなんでも余裕過ぎだろうと、俺は心の中で突っ込んだ。
その突っ込みが聞こえた訳ではないだろうが、ルキはハッとしたあと俺を見て『てへへ』と笑っていた。
それに俺がヤレヤレといった感じで返すと、ルキは『ガーン!』といった感じになった。
だから彼女はその汚名を返上しようとしたのか、キリッとした感じに顔を変化させた後、隠れていた樹の裏からナババ村の者達の眼前へと飛び出した。
「まてーい!」
「「「!?」」」
「お前達!ナババ村の者だろー!!お前達がボク達の村へと戦争仕掛けに来てるのはお見通しなんだからなー!だがそんな事はさせない!返り討ちにしてやるー!」
まぁ・・・『ドヤ?』といった感じでチラチラとこちらを見ていたので、全然見直す事は出来なかったのだが。
と、それは兎も角だ・・・
「っは!村長自らお出迎えとはな!おいお前ら!俺達の事はバレてるみたいだ!」
「「「おう!」」」
「やっちまうぞ!」
「「「おうっっ!!」」」
ルキが姿を現した事により、いよいよ戦いが・・・
「かかってこーい!」
始まった。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
「面白い」「続きが気になる」「決まった(チラチラ」等思ったら☆で高評価や♡で応援してください。
☆や♡をもらえると ルキが 最高のドヤ顔を見せてくれます。
こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』
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